11. ベビーフェイスにリアル凸られ事案
― 前回のあらすじ ―
女神さまのお導きか、凶星の娘アストランティアのフィギュアをゲット!
睦樹の脳内妄想は、日常生活を侵食するほどだが、大丈夫なのか?
残り35分で、ブロードウェイ3階4階を探索するらしい!
階段を昇ると、残念なことに、三階はさらに寂れていた。
多くの店がシャッターを下ろし、閑散としている。
以前来てからこの数ヶ月で劇的な変化だ。店員さんの言うように、ここ四ヶ月のできごとなのだろう。
少し進むと、ちょっとほっとした。
さすがにまんだらけは残っていたのだ。多くの人で賑わっている。
トータルではそこそこ客足はありそうなのに、他の店はどうしたんだろう。
いや、まんだらけでさえ、ももしかしたら、店舗数が減っているかも知れない。
やはり万引きの影響なのだろうか?
八〇年代の古いコミックをちょっとだけ立ち読みしたあと、適当に歩いていたら道に迷ってしまった。俺ってそんなに方向音痴だったっけか?
そんなに広いショッピングモールじゃないのに、この建物は妙に迷いやすい構造をしているとは思う。
その上に、店が閉まってシャッターが降りているから、どこも見た目が似た感じになっているせいもあるだろう。
さっきから同じ場所を何度も通っているようで、実は違う所のようでもあり、少しばかり焦る。
こんなんで、隠世のダンジョンとか探索できるのか?
そのまま四階への階段が見つからず、うろうろしていると「キャハハハハ」と、少女の笑う声がした。
遠くからのように小さい音だが、ごく近くで笑っているような気もした。しかし、まったくの気のせいかも知れない。
「ビンボーなのか?」
「んー? なんのこと?」
「アストランティアはそんな感じじゃないし」
「はい、ボクは笑ってませんよ」
違うようだ。
こいつらの声が何でもないときに割り込むようなら、俺の妄想と現実の境界が、薄っぺらくなってきてるってことだ。
ちょっとゾクゾクするものの、その領域に踏み込んでみたいという誘惑にかられそうだ。
だがしかし、それはひとまず置いとこう。
ではどこから聞こえたんだろうと、キョロキョロしていると、数人の買い物客に混じって、何となく見覚えのある姿を見出した。
残念ながら、笑う美少女ではない。
ドジャースの野球帽を被った中学生くらいの少年だ。ほっそりとした体に、ハーフパンツが似合っている。
目がぱっちりと大きく、美少年というより、あどけなさの残る可愛い顔立ち。
いにしえの言葉で表現するなら、紅顔の美少年というやつだ。俺もなんで紅顔いうのか知らんけど。
そいつはその女性受けしそうなベビーフェイスで、ニッコリと笑いかけてきやがった。
思わず釣られて微笑んでしまいそうなその笑顔。少女漫画なら花でも背負って出てきそうだ。
しかし油断しちゃいけない。こいつは悪魔なのだ。
いや、その使徒だった。
那美と隠世のパル商店街を出ようとした時に現れたあの少年、現世で遭うのは初めてだが、まず間違いなく出花隼に相違ない。
こいつも一色あやのファンなのだろうか?
イヤイヤイヤ、そうじゃあるまい。
むしろ中野ジモティーで、ブロードウェイのゲームセンターにでも通っているのかもだ。
とにかく、今こいつに関わる暇は無い。
俺はおざなりに手を振って、その場を離れようとした。
しかし……
「ちょっとお兄さん!」
しっかりタゲられていた。
それでも無視して歩いていると……
「えっと、犬養……睦樹さんでしたっけ、お兄さんの名前」
なぜこいつが俺の名を知っている。
那美の恋人と俺を呼んだ以上、こいつも俺を相馬吾朗と思い込んでたんじゃないのか?
