8. 腐れ縁の幼馴染
― 前回のあらすじ ―
寂れてしまった中野ブロードウェイの二階を探索する睦樹
現世なのに見えない霊的なものからの攻撃を受ける
反撃の手段がなく、逃げ出すしかなかった
ヤバイ場所から離れてみれば、二階フロアは最初の印象とは違ってみえた。
どこも閑古鳥というわけではなく、ちゃんと営業していて、けっこう賑わう一角もあったのだ。
昔ながらの飲食店はみんな残っているし、マニアックな店も数店営業している。
なぜか金や高級時計を売る店が目立つようになっているのが、場違いな感じだ。
邪悪な霊の悪影響は、ごく短い距離にしか及ばないってことだ。
やはりマイ[賢者]様の地縛霊判定は正しかったようだ。
しかし、他にも地縛霊みたいなモノはいるかも知れない。
感覚を研ぎ澄ませて探索しよう。
ライブ開始1時間前に戻るとして、残り時間はおよそ50分。
少しくらい寄り道はいいだろう。
俺のささやかな趣味であるフィギュアをチェックするくらいは、国津神々もお許しになられるに違いない。
[賢者]様も、「告:その程度は許可します」とスキル[一般常識]で判定してくれた。
50センチ平方くらいの立方体のアクリル・ショウ・ケースが幾つも積み重ねられ、そこにいろいろなフィギュアが陳列されている。
これは委託販売の形式で、個人がそれぞれのケースに出品しているのだ。
さまざまな個性あふれる小さなお店が、たくさん軒を並べるような楽しいスペースなのだ。
スヌーピーだけ出品してるケースもあれば、ペプシの蓋についたフィギュアを集めている店もある。
他にもガンダム系とか、ワンピースとか、スターウォーズとか鬼滅とか、ケース店主の趣味の美少女系とか……そうしたテーマのはっきりしたケースが多い。
雑多にいろいろ入ったケースは、逆に出品者の個性がにじみ出ていたりする。それだけその人の「好き」が集められているのだから。
今はガッチガチの超金欠なので買いはしないが、見るだけなら永久に無料体験ができる。
それでもそこそこイイ感じの作品に出会うと、つい手を出したくなるのが人情ってもんだ。
どうにかして[賢者]様を沈黙させることに成功すると、500円代までなら出してもいいぞという、[太っ腹くん]がムクムクと育ち始める。
もちろん500円超で太っ腹と、一瞬でも思ったことへの自嘲の念はある。
そして駐輪場の代金100円を取っておかなきゃならないことも思い出す。
(やれやれ、貧乏ってのは腐れ縁の幼馴染のようだぜ)
「ねえ、ムッキー……」
なんか呼ばれた気がする。でも、気のせいだ。
「ムッキーキー?」
その声はもしかして……
「ムッキーったら、聞いてんの? 今月のお小遣いの残り、幾らだと思ってるの?」
こいつは俺の脳内妄想回路に取り憑いた、幼馴染設定の赤貧赤髪美少女の貧乏神らしい。
幼馴染っていうからには、ずっと幼少から居たんだろう。
実際俺の小遣いがリッチになった記憶はないので、本気でこいつのせいかと思うとかなり迷惑な話だ。
「ねえってばー」
まあ、少しは相手してやるか……。
「っさいなあ、2500円くらいだろ?」
「ブッブー! 甘すぎるねムッキーったら。1687円だよ、せん、ろっぴゃく、はちじゅう、ななえん!」
俺は「うるせえ」と、言い返すことさえできずに蒼くなる。
「クソ……マジかよ……詰んだな俺」
「マジもマジ、大マジで詰んだよ」
「お前まで詰んだとか言うなよ。なんか世界が終わりそうだ」
俺は頭を抱えて、絶望のポーズとかしてみたりする。
「そう、かもね……世界終わっちゃう~」
「……なあビンボー、お前と俺って、ただの幼馴染なのかな?」
「え? ムッキーとあたしが? 幼馴染じゃなかったら、なんだっていうのさ?」
俺はビンボーの手を取って、その瞳を覗き込む。そこには青い深淵が広がっていた。
