アイゾウの怨霊 ~PCルームのハナコさん~
「令和」風味のホラーを書いてみました。
新しい時代の教育を実現させるというGIGAスクール構想は、生徒1人につき1台のパソコンやタブレット、そして高速通信環境を整備して、教育ICT環境の実現を目指している。
と、いうのは最近の話である。
かつてから、プログラミング&コンピューターを生徒に習得させるという目的で、学校機関は、何度も何度もPCの購入や設備投資をしてきたのだが、ほとんどが失敗に終わっている。
そしてこの高校の3Fにも、PCルームがあり古いブラウン管のPCが並べられている。悪霊が出るという噂もあり、生徒はだれも寄り付かない。
友人と表現するのも憚られる連中に、いじめられていた葉奈子は、そんな誰もいないPCルームに隠れ込んだ。
「カギ、あいてた。今となってはガラクタだもんね。コレ」
ホコリのつもったPCルームに逃げ込んだ彼女は、扉の内鍵をかけて、声をひそめる。
少子化の影響で、教室が余っている学校が多いと他校生も言っていたが、自分の通う学校も、同じだった。
貴重品でグループに1つとして使われていたであろう、昔のPCの中で、彼女は気配を殺す。
「葉奈子?どこ?アンタの恥ずかしい写真、バラ撒かれたくなかったら、でてきなさい」
なにも答えてはならない。どうせグループチャットでバラ撒かれるのだから。
「ここに逃げ込んだの?」
先程、カギをかけた扉がガチャガチャと動かされる。
「違うみたいねウワサの悪霊にヤラレてたら面白いのに……つまんないの。アッチに逃げたのかしら」
そうして、扉から離れるように足音が小さくなっていった。
「もう……嫌」
葉奈子は自分のスマートフォンを操作して検索する。
それは、自ら命を絶つ方法だった。
検索結果を読んでいたその時、
奥から3番目の古い古いPCが突然動き出したのだった。
ブォン……カラカラカラ、カラカラカラ、ブーン、ブーン、ブーン
その音が、ブラウン管の通電音であったり、ハードディスクの回転音であったり、内臓ファンの送風音であったりするのを21世紀生まれの彼女は知らない。
「な、なに?うわさ通りなの?不気味だわ、でも手間がはぶけていいか。呪い殺されてもさ」
自ら命を断つことを考えていたにもかかわらず不気味な現象に死の恐怖を感じてしまうことについて滑稽だと思いながら、彼女は動き出した奥から3番目のPCの所へ移動する。
「あっ大きな音は、マズイ」
大きな起動音だと、自分を探していた連中に見つかるかもしれない。
と、思っていた矢先に、ほんの小さな起動音が鳴った。
「ふぅ……よかった」
PCが痛まないように、窓には黒いカーテンがかけられた暗い教室の中で、ブラウン管のディスプレイは、少しだけ光っていた。
「……昔のパソコンって、こんなだったんだ。画面が荒いね」
640×480のブラウン管解像度のパソコンを、見ると。
「おぬし、名前は?なんじゃ」
うっすらと、画面映像以外に女の子の顔が見える。
「!?だ、だれ」
「おぬし、名前は?なんじゃ」
再度聞かれたので、彼女は答えた。
「葉奈子です」
「そう。名前を呼ぶから『はぁい』って返事するのじゃ。ハナコさん?」
「はぁい」
小学校の時も、トイレでそんな役をやらされたっけ。
今、いじめられているのも、そのころからの腐れ縁だ。
葉奈子の脳裏に嫌な記憶がよぎる。
「……アハハハ、いいのぅ、ワラワと同じ名前じゃ」
「貴方も、ハナコなの?」
「……90年代で一番有名なグラフィックソフトウェアの華娘なんじゃが、ワラワのこと知らぬのか」
「ソフトウェア?アプリのこと?」
「たしかにアプリケーションとも言うのじゃ」
「どうして、アプリの貴方がこんなことを」
葉奈子は、華娘に、そう尋ねた。
