4. ようこそ隠世へ!
打ち殺すだの亡き者にだの物騒な物言いは、ヤドゥルにとってはいたってノーマルな日常会話だが、俺はそこまで落ちちゃいないし、本気でもない。
死ぬギリギリまで痛めつけて、強烈な心的外傷になるほどの恐怖を与えるつもりだ。
それをテルオさんに紐付けておけば、てるてる坊主を見ただけでも、恐怖で麻痺したように動けなくなるだろう。
今のやりとりは、その伏線というわけだ。
「ザッケンジャねーぞ!」
ヤドゥルと話していて、余裕をぶちかましすぎた。
クズ一男にいきなり距離を詰められ、胸ぐらを掴まれてしまう。
正確には鎧の首の部分に手を入れられて、持ち上げられている状態。
上背があるので足が浮きそうだ。
「テメー、ここはどこだ!?」
「ナメてっとマジで殺スぞゴルァ! とっとと帰り方教えんかい! なんならとなりのチビっこに聞いてやってもええんやで?
ちぃっとばっかし、イタイのガマンやで~、じょうちゃん」
アロハシャツ着たクズ二男は、言いながらナイフを取り出し、これ見よがしにちらつかせている。
こいつの方が年上っぽい。それだけに外道生活も長く、脅しだとしても幼女をどうにかするなど口走るとは、魂まですっかり腐れ果てている感じ?
いっそ排除した方が、世のため人のためかも知れない。だが、まずはもう少し話し合いをしてみよう。テルオさんの慈悲(推定)もあるし……。
「分かった、話すから下ろしてくれ」
鎧のフチは掴んだままだが、緩めてはくれた。
至近距離でナンか臭うし鬱陶しいけど、まあ我慢しとこう。
「ではまず、この場所のことから説明しよう、ここは隠世と呼ばれる異世界だ」
「「カクリヨ?」」
よしよし、二人ともいい反応だ。ビジターさんはこうでなくては。
俺は調子にのって続ける。
「隠世とは、現実世界である現世と、霊界や魔界、神界といったもっとガチヤバの世界との間にある、狭間って感じの亜空間なのであーる」
「なんじゃそりゃ! テメーおちょくっとんのか、ゴルァ!?」
黒シャツのクズ一男くんが、鎧を持ってガタガタ揺らしてがなるのは、まだ耐えられるんだが……唾がバシバシ飛んでくる。
(ホントやだ汚い――)
「だまされねえぞ! ナンかタネがあるんだろ? あぁん?」
「種も仕掛けもございませんってば……あぁ、ちょうどいい。ほら、上を見てみろよ」
言われるままに、指差す方を見上げる二人。