「もしかして、運命とかって信じるか?」
「あたしは信じない。運命なんて、肉まん食べたときにぃ、餡が入ってるとこを齧るか、無いとこを齧るかってくらいの差にしか過ぎないっしょ?」
「え? なんか良くわからんけど、俺はお前が、俺の運命の人だって感じるんだ」
突然の言葉に彼女は頬を染め、どうしていいか分からない腕を、腰の後ろで組んだ。
「だったら……そうなんじゃない?」
ぼそっと言うと、ぷぃっと、向こうを向いてしまう。
「運命……だったら、どうするの?」
「お願いがある」
「言ってみなよ」
彼女が振り向く。
「ちょっとだけでいい、金貸してくれないか? 1000円、1000円だけでいいんだ。必ず来世で返す」
「はぁ~~? 何言ってんの分けわかんないっ! あんた、馬鹿なの死ぬの? あたしを誰だと思ってるのさ? 幼馴染のビンボーだよ? あたしが貸せるワケないじゃん!」
「な、なんでだよ……」
「あたしがあんたにお金貸したら、あたしはあんたのビンボーじゃなくなっちゃうでしょ!」
「そんな……ことなのか?」
「もう……ほんとムッキーはアホアホまみれのボタ餅野郎なんだから。早く、ママンと仲直りすることね」
「なんだよ、ママンって」
「あんた、カミュとか好きなんでしょ? ついでにカフカも」
「まあな、でも自分の母さんをママンとか呼ばねえ」
「呼んでみたらいいじゃん、『ママン、オ・コジュカイ、ドークァ、クドゥア・シャーレ?』とか言ってみれば、笑ってくれるかもよ?」
「アハハハ……それ、いいかもな……アハハハ、アハハハ……」
金ガ無サ過ギて、脳ガドウニカシテ・シマッタようだ。
どうやら現実に戻ってきた俺は、出品された一番奥のガラスケースを覗いていた。
それは、偶然が自然を装ってもたらした奇貨だった。
秋の海の砂浜で運命の再会いを果たした、失われた指輪を手に取るように。
「これだ……、この娘だ、めちゃ尊みが過ぎる……」
俺の目は、とあるアニメキャラの少女フィギュアに釘付けになった。
今年の春アニメで俺イチオシだった作品のサブ・ヒロインなんだが、とても健気でダークで超絶イイ娘なのだ。
凶星の娘アストランティア――人嫌いで警戒心が強い割に、思い込んだら一直線のとんでもない行動力の持ち主だ。
そしてめちゃくちゃ強くて凶暴だけど、自分自身にまるで自信がない。
防御力は低いくせに、主人公のために盾になって、必死に耐えてからのド派手な反撃を繰り出す。
そんな超萌え萌えズッキューン・キャラなのだ。
この姿はバトルシーンで変身して装着する、攻殻装身バージョンだ。アニメでもこの変身シーンが良く出来ていて、YouTubeでもUPされて海外でも話題になったようだ。
小さいながらもフィギュアの出来映えは素晴らしく、ポーズはもちろん、攻殻装身と肌の露出部のバランスが、絶妙の微エロ感を醸し出している。
顔の塗りも実に丁寧にできていて、その無表情がゆえに切々たる想いを何か、俺に語りかけてくるかのようだった。
「これは買うだろう俺……絶対買いだ」
俺の持てる全てを投じてでも、この娘、凶星のアストランティアをゲットするしかない!
ゲッゲッゲ・・・いつも読んでクエてるみたいだね
ほんとに、どうもありがとうだよ、ゲコ
お気に入り、ブックマーク、評価、SNSでの拡散とかも、してクエると感謝だね
感想は、ボクのことをもっと出すように書いてクエるとうれしいな
だって、それだけ姫が、ボクに気がついてクエる可能性があるだろ・・・ゲッゲッゲ
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睦樹の持てる全てとはいったい?
凶星のアストランティアを手に入れることは出来るのか?
次回9話は、令和6年9月23日公開予定!