「シェアが無くて死んだのじゃよ。今はもうワープロソフトの太一郎のオマケの扱いじゃ。多分、そのうち太一郎もろとも消えてしまうのじゃろうけど」
華娘は、少し寂しそうに話した。
「そう……なの」
「昔は、PCで絵を描くって話になると、ワラワの名前がでてきたのじゃが」
「そっか、貴方も、みんなから『いらない子』にされたのね」
「うむ。ゆえに、人間どもに復讐してやろうと思っておるのじゃ」
「そうなの、丁度いいわ。私、死のうと思っていたから」
「……は?ワラワがそんな都合よく利用されるわけないのじゃ」
どうやら、自分を殺してくれるワケではないらしい、と葉奈子は思った。
「そうじゃの……死にたい理由をワラワに聞かせるのじゃ」
葉奈子はイジメられてきた内容を、ポツリポツリと話はじめた。
最近はエスカレートして、服を脱がされ写真を撮られ脅迫されたことも。
「なるほどのぅ。つかぬことを聞くが、最近の演算機器はどうなっておる?」
「演算機器?えっとコレとかですか?」
「そうじゃ。SNSなど、ワラワにはわからぬ言葉も多いのじゃ」
葉奈子は、恐る恐る、自分が使っているスマートホンを取り出す。
「ほほぅ、小さい上に、パソコン通信もできると。どれどれ」
「あの、その……」
ブラウン管から出てきた華娘は、スマートホンの画面に入り込んだ。
そして、華娘は、スマートホンの画面から顔を出して。
「よし、わかった。ワラワが復讐してやろう。なぁに呪いついでじゃ。これらのシステムをワラワに使わせるのじゃ」
「復讐……して……くれるの?」
「そうじゃな。どうせ一部の人間を呪い殺す予定だったのじゃ。お主のおかげで、世界がわかった。面白いことができそうじゃ」
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そして、数分後、もうすぐ次の授業がはじまろうという頃。
「アンタ、なに?私の彼氏、寝取ってるのよ」
「ち、ちがう。どうして……こんな写真、ガハァ」
家庭科室から消えた一本の包丁を持つ一人の少女が、もう一人の少女をメッタ刺しにして、刺された少女は口から血を吐いていた。出血量からして、確実に助からない。
そして、教室の反対側では
「この、浮気者ぉおおおおおお」
ドンっ……ぐしゃり
窓辺に座っていた少年は、少女に体当たりされ、窓の外に突き落とされた。
3Fという高さだったが、突然ぶつかられ頭から地面に落ちた少年は、首の骨が折れて絶命した。
そのクラスのグループチャットには、付き合っていない男女が服を脱いで夕方の教室で交わっている写真や、学校カースト中上位男女のあられもない姿の写真などが、学校カースト下位の生徒のIDによって貼り付けられている。
「てめぇ、なめたマネしてんじゃねぇぞ」
学校カースト上位生徒が、学校カースト下位生徒をぶん殴る。
「ぼく、じゃないのに」
学校カースト下位生徒も護身の為に、持っていたカッターナイフで、学校カースト上位生徒の頸動脈を切った。
1人、2人が殺し合いをはじめ、死亡者が出た結果、クラスの中で群衆恐怖が発生し、男子生徒を中心に殺し合いの鮮血が舞い散っていた。
「いやぁああああ。こんな写真、だっ誰が」
自らの恥部の写真をグループチャットに貼り付けられた女子の一部は、3階の窓を目指して、頭から飛び降りる。
机や椅子も武器として殴り合っている騒ぎを聞きつけて先生達が駆けつけた時、教室の床は血のカーペットで真っ赤に染まり、半分以上の生徒が即死、残りの生徒も重体だった。
「こ、こんなことが。どうして……」
「あうぅ……しゅまふぉ」
生き残ったものの、眼底骨折で目が落ち込み、鼓膜は破れ、歯が折れ、アバラも折れたのか血反吐を吐いている男子生徒が教師にグループチャットのページを開いたスマートフォンを渡した。
「な……、こんなに乱れていたのか。コイツらは」
グループチャットのページに貼り付けられている大量の写真は、生徒の裸体と交わりと変態行為の数々だった。
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「あっはははは。愉快愉快。ワラワは大満足じゃ。ワラワを見捨てた人間共に一泡ふかせてやったわ」
「あの、いったい?いい加減、私のスマホから出てください。もうすぐ授業だし」
自分をイジメている連中に見つかりに行くようなものだが、ずっとここに隠れているワケにもいかないと、葉奈子は思った。
「心配する必要はない、しばらく授業なんぞないのじゃ」
「え?」
「さっきの教室で、お前をイジメていた連中が殺し合いで死んだのじゃ」
「……どうして?」
「ワラワを、インターネットという素晴らしい空間に解放してくれたのぅ。そこにAI描画などもあるし、この学校のWIFIという通信を使えば、生徒それぞれのスマートホンの写真データを確保することなぞ容易なのじゃ」
葉奈子は理解が追いつかない。
「え?だから?」
「ふむ。付き合ってる男女と、別の男女をカップリングさせて教室で性行為している写真をAIで作ったのじゃ。組み合わせは大量に。それと、生徒各人の写真データに基づいて、お主よりもずっと恥ずかしい写真をAIで作成したのじゃ。なぁに、ワラワはグラフィックソフトウェアの華娘なのじゃぞ。AIの助けを借りれば合成写真とも思えぬ超リアルな写真を作ることができるのじゃ」
「そ、そんな・・・ことが。すごい」
「うむ、歪んだ良い笑顔じゃ。そして、ワラワは悪霊ぞ。人間の憎悪を煽って、コロシアイをさせればそれで良いのじゃ。AIと憎悪でアイゾウの怨霊とはいわずもがなじゃがな」
アイゾウの怨霊、PCルームのハナコさんはそう言ったあと。
「ほれ、グループチャットを確認してみるのじゃ」
葉奈子はクラスのグループチャットを確認する。
200件近くの写真投稿があった、学校のwifiを繋いでないと、通信費が怖いだろう。
「あはは♪みんな、グチョグチョじゃない♪」
男女が交わる行為や排泄行為など、ひどい写真ばかりだった。
「そんな中で、お主の恥ずかしい写真なぞ、何ともない。木を隠すなら森なのじゃ」
「うん……ありがとう。コイツラの写真保存しておくわ。でも、あの子のスマホデータに入ってる私の写真を削除することもできるの?お願いしたいんだけど」
「仕方がないのぅ。まぁ良いワラワをインターネットとクラウドに解放してくれた例じゃ、消しておいてやろう」
「ありがとう、ありがとう。ハナコさん」
「うむ……それでは、ワラワは、お主の写真データを削除した後、次の所へ向かうのじゃ」
「うん♪それじゃ」
そうして、葉奈子のスマートホンから、PCルームのハナコさんは消えて行き、ブラウン管のパソコンも止まっていた。
葉奈子は、PCルームの内鍵を外し扉を開け、とぼとぼと教室に向かって歩いた。
教室にたどり着くと、思わず笑ってしまう。
「あはは♪みんな、グチョグチョじゃない♪」
葉奈子をイジメていた生徒達も、イジメを見て見ぬフリをしていた生徒達も、肉塊になって血を流していたから。
(おしまい)
ハナコさんと言えば、トイレなんですけどね。
PCルームのあのソフトが、悪霊となって、インターネットに解き放たれる話を書きました。
ホラっ気が付くと、貴方の恥ずかしい写真がAIで作成されて、インターネットでバラ撒かれ悪い噂が流れますよ。
怖いですね、恐ろしいですね。
それとタイトルですが…
「アイゾウの怨霊 ~PCルームのハナコさん~」
AI造でもよかったかなぁ。愛憎とかでも悩みます。




