14. 赤竜大暴れ
令和6年8月28日公開
― 前回のあらすじ ―
隠世の回廊と那美と睦樹が突き進んだ先
大きなホールに待ち受けていたのはレッドドラゴン
そのファイアブレスが放たれた!
しかし、竜の炎は俺達には届かなかった。
三羽の鳥女たちが、翼を激しく打って、猛烈な風を巻き起こしていた。
同時に女神瀬織津姫の周囲に舞うリボンから水が吹き出し、水結界を作って味方を熱から守る。
炎の勢いは俺達に届く前にかき乱され、水の障壁で無効化された。
紅蓮の流れは大きく広がって集中せずに散るか、押し戻されてドラゴン自身の足元を焼いた。
その炎がまだ消えやらぬ内に、那美は床を蹴って大きく跳躍しながら、何もない空間に刀を一閃。
すると彼女はドラゴンの頭部の目の前に、瞬時に出現した。
空間が切り取られ、その間を一瞬にして詰める那美の得意技、時空斬だ。
大きく開かれた顎が閉じる寸前に、鋭く冷たい鋼が口の中を薙いでいた。
「おしゃべりは止めだ!」
竜の舌がドサリと音を立てて床に落ちたのは、那美がそう宣言しながら、痛烈な二の太刀を左側頭部に与えた後だった。
「ア ギ ャ ア ア ア ア アアアズズズズーーーー!!」
のけぞる竜の口腔で、激しく炎が沸き起こる。
その熱は吐き出されず、その大きな頭部を包んで燃え盛った。
巨体が苦しみもがいて、デタラメに暴れだす。
壁に力任せにぶち当たり、不活性エーテルの建造物を破壊した。
ガラガラと崩れ落ちる瓦礫は、一部は蒸散するものの、ほとんどは塊のまま周囲を襲った。
シンも俺も、それを避けるので精一杯だが、那美は瓦礫を避けつつ、竜の苦し紛れのランダムな動きさえも読んでいた。
華麗に避けながら、着実に刃を浴びせていく。
壁の崩落が落ち着くと、俺は思い切って踏み込み、槍の一撃を突き上げる。
竜の喉元に深々と刺し込むと、ずいっと引き抜いた。
血と炎が混ざって、槍傷から外にシュウシュウと溢れ出てくる。
「心臓を!」
那美が叫ぶ。
「任せろ!」
しかし、ドラゴンはさらに猛烈に暴れだした。
不用意に近づくと、鉤爪か尾にやられそうだ。
右手から半蛇の鎧武者が、尾を防ぎつつ斬りかかる。
瀬織津姫は術式により、味方全体の防御力を上げてくれた。
鳥女たちは、竜の鼻面をかすめ飛んで、注意を逸らす。
那美は一撃離脱戦法でダメージを与えつつ、竜の攻撃目標を自分に引き戻した。
俺は狙いやすい大きな脚を、何度か突き刺し機会を窺うものの、なかなか心臓を捉えられない。
ならば動きを止めるまで。
「雷撃を!」
俺がシンに指示すると、後方から輝く雷球が飛んで敵に炸裂し、紫の電光がその鱗を彩る。
電気ショックでドラゴンが仰け反り、一瞬だが動きが鈍化した。
「喰らえ!」
魔槍屠竜蜻蛉切の穂先は、ドラゴンの心臓を深々と射貫き、爆発のような血飛沫を辺りに撒き散らした。
「やったか!」
「下がって!」
俺は槍を竜の心臓に残したまま、バックステップで後ろに退く。
一瞬前まで居たところを、ドラゴンの前足が薙ぎ払った。
「ふぅ、ヤバイヤバイ」
その間も那美の一撃離脱攻撃は、休むこと無く続けられている。
星気化が追いつかず、ドラゴンの足元には血の海が出来ている。
足を取られないようにしないと危ない。
それに刺さったままの槍も、取り戻さなくては……と、思うそばから那美が着地で滑った!
俺は即ダッシュ!
立ち上がろうとする那美の上に、ドラゴンの前足が振り下ろされる。
迷わず那美にタックル、血の海の上をいっしょに滑った。
ゴチュッ!
と、すぐ横ででかい音がして、その激しい反動で床から跳ね上がる。俺達はそのまま転がりながら距離をとった。
間一髪でセーフだ!
「ありがとう!」
那美が刀を突いて、立ち上がりながら、こちらにも手を伸ばす。
ふつう逆だと思うんだが、まあいいか。
血ですべるので、しっかり彼女の手を握り返し、シンに命じてから立ち上がる。
「ケライノー! 凍結だ!」
「ヒィーイ!!」
凍結術式の蒼い光が、ドラゴンを捉える。
大したダメージは入らないが、血の池が凍り、足と尾の自由を一時的に奪った。
俺はその隙に槍に取り付き、滑る足元に気をつけながら引き抜こうとしたが、筋肉が締め付けているのか、なかなか抜けない。
捻じりながら気を叩き込み、思い切り引き抜く。
そこを、心臓への追加ダメージを嫌ったドラゴンの裏拳に、槍もとろも弾き飛ばされた。
あまり力の入れられない動きだったので、ダメージも深刻ではないが痛いっちゃ痛い。
立ち上がるところに、胸から溢れ出る血が追いかけてきて、頭からそれを浴びてしまう。
(主さま、真っ赤っ赤、だいじょぶ?)
「旦那、無茶し過ぎですわ」
毛むくじゃらの赤っぽい亞人が、丸っこい蛇を背負っている。
遅れてやってきたシンの、山童と野槌だ。
見た目が派手に重症っぽいんで、めちゃ心配してくれてる風。
すかさず彼女が回復術式を掛けてくれ、痛みも引いてゆくので助かる。
いつもお読みいただき、ありがとうございます!
お気に入り、ブックマーク、評価、SNSでの拡散など、できましたらお願いいたします!
また、ご感想をいただけると励みにもなります。
※ ※ ※ ※
隠世でのレッド・ドラゴンとの戦いも大詰め
見事打ち倒せるのか?
15話は、令和6年8月29日公開予定!




