6.深夜の祈り
令和6年8月20日公開
瞑想で隠世の夢を再現し、那美との絆を新たに感じる。
しかし、母のグラタンを食べるときに、自分は相馬吾朗でなく、犬養睦樹であることを自覚した。
それでも那美の身を案じ、深夜のパル商店街に赴く。
対殺テロの自警団とすれ違ったあと、睦樹は事故現場にひとり立つ。
事故現場周辺は、ひっそりと静まり返っていた。
花束の他に、ぬいぐるみとかカップの日本酒とか、缶ビールが増えている。
前回は隠世に入り直そうとして出来なかったけれど、もう一度試してみよう。
それくらいしか、できることがないんだから。
俺はそこで手を合わせ黙祷した。
動機は何か違うかも知れない。
それでも死者の冥福と、そして俺を導いてくれるようにと祈った。
しばしの静寂ののち、それは来た。
ぐらりと頭をかき回されるような強烈な感覚異常が、待ちきれぬ期待感を上書きし、俺は平衡感覚を失って転びそうになった。
膝と掌を地面に付いて止まる。
見上げると、果たしてそこは異界――隠世だった。
以前のように視界が効かないほど濃い霧は出ておらず、現世とあまり変化がないが、やはり違うのだ。
色がやや緑に偏光し、前より少ないとはいえ霧も出ている。
そして現世より、空気がねっとりと重く感じられた。
「やったぞ! これで探せる!」
俺は思わずガッツポーズ。小躍りしたい気分だ。
「あぁん? 何を探せるってかよー?」
「うわっ!?」
突然のその声に、思わずビビって飛び上がってしまった。
細い通りにわだかまる濃厚な霧の向こうからヌゥっと現れたのは、見覚えのある男だった。
外人のように日焼けした長身スレンダーにドレッドヘア、ラスターカラーの入ったシャツ。
特徴的な風貌は、一回見ただけで忘れられない。
あの脱法ハーブの売人だった。
でも現世の人間が、なぜここに居る?
こいつも俺と同じ、使徒ってことか? それとも……まさか死霊なのか!?
そう思うに充分なヤバい気が、男の周囲にムンムン立ち込めていた。
「テメエもオレのハーブ、狙ってんのか?」
何言ってるんだこいつと思っていると、ポケットがむずむずいう。
その感触が消えると同時に、俺と売人の間にふわりと青い光が現れ、それが小柄な人の姿になった。
良かった、またちゃんと会えた!
幼女型リビング・ドールのヤドゥルだ。
肩越しに俺に警告してくる。
「主さま、こやつは生霊ですの。死霊より危険ですん!」
「ちょっと待て、生霊って……」
「生霊は生霊ですん。現世で生きている人間の霊が、こちらにやって来ているのですん」
まあ、だいたいは判ってるんだけど、いきなりそうだと言われてもだなぁ。
それに死霊より危険ってのも、どうもピンとこない。
死霊の方が、字面からしても、断然強そうだしおっかないだろう。
ヤドゥルの突然の出現など、まったくヤツの眼中には無いようで、俺のことを値踏みするかのようにジロジロと睨めつけている。
「このガキ、どっかで見たことあんな~~」
俺は細長い金属から変化した小刀を、黒の毛皮から鞘走らせた。その死霊より危険という、ドレッドヘアな生霊の動きに身構える。
(でも、こいつ生霊ってことは、いちおう人間なんだよな)
そう思うと、俺は急に人と話すのを意識してしまった。
でもここは、何とか話し合いで収めたい。
「あ、あの……スイマセン」
「あぁん?」
「俺はハーブとかを狙ってるワケじゃ……ないです」
「じゃあ、何しにきやがったのよ」
「その、人探しを……」
「人探しぃ?」
「あの……セーラー服の女子高生、見ませんでしたか?」
「JK~~?? 知らねえなぁ~、俺も今ここに来たばかりでよ」
「ええっと……やっぱり、祈ったら来られたんですか?」
「おー、そうよそうなんよ!! 祈り大切、マジ大事!!」
こいつも一応、自分が売ったドラッグが原因で、死んだ人たちへの哀悼の意ぐらいはあるのか。
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脱法ドラッグの売人の祈りとは?
生霊との対決が迫る!
次回7話は、令和6年8月21日公開予定!




