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3.隠世幻想

令和6年8月17日公開


主人公はベッドでリラックスしながら、半覚醒状態で夢を見ようと試みた。

そして隠世の夢の記憶の扉を開く……

 ここは……隠世の雑踏だ。


 ガヤガヤと混雑した街を、俺は那美と一緒に歩いている。


 奇妙な姿の連中――人間に似た異形の亞人たち――とすれ違う。

 そうだ、ここでは商人やその他ジモティーの多くが、亞人で占められる大きな街なのだった。


 豊満な肉体を小さな革製の衣服で抑えこみ、はち切れんばかりにして見せつける獣耳の美少女がいる。


 風にそよぐ柳のように、しなやかな動きで立ち働く、スレンダーな妖精。

 見つめると、はにかんだような謎の微笑みを返してくる。


 人ごみをかき分けて来る、鎧のような外骨格を持った長身の戦士に、押しのけられ、後にいる誰かにぶつかる。

 振り向くと、トカゲ頭の傭兵の冷酷そうな瞳がジロリと睨む。


 ボールのように丸々と太った性別不明の緑色の小人が、那美の胸元辺りまで跳ねて挨拶を交わしている。


 多種多様な姿の者たちが、街を賑やかし、活気あるものにしていた。


 そして辺りに漂う、たくさんの緑の光球だ。

 蛍のように光り、動きは風に舞う羽毛のよう。

 それらがフワフワと幾つも漂っていた。


 よく見るとそれは、半透明な体に虫翅(むしばね)の生えた、ごく小さな妖精なのだ。

 その体が明滅しながら光を放ち、宙を舞うのだった。


「今日はスプライトが多いね。誰か大物が来たのかな?」


 嬉しいことに、那美が言うのを俺は理解できる。

 スプライトは、周囲のアストラル体を吸収して生きている。

 強い亞人や使徒が訪れれば、彼らから立ち上るアストラル体の欠片を頂けるというわけだ。


 入り組んだ通りには、ずらりと軒が並び、商品が所狭しと並べられていた。

 那美の足を止めたのは、奇妙な仮面のひとつで、手に取るとヤドゥルの顔に重ねている。


「ほら~、こんなに良く似合うのに――」


 両手をジタバタさせて、必死に抵抗を試みるヤドゥル。

 俺は思わず吹き出す。

 振り返る彼女の笑顔を、ずっと見つめていたい。

 しかし和やかな情景は長く続かず、別の映像が割り込んできた。


   ※   ※   ※   ※


 頭上に暗雲垂れ込め、居並ぶ使徒たちの間には、険悪なムードが漂っていた。

 那美のほかにも国津神族の仲間がいる。


 優しそうに微笑んでいる巨漢は頼れるナイスガイ、第四位の使徒だ。

 豊かなお胸を両腕で抱きかかえるようにしている、おっとりとした美女は五位。

 眠たそうな目をした無口で色黒のポニーテール少女は六位。

 きりりとしたイケメン野郎は第二位。くそ、俺より上だ。


 しかし、いずれも名前が思い出せない。


 国津神族だけでなく、他の神族の使徒たちも大勢いる。


 白い軍服に身を包んだ、眼光鋭い男二人――彼らは天津神族の剣士だ。

 ほかにも天使族、悪魔族、仙族など、本来敵対している神族までが顔を合わせている。


 使徒代表会議の結果、招集されたのだ。

 厄介な共通の敵と戦うために、神族の枠を超えて協力し合おうというものだ。


 廃墟となった見張り台のような突出した場所に、二十を超える名うての使徒たちが集まっていた。

 その中でも、うちら国津が最大数を集めた。


 しかし、今ひとつ士気は盛り上がらない。何せいつもはいがみ合っている者同士だし、その共通の敵というのが相当にヤバいらしい。


 今話している議題、先鋒部隊をどの神族にするかだが、当然危険を冒したくはない。

 それにこの機を利用してライバルを潰そうと目論む輩が居ないとも限らない。

 疑心暗鬼にもなるだろう。


「我らは天使や悪魔どもの盾になる気はない」

 白い軍服が冷たく言い放つ。


「はぁ? こっちはてめえの身内の尻拭い、手伝ってやろうってんだぜ?」

 紅い髪の少女がキュートな顔をゆがめ、不機嫌そうに応えた。


 杖を持つ、メガネにけしからん胸系の美女が、微笑みながらおっとりと反論する。

「元はといえば~、悪魔族が撒いた種~ですよね~」


 赤い道士服を着込んだ、目つきの鋭い男が割り込んだ。

「あそこは天使族の管轄地。まずはお前たちが先行すべきだ」


「そんな無茶な話は~、だめですよ~」


「仙族こそ池袋での恩を返すときでは? 闇雲にゲートなど開くものだから、外津神に侵蝕されるところだったではないか」

 青いローブの男が、ニヤニヤしながら煽る。


「確かに天使と天津には恩があるが、お前ら悪魔族に言われる筋合いはない」


「そうなのデスよ。悪魔族引っ込んでろデスな」

 露出度多めで、可愛い系の少女が反論に加わった。


 その後議論は本来の目的を忘れ、他神族への非難の応酬となる。

 国津の論戦担当はイケメンの二位だ。

 ときどき流れ弾でディスられると、上手いこと反論してみせる。


 俺、相馬吾朗はどうも、こういうときは昼行灯(ひるあんどん)らしい。


 いい加減みなうんざりしてたところで、我らが水生那美の登場だ。

「皆さん、堂々巡りの虚しい言葉など、スプライトも食べませんよ。答えは簡単です。やれる力と意志を持つ者がやるだけのこと。そうでない方々は言葉をお控えください」


「じゃあ、あんたんとこがやるってーの?」


「ええ、この誉ある先鋒の任は、我ら国津神族が務めさせていただきます」


 あ~あ、言っちまった。

 でも国津の仲間たちときたら、瞳を輝かせて微笑んでいる。こいつら戦闘狂か。


水生那美は、神族連合の会議で堂々と振る舞う。

仲間の国津神使たちは、喜んでいるようだ。

さて、各神族の反応は……?


次回4話は、令和6年8月18日公開予定!

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