そんな疑問が頭を過ると、どうにも気になってつい足が止まる。
その間に幼き悪魔の使徒は、すぐ俺の横に並んだ。
「昨日の意趣返しですか? せこい真似しますね?」
「何のことだい?」
しゃあない、ちょっとだけ付き合ってやろう。
現世ではただの中坊でしかない。
何か仕掛けて来るってわけはないだろう。
「じゃあ国津の第三使徒が、何しに中野までやって来たんですか?」
「お前には関係ない話だろ」
一色あやに会いに来たとか、死んでも言いたくないわ。
「それが関係あるんです。だって、今ではここは、僕のシマなんですよ」
「シマ?」
「僕はそういう馬鹿のフリする奴って一番ムカつくんですよ、マジで。だから、素直に答えてくれませんかね?」
「イテテテテ!」
ガチで仕掛けてきやがった、この中坊。
隼は俺の耳を思い切り引っ張り……
「何しに中野に来やがったんだ――テメエ、シメるぞ!」
耳元に囁き声で恫喝した。
俺は手を振りほどこうと掴むが、この中坊なかなか握力が強い。
「ちょ、待て、タンマ!」
「超シリアスな話、ここは僕が死守しますよ。だからアンタが下手なちょっかい出したら………マジでぶち殺すぞ」
最後は押し殺した声で言い放つと、やっと俺の耳を解放する。
「オイオイ、ぶち殺すとかほんと物騒なガキだな。俺は野暮用でブロードウェイに来ただけだ。それにお前に言われたせいじゃないが、装備も買い換えようと思ってな。お前悪魔族なら、ショップ使わせてくれる許可くれよ」
「ショップなら新宿の方が充実してますよ」
「だからついでだって。俺はリアルの中野に用があるんだよ」
「マジでか…………」
隼は疑い深く至近距離から俺を注視する。
可愛らしい顔つきが真剣そのものだ。
それは鮮烈で美しくさえあると感じてしまった。
しかし、その異常なまでの気迫から、こいつはガチになったら何しでかすか分からないだろうという、そら恐ろしいものも同時に感じる。
隠世で出会ったら、確かにやっかいだというのが想像できた。
那美が強く警戒していただけある。
「ああ……! そうだった!!」
「ああん?」
「うん……そういうことだよな……」
突然大きな声を出したあと、独り言モードに移行した俺に、不審がる目を向けてくる。
そりゃ変に思われてもしょうがない。
俺の内部で起きた変化など、こいつは知る由もないからだ。
会話中に悪いが、突然俺は、相馬吾朗の記憶を思い出したのだ。
もともと中野は国津神族が支配していたのを。
それを今年の五月に、悪魔族に奪われた顛末を。
そして、それ絡みのさまざまなできごとを、思い出していた。
そして神族間の抗争がなぜ起きるのかという本質的な問題も、突然降ってきたように思い出し、理解したのだ。
中野の戦いには、吾朗も那美もほかの国津神の使徒たちと共に参加していた。
位階四位、巨魁の新渡大地、六位の焰匣鈴美を含めて四人だ。
対する襲撃側の悪魔族使徒には、確かに眼の前のこいつもいたし、悪魔族のすげえ美少女も居た。
彼女に関しては記憶に霧がかかったように曖昧で怪しいが、たぶん黒衣の使徒だ。
他には、仙族使徒のツインお団子ヘアの女子と仲良かった、赤髪のキレキレのこれまた美少女が加わり、三人。
俺たちは見事な連携プレーで勝利は目前だったが、最後に逆転された。
途中からあの教授が参加したのだ。
悪魔第一使徒、澁澤耶呼武が召喚した強力な悪魔どもが襲ってきた。
善戦虚しく、結局援軍が間に合わずに敗退したのだった。
そうだった、なんで吉祥寺で思い出せなかったんだ。
……ああ、そうか、中野で教授とは直接対面してないからだ。
教授が召喚した悪魔と戦っただけで、教授は戦場に現れていない。
確かこの戦いで第四使徒の大地が倒れ、その後連絡がつかない。
かなり心配だ。
そしてこの敗戦によって、いったい何が起きたというのか?
わっしゃあ、何を言えばええんかのぉ? なにぃ?
……ここまで、よんでいただきありがとうございます……
おきにいり、ぶっくまーく、ひょーか、えすえぬえすでのかくさんなどいただけると……って何のこっちゃかね?
ごかんそうをいただけると、だいしきょうのしゅくふくがさずけられますっと……こんでええかね?
※ ※ ※ ※
出花準を放置して、自分の思索に走る睦樹だが
準が激ムカついてないか心配な事案
次回12話は、令和6年9月26日公開予定!




