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6. ヲタクの帝国

― 前回のあらすじ ―


  澁澤耶呼武教授に敵認定されたのか?

  一色あやに近づくなと言われたが

  そんな警告には聞く耳を持たない睦樹であった

 同じルートでも、帰り道はやや下り坂が多く楽だった。

 それでも汗は消えはしない。自宅でシャワーを浴びて、麦茶で一休みしてから出発。

 のんびり走っても、あっと言う間に中野に着いた。


 駅前から北側に伸びるアーケード、サンモール商店街の突き当たりに中野ブロードウェイがある。

 これは道ではなく、建物の名称だ。

 昭和の高度成長期に出来た古い建物で、高級マンションと商業施設が一体となった日本で最初の試みである、とかなんとか聞いたことがある。


 俺は自転車を一日百円の駐輪に停めて、サンモール終点の細い脇道から入っていく。

 今の俺には、この百円さえ出費として痛い。


 人混みにはちょっと萎えるが、吉祥寺ほどではない。ここはガマンだ。

 これからライブなど見に行ったら、キモヲタどもの肉の壁に埋もれる覚悟をしなくちゃならない。


 あ、俺もその仲間だった。


 こうなりゃみんなでキモヲタ合神して、神をも越える存在になってやるってのはどうだ?!


 ふむ、俺達ならできそうな気がする。


 ヲタなら基本スキルとして妄想を得意とするだろう。

 その無駄な妄想力を互いに共鳴させ、驚異の複数合体を遂げる……。


 イヤイヤイヤ、さすがにヴィジュアル的にキツすぎるんだが(笑笑笑笑)


 ではこうしよう……脳が互いにリンクし合い、スーパーコンピュータのように高速演算能力を可能とし、人智を超えたプルスウルトラ知能を有するに至る!


 いい感じだ……さあ、世界を改変する、超神的存在を目指そうではないか!

 そして今までヲタクを馬鹿にしていた一般人(パンピー)どもを支配し、ヲタクの帝国を築き上げるのだ!!


 革命の戦いは、人知れず始まっていた。

 そして人々が気づいたときには、もう手遅れだ。

 すでに世界はヲタクの帝国に支配されていたのだった。


 支配方法としては……やっぱり武力はいかんね。

 基本的にはマインド・コントロールだな。


 まずは、ヲタク帝国に逆らうと、脳内に侵入したナノマシンが脳を破壊するという虚構を信じさせる。

 さまざまなメディアをハッキングし、そうした情報を流布させるのだ。


 超知能が生み出す科学力をフルに活かし、裏では実際に殺人ナノマシン、キラーくん初号機を完成させる。


 抵抗勢力のリーダーに仕立てる奴にだけ、予め初号機を仕込んでおく。そこそこ著名な反体制派ジャーナリストがいいな。


 そいつが反旗を掲げ、TVの生放送でナノマシンなど嘘だと国民に呼びかけているそのときに、脳破壊コマンドを発令する。


 惨たらしいリーダーの狂死実況放送は、お茶の間を恐怖に凍りつかせる。彼は死ぬことで、またとない広告塔になってくれるのだった。

 世界支配のために、必要最低限の犠牲といえよう。南無南無……。


 リーダーくん、君の死はけっして無駄にはしない!

 それは世界恒久平和のための、(たっと)(いしずえ)となるであろう。


 同時に世界中の中枢人物の脳には、ナノマシンを侵入させている。

 ナノマシンは近くにまで運べば、あとは遠隔操作で取り付き、鼻とかから侵入させればいい。

 独裁政権のトップとかには、是非とも見せしめになってもらおう。

 実際に感染させていないトップたちにも、感染させたことを知らせる。


 さらに体制側に入り込み、ナノマシン・キラーの開発を立ち上げる。

 それは脳破壊ナノマシンを殺すナノマシンだ。


 ナノマシン・ワクチンとして、世界中のセレブが高額で買い求める。

 しかし、そいつのコマンドも書き換えてしまっているわけだ。


 こうして、量産型キラーくんに感染した、我々に逆らえない人間が一気に増える。

 しかも彼らは今まで世界を支配していた、大富豪や権力者たちだ。


 かくして、世界は新帝国の前に膝を屈するのであった!


 帝国の名は、モエ、ロリ、ロボの三文字の頭を取ってモロロ帝国としよう。

 我らはそこで人類ヒエラルキーの頂点に立ち、愚民どもを遥か高みから睥睨(へいげい)することだろう。


『この現実(じべた)ばかり見て這いずりまわる地虫(ワーム)どもめ! 嘆くが良い! 貴様らが信仰する金にもキャッシュカードにも、すべてナノマシンの毒が仕込まれた。これらに触った者はすべて感染している。感染した者に触れた者も感染している。抵抗を諦めよ。さあ、崇高なる絶対的妄想渦(ハイネビュラス)の前にひざまずけ!』


 帝国の初代皇帝となった超神ヲタク共鳴体である俺たちは、酷薄な笑みを浮かべながら、そう宣言する……。

 こうして世界からは戦争が無くなり、貧困問題も解決するのであった……。


 なーんて、どうにもこうにもしょーもない妄想をしながら歩いている内に、中野ブロードウェイの一階である。


 名前の由来になった、広小路(ブロードウェイ)――早稲田通りに抜ける通りに出た。

 といってもしょせん建物の中の通路だし、昭和の日本人は小さかった説を裏付けるかのように狭い。


 すでに一階に縄張りが張られ、そこが立ち見の観客席として確保されている。

 二階の渡り廊下に、小さな特設ステージが作られるようだ。


 周りには照明やらスピーカーやらがセッティングされており、その下には熱烈なファンが、すでに十数名ほど陣取っている。


 野郎ばかりじゃなく、女子の姿もけっこう見える。

 皆が皆、あやのコスチュームに合わせ、ゴスロリでばっちり決め込んでいるおり、けっこう可愛い子が多い。


 俺は何気ないふうを装い近づいていった。

 服装もいたって地味であるし、ただの通行人(モブ)にしか見えんだろう。

 あや親衛隊ともいえる彼らにとって、俺など視界にすら入ることはあるまい。

 究極のステルス・パッシブ・スキルである。


「そういえばさぁー、先週のコス・パレードにも、あや様降臨されてたよね?」

「いたいた! オレかなり近くで見たぜ! もう超透明感でまくりで尊みすぎて死ぬ!」


 女子と至近距離で会話するなど、キモヲタの風上にも置けん!

 と思って見ると意外と、小洒落た格好をしたイケメンじゃないか。


(このリア充め、国津神族第三使徒が命ずる。即刻爆散せよ!)


「ふ~ん、あやさんって、コスとか何か関連あんの~?」


 と、別の女子も会話に参加。なんだ、ベタなカップルじゃないのかも?


(フン、国津神族は寛大である。今日のところは大目にみてやるとしよう)


「なんか元々アニメとかゲームとか超好きで、帰国後は中野とかよく来てたってよ。ジモティーのオレでも見たことないけどな!」


「別にヲタ系と絡めなくたって売れそうだし~、ちょっと意外~」

「拙者としては、いっそアニソンとか歌って欲しいでござるよ」


 お、かなりオタクっぽいけど耽美に決めてる奴が参戦。ガンバルでござるよ。


「ソレな! アニソンはけっこう歌上手(じょうず)くないとだし、その点あや様は……」

「超うまいもんね! そこがアイドルっぽくなくなくなくない?」


 ないのか、なくないのかどっちだ?

 ええっと……たぶん、ないんだろう。

 そうかなのか? アイドルってのは歌が下手なもんなのかい。

 あまり他のアイドルとか、真面目に聞いたことなかったからな。


「今日のあやの衣装何かな?」

「サキュバスたんキボンヌ」

「キボンヌとか、もう死語じゃね?」

「通じている以上は死語ではござらぬよ」

「でも~、フツーにブリュンヒルデでくるんじゃないかな~」

「ブリヒ、チョー好きー!」


 開演までまだ二時間以上あるのに、ファンってのは熱心だ。

 もしかして俺より暇なのかも知れない。


 しかし、ずっと彼らと一緒に待ち続けるのを可能とさせる、ストロング・スタイルのハートは持ち合わせていない。


 それに俺にはもうひとつの目的がある。

 吉祥寺では失敗した隠世のゲートを見つけるという使命(ミッション)だ。


 夢の記憶だと、ダンジョンがブロードウェイ内の構造にかなり近い。

 なので、吉祥寺のだだっ広いアーケードや駅ビルなどより、よほど見つけやすいと思うのだ。


 一時間で戻ればいいだろう。

 もしゲートを見つけて探索となったとしても、隠世での時間経過は極めて遅いはずだ。

 今日のスケジュールでは、本格探索はライブのあとにしている。まずはちょっと偵察して引き返すつもりだ。


 万が一悪魔族の使徒と遭遇しても、澁澤教授の名前を出せば、なんとか誤魔化せないだろうか?

 それでもダメなら、とっとと逃げる。戦いながらも逃げる。これで行こう!


 俺は、ワクテカしているファンたちから離れ、二階への階段に向かった。


常々読了頂戴仕ること、真に有難き幸せナリ

お気に入り、ブックマーク、評価、SNSでの拡散頂ければ益々善きナリ

ご感想もいただけると善きこと弥増すナリ


 ※ ※ ※ ※


中野ブロードウェイで、隠世ゲートを見つけることができるのか?


次回7話は、令和6年9月21日公開予定!

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