10.焔の槍と紫炎ハンドスプリング
令和6年8月24日公開
― 前回のあらすじ ―
魔人バイニンの猛攻を受ける睦樹
敵は大技をかけようと、一旦距離をとる
突然、男の絶叫が隠世に響き渡った。
「ア ー ー ヒ イ ィ ィ ィ ィ ーーーー!」
見ると、ヤツはこちらに向かって、ど派手に連続前転飛びを打ちながら、猛烈な早さで迫ってくるところだった。
しかも、何かさっきより強そうな、紫色の炎まで上がっている!
(何で脱法ハーブの売人風情が、こんな炎の大回転を!!)
「主さま! 避けて!」
笹の葉が二つ、続けて飛んでくる。
俺は横っ飛びしたが、炎の大回転はその動きに付いてきた。
現れた二つのマジックシールドも、俺に合わせて動いてくれる。
そこに回転の勢いを乗せた、紫炎のキックが襲いかかった!
最初の障壁が呆気無く砕け散り、二枚目の障壁もぐしゃりと潰されていく!
燃え盛る足が迫る。
これ食らったら俺は、もう立ち上がれないだろう。
そしたら、きっと終わりだ。
こいつにボコボコにされて――死ぬ、たぶん死ぬ。
デスペナルティで記憶をどっさり失うのか?
それとも本当に死んじゃうのか?
この後生きても、大した人生じゃないだろう。
だがもう二度と彼女、水生那美に会えないのが心残りだ。
せめてもう一度会いたかった。
もっと話がしたかった……このままじゃ悔しいし、訳分からな過ぎだ。
まだだ! まだ終われない!
「那美っ!」
思わず彼女の名を叫び、無我夢中で小刀を振り上げた。
すべてが一瞬のことだった。
それが打ち下ろされた時には、刃は一気に大きくなった。
刃渡り60センチ、柄も1メートルを超えていたろう。
魔槍は荒れ狂う紅蓮の焔をほとばしらせ、紫炎と激突した!
その切っ先が、上から迫る男の両脚の間に滑り込んでいく。
眼前には障壁をぶち破った、紫炎のキックが迫る!
槍持つ両手にズン、と強い手応え!
俺の鼻先で、足先が左右に広がる。
ジッ……っと、サンダルが頬をこすって焼いた。
すでに朱色に燃える刃は、魔人を股間から切り裂いていた!
生霊が真っ二つにされていく。
右左に分断された体は、勢いよく俺の後方にすっ飛んで行った。
ドシャッと潰れるような音。
俺は槍を突き出したままの姿勢で、あり得ない量の血飛沫を全身に浴び、文字通り朱に染まっていた。
しかしその血も、すぐにキラキラとした光の滴となって蒸発していく。
振り向くと、消えゆく血の海から一本腕が突き出ていた。
少し離れたもう片方の腕は、地面を押し、半身をもたげようとしてた。
そちらの体には、頭部がまるまる残っている。
焦点定まらぬ視線が、仇を求めて宙を彷徨う。
震える喉は、奇妙なうめき音を発し、口からは勢い良くエーテルの雫を吹き出していた。
ドレッドヘアは、緑色に燃えながら溶けていく。
目玉がぐるぐる回りだし、ピタリとこちらに視線を定めたかと思うと、男の口元がニヤリと歪んだ。
そして、最期にひと言何か呟くと、そのままドロリと溶けていった。
(キモチイイ……)
言葉はそう聞き取れた。
それってどういうことだよ?
体から離れた首がゴロンと転がって、すぐにそれも地に沈むように消えていく。
邪霊を倒したときのように、風が吹き付けると、また腹の奥の方が熱くなった。そして内臓がかき混ぜられるような不快感。
腹にキックを食らったときには何ともなかったのに、俺は強い吐き気を覚え、うずくまった。
「ハァ……ハァ……」
動かないでいると、すぐにそれも収まった。
落ち着いてくると、ようやく頭がまわりだす。
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魔人バイニンを辛くも倒した睦樹
彼なりに戦いを振り返る……
10話は、令和6年8月25日公開予定!




