1. 目覚めのメガロ・ニュース
令和6年9月15日公開 第12章開始!
― 前回のあらすじ ―
隠世で目覚めた相馬吾朗
付き従う鹿屋野比売
新章は犬養睦樹の朝から始まる
その日はちゃんと人間らしく午前中に起きて、ニュースのチェックから始めた。
メガロ・ニュースを見ながら、いつもと変わらぬクリスティーヌの美貌と聡明を愛でる。
昨夜起きた近所のあの出来事は、もちろんニュースには取り上げられていないが、商店街の暴走事故の続報が入っていた。
「重態だった二五歳の男性は、十日未明病院で死亡が確認されました。事故の前日、亡くなった尾崎幸平さんは、事故を起こした運転手の男性に、高円寺商店街の路上で脱法ハーブを売った疑いがもたれていますが、警察では本人死亡に伴い起訴を見送る方針です。これでこの事故で亡くなられた方は三名になりました」
コメントをチェックすると、やっぱり同情の声はまるでなく、非難や因果応報といったものが目立つ。
ドレッドヘアの痩せたヤツとか、切れると叫ぶ変なヤツといった書き込みもあり、昨夜隠世で戦った男と重なってどうにも気になる。
類友で似た感じのが集まるとか、影響を与え合って似てくることもあるのだろう。
脱法ハーブもそうした奴らが集まって、組織的に売っているに違いない。
昨日の逮捕動画をここにUPしてみたらどんな反応があるか試してみようと思って、スマホのデータをチェックするのだが、なぜだか見つからない。
「おかしいな……」
間違って消しちまったのかと、TReE を探しても、You Tube にUPされたものを探しても見つからない!
脱法ハーブの画像は残っているのに。
いったいどうなってるんだ?
内容が超ヤバイからって消されるほどのレベルじゃないだろうし……犯罪者の人権を守るために消されたんだろうか?
それでも俺のスマホの画像ファイルまで管理され、データが消されるなんてことがあり得るのか?
確かにそれは技術的には可能らしいが。
ハッキング・アプリが潜まされているような怪しいデータをダウンロードした記憶もないし、そんなサイトに飛んだこともない。
となると、キャリアのレベルでデータを抜いてるってことなのか?
いくらなんでも、そこまでやるとは思えない。
「あ、もしかすると……」
どうやらスマホの画像データはクラウドで管理されているようだ。
ならばあり得ないことはないが、そこまでするだろうか?
日常世界の裏には信じられないような事が潜んでいるってことは、昨夜存分に思い知らされたが、たかが売人の逮捕シーンが即行消されるほどのこととは思えない。
俺がそんな風にしてあたふたしている間にも、クリスティーヌは続けてニュースを読み上げていく。
オート・モードにしていたんだった。
魅惑のアルトヴォイスが、いくつかのトピックスを読み上げた後……
「動画サイトから登場した人気急上昇中のアイドル、一色あやさんのシークレット・ゲリラ・ライブが、本日都内某所、サブカルの聖地で行われます。正確な場所と時間は公式サイトを探索して見つけてくださいとのことです。握手会もありますので、ファンの皆さんには楽しみですね」
さすがメガロ・ニュースなのだ。
ほかのニュースをチェックしてみても、この情報は一切出ていなかった。
デビュー前からメガロ・ニュースでは一色あやに注目していて、何度も取り上げていたから、裏のつながりが強いのだろう。
やっぱり彼女――一色あやは近ごろ最も気になるキャラクターだ。
俺たち仮想市民(死語)が育てたってだけじゃない。
何か特別なものを持っている。
まず第一にして絶対条件である、その美貌だ。
非の打ち所のない超絶美少女であるがゆえに、ただそれだけでも全き正義の十分条件を満たしている。
ネットでは、性格が捻切れ過ぎているだの、度し難い奇行だの、持たざる者の嫉みから生まれたと俺さま明察するところの噂が囁かれているが、仮にそれらがすべて本当だとしても瞬殺で許せる。
この俺が、すべて許す。
第二には危うさを伴う妖しさだ。
彼女はただの可愛い系美少女というだけでなく、なんとも名状しがたい妖しさも漂わせているのだ。
まだあどけなさの残る微笑みの中に、謎めいた問いかけが秘められている。キラキラ輝く瞳にも、深淵を覗き込んだ者だけが宿す暗い翳がうかがえるのだ。
第三に抜群のインテリジェンス。
彼女どうやらかなり賢いようなのだ。
さらに帰国子女ということで、英語フランス語が出来る上に、常識が日本的じゃなくワールドワイドだ。
Xとかの発言も、まだ高校生だというのにすごく自分自身を持っていて、俺なんかよりよっぽどしっかりしている。
凡百のアイドルとの差は歴然である。
そしてメジャーデビュー後も、まったくその雰囲気は変わっていない。
未だにマスゴミに対しても、けっこう毒ある発言を平気で吐いている。
干されないか、こっちがひやひやするくらいだ。
要するに一色あやは、俺達が待ち望んでいた、まさに“その娘”―― This is the girl なのだ。
さらにそれだけじゃなく、実力派でもあるのが凄い。
何より声がイイ。
歌声に伸びがあるし、音程もまったくブレない。
そうした基本がしっかりした上に、プラス何かがあるのだ。
俺はそれが何かをうまく言えないのだけど、とにかく心を惹きつける。
じっと聞いていると、なぜだか切ない気持ちになってしまう類の声だ。
ついでに踊りもキレがあってなかなかのもんだと思う。
なぜついでなのかといえば、ダンスなんか、俺には良し悪しがたいして分からないからだ。
とにかく彼女は、ウルトラ・レア・キャラなのだ。
アイドルのプルス・ウルトラだ。
なにもかも飛び抜けている。
その癖俺たちのようなオタクの方を、いつも向いてくれている。
逆にオタク以外のパンピーを、軽蔑している空気さえ漂わせているのだ。
例えばこうだ。
[自分の趣味に打ち込んでる男の子って悪くない。それが二次元だろうとゲームだろうと、ワクワクする別の世界を、リアルワールド以外にもう一つ持ってるってことだよね]
[現実だけしか見てない人って魅力ない。それって心を無くすトラップにかかってるってこと]
ウルトラ美少女アイドルにこんな発言されたら、俺たち自宅警備員どもは、ぐっと胸を鷲掴みにされて、軒並み虜になるしか無いだろう?
俺が彼女に出会ったのは一年半前だったか、たぶん高三になってすぐだ。
ボーカロイドの有名な曲の“歌ってみた”とかを You Tube で見つけたのがきっかけだった。
一発でノックアウトされた俺は、その後ヘビロテで聞いていた。
その後矢継ぎ早に“新曲”を歌っていたと思ったら、あれよあれよという間に有名になってしまった。
ちょっとだけ置いてかれた感を噛み締めつつも、未だ陰ながら応援し続けているのだった。
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一色あやはどうやら無事
そのライブはどこでやるのか?
次回2話は、令和6年9月16日公開予定!




