15. そして暗転……
令和6年8月29日公開
― 前回のあらすじ ―
心臓を刺しても暴れまわるレッド・ドラゴン
総がかりで倒しにかかる!
ほっとしたのもつかの間、怒りに満ちた竜のアギトが、上から降ってくる。
那美が横から頭部に斬りかかるが、動じない。
身をかわしながら、俺も横殴りで槍をぶち込む。
その反動で辛うじて牙からは逃れたが、硬い鼻面の振り上げに煽られて、壁まで弾き飛ばされた。
「ヴルルグルウルルルル~~~~~!!」
言葉にならない叫びを上げ、ドラゴンが足を響かせ迫ってくる。
どうやら、強攻撃を持つ割に動きの遅い俺を、先に倒そうというわけだろう。
「逃げて!」
槍を杖にして起き上がり、壁に沿って回避走を試みるも、巨体の癖に素早く動きに付いてくる。
「赤竜! お前の相手は私だ!」
横から那美が連続で斬りつけ、ハーピーと女神たちが、攻撃魔法をドカドカ当てるのにもお構い無しに、俺めがけて迫り来る巨影。
俺をかばおうとして、鎧武者が弾き飛ばされる。
これはヤバイ!
「主さま!」
ドラゴンの鼻面で、黒い煙が炸裂した。
ヤドゥルの笹の葉が、視界ゼロの絶対暗黒を作りだしたのだ。
俺は槍を床に突き刺して、横っ飛びする。
ドラゴンはそのまま突っ込み、壁に激突して派手にホールを破壊した。
瓦礫が辺りに飛び散って、幾つも俺の背中を打つが、奴の直撃を喰らうより断然ましだ。
「主さまも、お姫さまも無茶し過ぎだぜよ!」
乱暴な口調で抗議するヤドゥル。声は幼女のままなので、妙に可愛い。
しかし、その表情は俺の知るヤドゥルの顔ではなく、怒りを秘めた仏頂面だ。
「ヒィーイーーー!!」
鳥女たちが、悲鳴を上げて混乱する。
もの凄い殺気が、すぐそばで湧き上がったのだ!
俺もわっと総毛立ったが、その気は那美が放ったものだった。
暗黒に囚われたドラゴンの首に、銀閃が吸い込まれる。
どうっと音を立てて、破壊の象徴のような首が床に落ちる。
「やった!」
しかし、那美の体は竜の前足の横薙ぎに、吹き飛ばされた。
「那美!」
「平気! それよりとどめを!」
首を失い、心臓を突かれたというのに何という生命力か!
「任せろ!」
足裏のブースターを使って、竜体に勢いよく突き進む。
俺の精神力が、ブーツを通してアストラル炎のジェット噴射に供給される。
目鼻を失った竜には、俺の高速接近を察知できない。
すでに塞がりつつある胸の傷口に、屠龍の名を冠した魔槍を再び叩き込んだ。
「畏み畏み白す、火之迦具土神よ、吾が槍の穂先にぞあれかし!」
火之迦具土神の炎咒を、邪龍の体内で爆裂させた!
吹き上がる大量のエーテル奔流。
存在の消失がそこから広がっていく。
しかし――その時ヤバいものが視界の端を過ぎった。
巨体の胸に刺さった槍を両手で支え、隙だらけの俺の背後からすっ飛んで来たのは、尾の尖端の鋭利な棘だった。
「がっ!」
燃えるような猛烈な痛みに硬直する。
朱色の鎧を易々と貫いた竜尾は、右脇腹に深々と突き刺さった。
体内で竜の最期の殺意が暴れまわる。
激痛は限界を超え、四肢の力がふうっと抜ける。
俺は大量の血反吐を吐きながら、崩れ落ちた。
さらに上から視界いっぱいに、赤黒い巨きな影がのしかかってくる!
「吾朗―――!!」
(クソ、ドジ踏んじまったか……)
遠退く意識の中、那美の呼ぶ声だけが頭に谺する………俺は……死ぬのか……世界はグルグル回りながら暗転――――――…………。
俺は、その世界から引き剥がされていく……。
頭が、ガンガンする……。
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16話は、令和6年8月30日公開予定!




