18. 相馬吾朗のこと
令和6年9月1日公開
― 前回のあらすじ ―
隠世の夢の記憶を呼び覚ますためには、キーワードが必要
睦樹は、相馬吾朗のその後を知ろうとする
10章最終話!
吾朗と俺が入れ替わった……バックアップの俺が出て来ざるを得なったわけだ。
じゃあ、死んだ吾朗は今どうしてるんだ?
俺が代わりに動き出したから、現世で休んでるとか?
これは死と再生に関係する問題が、絡んでいそうだ。
「吾朗は渋谷でドラゴンと戦って死んだとき、どうして復活できたんだ?」
「肉ハ現世ニ・戻ルナリ・霊ハ魂器ノ・大ナレバ・救ワレシナリ」
「魂の器が大きかったってことかな? 何だいそれは?」
「魂器ノ大小ハ・人ノ存在ノ強サナリ・大ナレバ幾度カ・死シテモ・使徒ヲ復活セシムルナリ・サレド・重ネ重ネ死ヌレバ・器ニ瑕疵刻マレリ・遂ニハ壊ルルトキ・真ナル死ヲ・知ルトキナリ・・・」
「俺の魂の器はどんなだ?」
「其レハ・不明ナリ」
「どうすりゃ判るのさ?」
「吾不知ナリ」
これは何とか確認しないといけない。
かなり重要事項じゃないか。
何回コンティニュー出来るかのハート残量がUIにないなんて、超クソゲーだ。
それでも死んで即終わりじゃ無いっていう、確かな情報はありがたい。
少なくともビギナーのうちは、大胆に行動できるだろう。
でも、できたら本当に死ぬまで、死なんて体験はしたくない。
ぜったいに痛くて苦しいに違いないのだ。
いや、吾朗の夢で概ねそれを知っているし。
「それで、死んだ相馬吾朗はどうなったんだ?」
「吾不知ナリ」
「どうして知らないんだ? お前は相馬の担当者だったんだろ?」
「国津第三位使徒ハ・継承済ナレバ・スデニ相馬様ハ・使徒ニアラジ・吾探知デキヌ・理ナレバナリ」
「本当に俺が国津第三の使徒ってか? こんな初心者で?」
「其レ継承者ニ・継ガレシナリ」
「じゃあ、相馬吾朗は使徒じゃなくなったんだな」
「是ナリ」
「じゃあ、現世に戻ったってことかい?」
「現世ノ状況ハ・吾判ラジ・有リ得ルハ・三ツノ結果ナリ」
「三つの可能性があるってことか。ひとつ目は?」
「現世ニ戻リテ・経験シタル使徒ノ全テヲ・オ忘レニナル事」
「記憶を失い、以後隠世には関わらないってことか……」
これはますます死ねない。
那美のことも、すっかり忘れちまうってことになる。
隠世や使徒のことが失われたら、俺の人生に、いったい何が残るんだ?
「引退ってことにしても、記憶ぐらい残せないのか?」
「吾不知ナリ」
そうだろうな。ヤドゥルがこの使徒システムを、全部知ってる訳じゃないのは分かってきた。
「ふたつ目は?」
「現世ニテモ・死ヌル事」
「やっぱり本当に死んじまう危険があるのか……それって、魂の器が壊れたってことんなだよな?」
黙ってヤドゥルは、謝罪のように頭を垂れた。
「そうか……で、三つ目は?」
「万ガ一ニモ・相馬様ニ於カレマシテハ・・・イカニシテモ・無キ事カト――」
「可能性は低いんだな? でも教えてくれ、ヤドゥル」
「是・・・三ツ目・有リ得ザル事ナレド・死シテ後・妄鬼トナリテ蘇リ・隠世ヲ彷徨イ・永久ニ流離エル・凶悪ナル鬼ト・化ス事ナリ」
「妄鬼? どっかで前に聞いたな……。何だっけか?」
「憤怒・苦悩・悲哀・慚愧ニ魂壊レ・狂気ニ落チシ・使徒ガ成レ果テ・近ヅク者凡テヲ滅ス・恐ルベキ・狂戦士ナリ」
そうだった、妄鬼になった使徒を皆で倒した記憶が甦る。
普段は敵対している他の神族の使徒とも、共に戦ったのだった。
そうだ、これは自宅で瞑想したときに、使徒結集の様子を思い出したんだった。
この戦いでは死者を出しながらも、各神族を代表する手練の使徒たちが、全力で戦ってやっと倒せたのだった。
妄鬼とは、それだけ恐ろしい存在なのだ。
相馬吾朗が、そんな存在になっていないことを祈ろう。
「しかし、なぜ那美もヤドゥルも、俺と相馬吾朗の区別が付かなかったんだろう?」
「現世ト隠世デ・特定ノ品ガ・変化スルガゴトク・隠世ニテハ・相馬様ト犬養様ハ・同ジュウ視エルナリ」
「現世に戻って肉眼で俺の事を見たら、もしかしたら那美は俺に気付かないかも知れないってことか」
「吾不知ナリ・・・サテ・上位宿得ノ吾ハ・長クハ留マレヌナリ・下位宿得ニ・戻ルベシ」
そう告げると、ヤドゥルは再びカクンと首を垂れた。
また倒れそうになるのを支えると、今度はすぐに再起動した。
「主さま、宿得に何をしてるですん?」
「お前が倒れそうになったのを、支えてやったんだよ」
「宿得が? ふむ……何かいつの間にか寝ていたようですの。主さまどうもありがとうですん」
「お前の上位存在とやらが、今まで居たんだぞ」
「あれ? そうでしたの。上さまはお役に立てたでしょうか?」
「ああ、だいぶ理解できるようになったよ。それで、俺は相馬吾朗の分霊の犬養睦樹だって分かった。
分霊といっても別人だから、前のことは覚えてないことも多い。でも、きっかけがあれば思い出せるから、ヤドゥル、今後ともよろしく頼むよ」
「はい、お任せあれですん、犬養睦樹さま」
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これにて10章終了です。
元の姿に戻ったヤドゥルと睦樹は、高円寺隠世で何を求めるのか?
11章の開始は、数日後となります。
少々お待ち下さい!




