8. 妄想と隠世
令和6年9月11日公開
― 前回のあらすじ ―
スマホが便利な手帳になってステイタスを確認
スネコスリのミナイブキで、シンも自分も回復した
改めてヤドゥルに隠世の法則を学ぼう!
「臣と召喚とエーテルに関して、ご説明するのですん。
封魔したばかりの臣は倒された状態なので、ほとんどエーテルが無いのですん。だから召喚に事足りるよう、本来の半分のエーテル・パワーは主さまが供給しますの」
やっぱりな……。
「主さまが現世に帰り、ちゃんとお休みになると、臣たちにもエーテル・パワーが行き渡りますん。主さまのエーテル・パワーは、現世でふつうに生活しているだけでも、肉体が生み出しますの。よく食べ、よく眠れば、とってもよく回復しますん」
「なるほどな、そういうわけか」
となると、現世に戻っていないとしたら、那美はどうやってEPを得ているのか気になる。
EP回復手段がないまま、もし超常の者に襲われたらどうなるんだ?
まさか武器も無しで、ハマりバグみたいになって結果死亡とか無いだろうな。
イヤイヤイヤ、そんなことはありえない!
ぜったいダメだ!
使徒としての力を取り戻せば、きっと彼女なら遅れは取らないだろう。
何せ振蒼死手だ。
あんな重い地蔵様も、ぶん投げた女だ。
彼女なら、いざとなれば何だって武器にして戦えるに違いない。
そうあって欲しい!
切に願う……だがしかし、今の俺には何もできないのだ。
ほんともどかしいし、自分がふがいない。
彼女を助けるために探索するにしても、俺たちはまだ弱すぎる。
出来ることを積み重ねて、一歩ずつ近づかなくちゃならないのか?
まずは、俺とシンたちのEPを、もう少し回復しておこう。
「スネコスリ、もう一度頼む!」
「マかセルすりー」
結局ぜんぶで四回も【ミナイブキ】を使わせてしまった。
お陰でだいぶ痛みも疲労も回復して、俺のEPゲージはグリーンだ。
しかしスネコスリの方のAPは、底をついて赤くなっている。
こいつだけに頼らないようにしよう、別の回復手段も持っておかなきゃだ。
俺は自分のステイタス画面から、今度はアイテムらしいアイコンをタッチした。
すると装備中の槍は【蜻蛉切】という名であることが判った。装備種類は【魔槍屠龍】であり、何やら凄そうだが、吾朗がそう呼んでいたのを今さら思い出す。
それ以外には、銀緑の葉の絵が表示されている。名前は【未確認キップル】とある。
「ヤドゥル、キップルってなんだっけ?」
「現世から持ち込んだ変化の判らない品物や、トレジャーが現世で陳腐化したときの姿ですん。ヤドゥルが現世で姿を変えた、可愛いお人形さんもキップルですの」
あれが可愛いって感覚なのかヤドゥル。お前は不気味ちゃんか?
ヤドゥルの感性は意外と……イヤ、深く考えるのはやめとこう。
「トレジャーってのは宝って意味だよな。この蜻蛉切もトレジャーなのか?」
「はいですん」
「じゃあ、この槍が現世で金属の棒になったんだけど、それがキップルってことだよな?」
「どんな棒ですの?」
「ううーんと、細くて銀色でこんくらいの長さで、伸び縮みするの」
「材質を教えて、くださいなのですん」
「銀色の金属だ」
「武器になりますの?」
「ならねー」
「ならばキップルですん」
「じゃあ、この葉っぱはキップル?」
「キップル?……かもですの。でも回復に使えますん」
「うーん、はっきりしないな」
「お店で鑑定して貰えば、はっきりしますん」
「お店ってどこだよ?」
「ここにはありませんの。一番近いところだと中野にありますん。でも今は奪われて、悪魔族の支配下のお店ですの」
「そうなのか。でも、悪魔の店でも、確かちゃんと売り買い出来たはずだよな」
「はいですん。でも悪魔族の使徒と遭遇する可能性が、高くなりますの」
「そうか、いきなり敵使徒とガチバトルは避けたいよな」
「はいですん」
「じゃあ、まあ中野に行くのは、もう少し後にするか」
「吉祥寺なら、国津神族の支配地ですの。お店もありますん」
「吉祥寺か、自転車で行ける圏内だな」
問題は、どうやってその隠世に入るかだ。トレジャー手帳には書いてないよなあ……。
さっきからこの手帳でチェックしているけど、まるで俺の想念とシンクロしてるようだ。
スマホを下敷きにしているとしても、実は俺の想念の具現化って考え方はないだろうか。
そうなると、この槍、蜻蛉切も現世での金属の棒という記号が、隠世で俺の妄想パワーによって、武器として具現化してるってことにならないだろうか。
だとすると超常の者もまた、誰かの妄想ってことか?
共同幻想によって、隠世が出来ている……そんな可能性もある。
だが、その考えだと「俺自身が誰かの妄想だ」なんてところまで行き着くかも知れない。
妄想である俺がさらに、妄想するのか?
「我妄想する故に我あり」
ということで、俺自身は妄想ではないということでいいか?
逆に俺以外ぜんぶ俺の妄想なんて思えるほど、俺は傲慢じゃないしな。
しかし、確かに感じることがある。
妄想の達人たるこの俺が、この高円寺や幻視で観た隠世に感じるのは、そうした強烈な、偏執的ともいえる想念のようなものだ。
それがこの世界を形作っている。
その想念は誰か個人のものだけではなく、何かしら大きな力に裏付けされているに違いない。
同じ妄想にしても、俺なんかよりはるかに強大な、神の妄想ってなら妙に納得するぞ。
そういや聖書によると、神は六日で世界作ったんだよな。
それってきっとコレな。
ってことは、現世自体が神の妄想ってことだな。
うん、それはそれでナットクしておこう。
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さらに隠世に関して考察を深める……
次回9話は、令和6年9月12日公開予定!




