2. シンの記憶
令和6年9月5日公開
(1話2話のタイトル変更しました)
― 前回のあらすじ ―
高円寺隠世の神社を改めるが、那美はおらず、手がかりも得られなかった
吾朗のシンを取り戻すため、夢の記憶にダイブ
川で溺れそうになった、瀬織津姫との出会いを体験する
ところで、これはどこの川だったんだろう?
大きな澄んだ川が映像としては浮かぶんだが、どこだか思い出せない。
「ヤドゥル、以前澄んだ川のある隠世に行かなかったか?」
「んんんんん~~~……」
これはダメなときのリアクションだ。
今のヤドゥルが思い出せないなら、そのときのヤドゥルになればいいのか?
「他のヤドゥルになれないのかい?」
「今はできないのですん」
「どうして?」
「宿得も主さまと一緒に死んだのですん。そのときのデスペナルティーですの」
突然、魔王の巨大な手で潰されたヤドゥルの映像が、フラッシュバックで蘇る。
「あ………、ヤドゥル……」
「主さま?」
「良かった、生きてて……」
「はいですん」
ニッコリと笑うヤドゥル。
いいのか、それで? かなりエグい映像だったぞ?
きっと相馬吾朗が、ドジを踏んで死なせたのだ。
俺の責任ではないが、ヤドゥルにとっては俺と相馬の存在は、重なっているに違いない。
自分がそのせいで殺されて、何とも思っていないのか?
しかもデスペナルティーまで負ってしまっている。
「済まない……ヤドゥル」
つい謝罪の言葉が出てしまった。
「主さま? 何のことですの?」
どうやらヤドゥルは割り切って考えているようだ。
それならそれでいい。
「いろいろさ……。それより他にシンにした場所が、分かるやつはいないのか?」
「つい最近では、新宿の瓦礫町で、土蜘蛛の大人を臣にしたのですん」
「ガレキ町ってどこだ?」
「歌舞伎町の近くですの」
駄洒落か。
「でもそこは……けっこう強い超常の者が出そうだな?」
それに、人間――黒っぽいシャツを着たチンピラが、ひとり行方不明だ。
「はい、瓦礫に湧きますん。隠世の者の精霊は、いっぱい群れてで気持ち悪いですの。それに悪い超常の者がでますん。コープスがうじゃうじゃと悪魔もですん」
俺は緑色に朧に光る、風精霊の美しい群舞を思い出す。
そして醜い裸体の屍が、いくつもくっついたような、不気味なオブジェクトを、俺は数えている……二十六という数字。その手前に立つ赤い瞳のヤバいやつ。
これが悪魔だ。
そして腕が六本もある大男が、小さく光る妖精と共に立ち現れる映像が思い出せる。
こいつが土蜘蛛だ。そして燃えている。マンガの心理描写の背景描写じゃなくって、ガチで炎出して燃えながら、俺に臣下の礼を取っている。
何があった?
その詮索はあとにして、う少し戦力アップをしないと、ここにはたどり着くことさえできなさそうだ。
「じゃあ、まず手下になるシンを増やさないとな」
「はい、臣が多い方が心強いですん」
「俺封魔できるんだよな?」
「その槍で出来ますの」
「召喚もだよな?」
「もちろんですん。思い出しましたの?」
「ああ、かなり思い出してきた!」
「良かったですん!」
ヤドゥルはぴょいんと跳び上がって喜んだ。
夢の記憶によれば、シンとは漢字で書くと「臣」。
超常の者を自分の配下にしたものだ。
それを召喚で呼び出して共に戦うことが出来る。
要はポ◯モンみたいなもんだな。
違うのは、自分でも戦わなくちゃならないということ。
そして戦いには、本当の死の危険がある。
封魔の術式を掛けながら倒すことにより、超常の者をシンにできる。
しかし、必ずしもなるわけじゃない。
なので、場合によっては、何度もチャレンジしなくちゃならないようだ。
課金アイテムでもあれば、その成功確率を上げられるんだろうけど、この世界にはそんな便利なシステムはないらしい。
ひたすら挑戦あるのみだ。
こうなりゃ、やるっきゃないだろ!
「高円寺の隠世を探索するついでに、超常の者もゲットするぞ~!」
「はいですん」
そこは「オー!」だろう、というツッコミも無駄なので省略。
それより最低限の準備をしたいんだが……。
「ヤドゥル、武器とか防具は新しく手に入らないのか?」
メイン・ウェポンは今ので充分だが、サブを持っていたい。
防具にいたっては、出花や那美にまで言われたように、まるでダメだ。
「ここでは無理ですん。他の隠世なら商店街がありますの」
「じゃあ、宿屋とかは?」
「主さまおひとり、宿屋で何するんですの?」
おひとりでって、この世界の宿屋はラブホ仕様なのか!?
「ま、まさか宿得を……主さま……ま、まだ心の準備が……」
「な、なわけないだろ!」
「でも……主さまのためとあれば……この宿得、ひと肌も、ふた肌も脱ぎますん!」
「ちげえよ! エーテルの回復だよ。俺はかなりダメージ喰らってると思うんだ」
実際体中が痛いし、疲労感もハンパ無い。
だが、このクソゲーはEPゲージがあるわけでなし、あとどのくらい耐えられるのかが判らないのが不安だ。
「今の宿得は位階落ちして回復は出来ないのですん。でも、主さまは、お持ちの銀緑の葉っぱを食べればいいのですん」
ふむ、そうだった。前にそう聞いていた。
さっきの生霊との戦闘のあと、ヤドゥルが散らばった葉っぱを拾ってくれてたんだった。
俺は脱法ハーブが変化した一枚の葉を、ぱくりと咥えた。
口の中で葉が吸い込まれるようにふわっと溶けて消えていく。
すると、濃厚なバナナのような香りと共に、体の痛みと疲労感が、じわわわーっと引いていった。
「おお、すげえなこれ」
すっかり楽になったじゃないか。
しばらくその香りによる多幸感が続く。
さすがもと脱法ハーブだ。
体力も回復したことだし、超常の者を見つけたら積極的にアタックを掛けよう。
「よかったですの」
「よーし、狩りに出かけるぞ!」
「はいですん」
「そこは、オー! だ、ヤドゥル」
「おー?」
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シンをゲットすると意気込む睦樹
果たしてこの隠世でどこまでできるのか?
3話は、令和6年9月6日公開予定!




