11.生霊の消滅
令和6年8月25日公開
― 前回のあらすじ ―
苦闘の末、魔人バイニンをついに倒す睦樹
炎槍の切れの凄まじさ……
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(――――殺して―――しまった…………!)
寸前まで売人だった人間の開きは、グツグツと沸騰するように泡立ちながら、光の粒となって消えていく。
俺は、生き延びた……
「お見事ですん、主さま!」
「お見…ごと?」
「はいですの」
(……それで、済むことなのか……?)
「なあヤドゥル、生霊を殺したら、本人も死ぬのか?」
「死ぬかもですん。でも、死なないかもですん」
と、事も無げに言う。
しかもこの曖昧な言い方だ。こいつ、情というものがあるんだろうか?
「はっきりしろよ!」
俺はつい、言葉を荒らげてしまった。
ヤドゥルは、少し悲しそうな表情で固まる。
こんな小さな子に、言い過ぎたかも知れない。
「ヤドゥル……」
「はいですの、ヤドゥルの説明が足りなかったのですん」
そして淡々と語りだした。
「隠世での肉体は、生霊も主さまも、その他の超常の者も、この宿得も、皆みなエーテルから出来ていますの。それに魂である霊体、アストラル体が籠もるのですん。
この戦いで、邪悪なる生霊のエーテル体は、ことごとく失われたので、魂と現世の肉体をつなぐ命の力が失われますの」
「………生命力が、失われるってことかい?」
「簡単にいうと、そんな感じですん。魂は物質とは相性が悪いので、エーテル体が間に入って繋ぎ止めながら、生きる力を循環させているですの」
「だとすると、魂だけじゃ肉体に戻れなくないか?」
「はい、ご明察ですん。魂が肉体に戻れなければ死にますの。でも、肉体は常にエーテル体を生み出しているのですん」
「じゃあ、生き残るチャンスはあるんだな」
「はい、ありですの。
されど、生き残れても、肉体の生命力がわずかですん。そのため、病気に罹りやすくなるそうですの。
アストラル体にも深いダメージがあれば、精神にまで傷を負うことがありますん。すると正気を保てなくなり、廃人になることもあるそうですん」
生霊の肉体も、すでにほとんどが滴となって消えようとしている。彼のアストラル体はどうなっているのだろう。
「これで良かったのか?」
「敵は主さまより断然速かったのですん。背を見せて逃げるのは、いかにも危険な行為でしたの」
「あっちは?」
と、俺は十字路の向こうの霧を指差す。
「そこで世界が終わってますん。先に行こうとすると、どんどん遅くなるので、出られないのですん。行ってみますの?」
「いやいい……」
よく分からんし、これ以上の面倒は御免だ。
「やっぱり………殺らなきゃ、殺られてたってことか」
「はいですん」
こんなのが使徒の戦いというものなのだろうか。
これじゃあ単なる殺し合いだ。
俺にかかった血はもう消えていた。
もしかしたら、俺の体に吸収されたのか?
それに何だか、力がみなぎってきた感じがする。
これがもし、エーテル体を吸収している効果だとしたら、すごく嫌な感じだ。
それとも、まさかのレベルアップ効果とかか?
タラタターン、とかのジングルもないけどな。あったら、シュール過ぎるけど。
「ジェムはいつもの通り、宿得が回収しておいたですの」
「ジェム? 非課金のやつか?」
「ヒカキンとは何ですの?」
ユーチューバーから芸能人になった奴の顔が浮かんだが、すぐ消した。
「俺は課金してないからな」
「ん~~……良く分からないですん」
いや、すまんヤドゥル、分からなくて当然だ。
「ジェムってことは、それで何か買えるんだよな」
「はいですの。宝玉化したエーテル残滓ですん。これがお金になるですの」
「なるほどゲームかよ」
「ゲームではないですん」
そうだよなヤドゥル、ゲームではない。
敵を倒すと、ふつうゴールドと経験値だよな……ゴールドがジェムで、エーテルの飛沫が経験値だったらやだな。
「ヤドゥル、経験値とかレベルアップとか、どうなってるんだっけ?」
「経験値とれべるあっぷ、ですの? それはいったい……」
無いのか経験値!
「じゃあ、どうしたら俺は強くなれる?」
「修行することですん」
「敵を倒したら、強くなったりしないのか?」
「ああ、それでしたらありますの」
「あるのか」
「超常の者を倒すと、エーテル体が霧散しますん。それが存在の力に昇華して、主さまに降り注ぎますの。存在の力が増えれば、主さまは、ぐっと良い感じに強くなるのですん」
さっき感じた、風みたいなのがそうか……。
その後腹が熱くなって、車酔いしたみたいに胃が気持ち悪くなって吐きそうになった。あれがレベルアップの感覚ってことなのか?
いや、それってかなり嫌なんだが。
どうも、まだまだ分からないことだらけだ。
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魔人バイニンに勝利し、存在の力とジェムを得た
睦樹は、より隠世の理解を深めようとする。
12話は、令和6年8月26日公開予定!




