表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
112/244

13. 隠世の赤竜

令和6年8月27日公開


― 前回のあらすじ ―

  ヤドゥルの上位人格から、自分が相馬吾朗の分霊わけみたま

  と告げられた犬養睦樹

  その言葉によって隠世の記憶が開かれる

 その風景は、妄想の延長で見た那美との体験の映像よりも、より明瞭……。

 というより、今まさにそれを体験しているかのようだった。


 俺は疾走していた。


 チェス盤のような、白黒のパネルが敷き詰められた広い回廊だ。


 4メートルほどの高さの壁には、古代ギリシア神殿の白い柱のようなものが、埋め込まれたようにして並んでいる。

 柱の間には、毛足の長い赤い絨毯状のものが、壁紙のようにして貼られている。


 柱には三本ごとに、古風な金色のランプが灯されていて、廊下に光と陰のリズムを与えていた。


 豪華な額に入った不思議な油絵が、いくつも飾られていた。

 超が付くかもしれない古代遺跡や、見たこともない植物、または、巨大な魔物や、(なま)めかしい美女の裸像、ただし角と尾と羽根つきなどなど。


 一見趣向がばらばらだが、テーマの共通点は「摩訶不思議」。

 時間があったら、じっくり眺めていたい。


 そんな濃い装飾の廊下が、ずっと続いていた。


 俺の前をすごい速さで走る、セーラー服の女の子がいる。

 波打つ黒髪、翻る紺色のギャザースカート。

 もちろん我が愛しの美少女戦士、水生那美だ。


 行く手を阻むは、有翼の悪魔たち。

 いかにもな雑魚(モブ)どもである。


 敵が繰り出す術式を潜り抜け、あるいは両断すると、那美は猛ダッシュで肉薄する。

 目にも止まらぬ刀の斬撃が放たれ、紅い血とエーテルの銀の飛沫が上がる。


 接近戦では、反撃の余地も与えない。

 一太刀か二の太刀で、次々と敵を仕留めていく。


 まれに逃したのを、俺が槍で止めを刺す。

 信頼して、後ろを任せてくれているのだ。


「主さま~、飛ばし過ぎだぜよ~!」


 と、口調の違うヤドゥルの声が、かなり後方から聞こえるが、那美と俺の脚は止まらない。

 この戦い、時間との勝負だからだ。


 廊下を抜けた先は、大きなホールになっていた。


 カテドラルのように、高く球状の天井。

 壁の装飾は廊下とは違うが、相変わらず過剰なまでにデコラティブだ。


 さまざまにねじくれた人体のレリーフや、今までのよりさらに奇っ怪な絵画で埋め尽くされていた。


 そして広いホールの中央は、あまりにその場に不釣り合いな、ビッグサイズの怪異によって占められていた。


 ヌラリと照りのある赤銅色(あかがねいろ)の鱗に覆われた、圧迫感ある巨体。

 上体はぐいっと前足で持ち上げられ、長い首が伸びている。


 その先に乗っかる巨大なトカゲのような頭部が、辺りを睥睨(へいげい)している。

 ただの大型爬虫類とは違い、その目には、知性の光が宿っていた。


 高さは大人の背丈の三倍はあるだろう。

 首周りには半開きの傘のような襟巻き状の皮膜があり、そこから火炎アストラルがゆらゆらと立ち昇っている。

 その皮膜が広がる肢の先端はすべて、尖った有毒の棘だ。


 これぞまさにドラゴン。


 正直いって、度肝を抜かれる迫力だ。


 こんなの倒せるのか?

 しかもたった二人で!


 いや、二人じゃなかった。

 すでに手下のシンたちが追いついて来て、後ろに集まりだした。


 翼を持つ小さな女たち、ハーピーが三羽、フワフワと宙に浮いている。


 他には日本の女神風の美女と、下半身が蛇体の鎧武者が駆けつけた。

 これはかなり心強い。


「どうしたの? ぼうっとして。しっかりして吾朗くん」


 日本刀を引っ提げたセーラー美少女戦士、水生那美がこちらを振り返る。


(ぼうっとして見えたのは、この光景に驚いてる俺の影響じゃないよな?)


「なんとも騒がしいことよ、人の子ら。まさかとは思うのだが、その手勢だけで我に挑もうというのではあるまいな?」


 流暢な日本語で喋るドラゴンに違和感を感じ、つい何か言ってやろうと思うが、那美が素早く警告する。


「吾朗くん、返事しちゃだめだよ。竜の言葉には人の心を取り込む力がある。できたら耳も閉ざして聞かないで。私のことだけ集中して考えて」


 む、それは得意だ、任せておけ。俺は黙って頷く。


「女よ、我らの秘めたる力について、知識を持っているのか。ならば、これではどうだ………」


 竜の酷薄そうな細い横長の瞳が、くわっと丸くなる。


 一瞬頭を揺さぶられるような感覚。

 しかし、大したことはない。


 だが、かなり強い力で精神支配を仕掛けてきたのは感じる。

 ハーピーと蛇武者――夜刀神(やとのかみ)たちは、目も虚ろになりぼうっとしている。


 しかし、女神さまがパンっと手を打つと、みなはっとしたように我に返った。彼女の名は……そう、瀬織津姫(せおりつひめ)さまだ。


「ほお、心の盾も持っているのだな。それにそこな女神がいれば、臣下どもも安心というわけか。

 なるほど、我に挑もうというだけはある。ならば、無駄なおしゃべりはこのくらいにしておこうか」


 竜の首の回りの襟巻きがぶわっと大きく広がり、咽の辺りが膨らんだ。


「危ない那美、下がれ! 鳥女たち、風を!」


 ドラゴンが大口を開けると、轟音と共に炎がほとばしる。


 いきなり容赦なしの炎のドラゴンブレスだ。


いつもお読みいただき、ありがとうございます!

お気に入り、ブックマーク、評価、SNSでの拡散など、できましたらお願いいたします!

また、ご感想をいただけると励みにもなります。


 ※ ※ ※ ※


隠世でのレッド・ドラゴンとの戦いの記憶

炎にまかれながら再生は続く・・・


14話は、令和6年8月28日公開予定!


 ※ ※ ※ ※


最新の地元となった、立川諏訪神社の祭礼に行ってきました。

山車で踊るのが、狐やオカメの面を付けた子どもたちで、どえりゃあ可愛いのです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