3. べとべとさん
令和6年9月6日公開
― 前回のあらすじ ―
ヤドゥルが吾朗と一緒に死んだことを知る
かつてのシンも失われ、土蜘蛛に遭うには
危険な場所を行かねばならない
では、そのためにも強化しようということで
まずは高円寺で超常の者をシンに封魔しようとする
ちょっとした冒険が待っていると思いきや、高円寺駅前の隠世は実に拍子抜けだった。
アーケードの中心以外の道は、すぐに行き止まりの霧に沈む袋小路で、探索しがいがない。
それに悪魔族の下っ端の使い魔たちや、国津神の中でも下級と思える小妖怪しか現れなかったのだ。
位階だけは立派だが、その実駆け出し勇者の俺には、それでちょうど良かったかも知れないが……。
最初に出遭った敵は妖怪だった。
何もないのに急に怖気がしたと思ったら、それがそいつの先制攻撃だった。
「主さま後ろ!」
振り返るといた。
「国津下魔のべとべとさんですん」
「下魔なのにさん付けかい?」
「うーん、名前がそうなのですん」
「さかなクンみたいなもんか」
「何ですの?」
「いや、何でもない」
べとべとさんは、何とも形容しがたい姿だった。
大きさはバレーボールよりふた周り大きいくらいの楕円に近い不定形。
まあ、いうならばスライム系だ。
外見をおおざっぱに言うと、溶けかかった馬鹿でかいミント・アイスクリームに太い脚が二本付いているといった感じだろうか。
色は薄い半透明の緑青で、内部でさまざまな色が現れては消える。
手はときどき出てくる短い突起がそうなのか。
目も鼻も無いが、大きな口が横一文字にある。
それも開かなければ、口とは判らない。
槍で斬りつけるとすっと消えた。
手応えが無い。
「主さま後ろ!」
さっきも聞いたぞ、その台詞。
またぞわっと来た。
さらにエーテルを吸い取られたようだ。
振り返ると、さっきより、そいつはひと回りデカくなっていた。
要は吸い取ったエーテル分だけ、デカくなるわけだ。
再び斬りつけるとすっと消える。
このままやられっぱなしだと、こいつはどんどんデカくなって、たぶんアーケードの屋根を突き破るぞ。
「主さま後ろ!」
サンキュー、ヤドゥル。
今度は振り向き様に斬りつけた。
サクっと軽い手応え。
辺りにはミント・アイスクリームがぶちまけられていた。
香りはないけどな。
動きが鈍っている。今だ!
「封魔!」
俺は言霊を乗せて声にし、真ん中から断ち切った。
これがトドメにならないと封魔は発動しないのだが、真っ二つになったのだから充分だろう。
青と、くすんだオレンジ色の炎がわき上がる。
べとべとさんは、その中で光の滴となって……消えてはいかなかった。
炎と共にぼんやりとした光の塊に収束すると、残光を引きながら槍の穂先に吸い込まれた。
刃から朱の柄に、さらに柄を持つ手にと伝わる霊気のようなものを受け止める。
すると、べとべとさんの思念というか言霊が、俺の心の中で響くのだった。
「背中ノ恐怖、アゲ増ス、後カラ、べとべと付キマス、べとべと付キマス」
おーい、何だか嫌なヤツだな。
「やりました主さま。べとべとさんが、みごと臣になりましたですん」
「こんなキモいヤツ、使えるかどうか判らんけどな」
「どんな臣も、主さまの使いようですの」
そういや吾朗はシンの使い回しが上手かったんだな。
俺にもできるんだろうか……
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幸先よく妖怪ベトベトさんをゲットした睦樹
果たしてこの狭い隠世でどこまでできるのか?
4話は、令和6年9月7日公開予定!




