8.死闘1
令和6年8月22日公開
― 前回のあらすじ ―
高円寺の隠世で、魔人と化した脱法ハーブの売人の
音声口撃を受け、吹き飛ばされた睦樹
自分のダメージを確認する
つんざく怪音にやられ、耳もボーっとしてる。
頭を庇ったお陰で気絶とまではいかなかったが、腕に幾つも擦り傷を作った。さいわい骨は折れてなさそうだ。
そして俺の手は、奇跡的に小刀を離さなかった。
(グッジョブ俺の右手)
ヤドゥルは上手く避けたのか、それともその身には力が及ばなかったのか、倒れた情けない主さまを庇うようにして立っている。
(主さま、遠慮は無用ですの)
音が小さい……
「別に遠慮してるわけじゃないってーの……」
(殺らなければ……)
「殺られるのですん」
耳が戻った。
「クソ!」
ああ、またそれか。そうなんだろうよ。
だけど戦う以外、何か方法は無いのか?
どうにかして、諦めてもらえないもんだろうか?
何か思いつかないか、俺?!
「あ、あのスミマセン、俺、犬養睦樹って言います。その……ハーブ盗んだとか、売人さんの勘違いかと……」
「イヒャッホハッーーー!」
ダメだ、まるで聞いちゃいない。ハーブの魔人はやる気満々だ。
嬉しそうに奇声を上げながら、トゥーンの喧嘩のように、腕をブンブン振り回して突っ込んできた。
「ちょ、待てって!」
俺と男との間に、フワッと青白い光が現れる。
ヤドゥルがとっさに笹の葉を振ってくれたのだ。
どうせなら、さっきの奇声に間に合わせてほしかった。
さっぱり解読不能の呪文、青く光る文字が刻まれた八角魔法陣の透明な壁が、敵の攻撃を防いでくれる。
「ギェフ!」
障壁にマトモにぶち当たって、男は仰け反った。
「あぁん? なんじゃゴリャァーー!」
透明の見えずらい壁にはばまれて、怒り心頭のご様子。
俺はその隙に立ち上がった。
「主さま、今ですの! 斬るのですん!」
「いいのか、だってこいつ生きてるんだろ?」
「死にたいですの!?」
(クソ! クソ! クソ!)
そいつは嫌だって!
生憎と「殺すくらいなら殺されよう」などという、能天気なお花畑思想は持ち合わせちゃいない。
俺は隙だらけのヤツの腹に、思い切って朱柄の小刀を突き出した。
結界をするりと抜けた切先が、奴の腹に触れると、一瞬バチバチっと何か弾けるような音がして、蒼い火花が散った。
刃はそのまま、ざっくりと肉に食い込む。
人を刺す感触は、やはりおぞましい。
赤い血がわっと噴き出したが、水滴のように光って消えていく。
「シェエエエエエエエエ!!」
売人は吹っ飛ぶようにして、後方に身を退いた。
しかし、すぐにまた身構えた。
腹をあれだけ深く刺されたら、痛くて人は、ふつう立ってることも出来ないんじゃないか?
なのに悪魔の力に守られているのか、平然としている。
傷口を押さえるでもなく、ダラダラと腹から血を垂れ流しながら、何かカンフーっぽいポーズで構えているのだ。
薬漬けのジャンキーになって、痛覚がおかしくなってるのか?
それとも隠世の傷ってのは、この程度のもんなのか?
たいしたダメージじゃないんだろうか?
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反撃開始!
次回も魔人との死闘が続きます!
9話は、令和6年8月23日公開予定!




