彼の初恋が動き出す(1)
舞踏会が行われている大広間に入ると、楽団による音楽、ざわざわと会話する招待客の声に溢れ、目には煌びやかな衣装に身を包んだ令嬢の姿が飛び込んでくる。豪華なシャンデリアの明かりの元、飾られた沢山の生花が、フローラルな香りをあたり一面に放っていた。
床が見えない程の人の多さ。
それでも広間の中央では、ダンスが行われている。
見つけられるだろうか、エリノア嬢のことを……。
もはや騎士として、敵を探すような鋭い目つきで、周囲を見てしまう。でもそれがよかったようだ。令嬢は近くに来るが、自分に声をかけることをためらっている。儀礼用とはいえ、軍服を着ていた。そしてこれだけ誰かを探すようにしていれば、任務中……?と思われたのかもしれない。それならば好都合。邪魔が入らないで済む。
大広間をじっくり見ると、すぐにロードリッヒを発見した。尋常ならざる数の令嬢の群れができており、その中心に彼がいるのだ。すぐに分かってしまう。ならばその近くにエリノア嬢がいるのでは……と期待したが、彼女の姿はない。
代わりに見つけてしまったのは、金髪癖毛でグレーの瞳、第三王子のゲース殿下だ。
“王宮の天使”と言われるだけあり、確かにその姿は宗教画に描かれていそうだった。
エリノア嬢と婚約解消した後、ゲース第三王子は、男爵令嬢とすぐに婚約したと聞いている。宮殿で開催しているこの舞踏会には当然、その男爵令嬢を伴っているはずだ。その姿がないとなると……レストルームか、軽食が用意されている休憩室に、その令嬢はいるのか。
休憩室、か。
ロードリッヒの近くにもいない。フロアの中央でダンスもしていなかった。かといってエリノア嬢が、壁の花になっているわけがないだろう。
そうなると、休憩室にいるかもしれない。ただ因縁の相手となる男爵令嬢がいる可能性が高い休憩室に、エリノア嬢はいるのだろうか……?
ではレストルームか。
ひとまず廊下に出て、レストルームの辺りを見てみることを考える。どうせ休憩室は、その近くにあるのだから。
大広間を出て、休憩室をチラリと見て、いきなり目が釘付けになった。なんだかワイン色のド派手な塊が見え、どうしてもそちらへ視線が吸い寄せられてしまう。
ベースとなる色は淡いピンク色。だがスカート部分が花柄の五段ティアード、ワイン色のフリル、そしてウエストを飾る巨大なシルクサテンのリボン。しかもオペラグローブもワイン色と、なんとも一度見たら絶対に忘れられないドレスを目にしてしまった。
すごいな。こんなドレス、この世界で似合う令嬢を、自分は一人しか知らない。
こちらに背を向けている。
だが大きく露出したイブニングドレスのその背中は、見事な美しさ。
シャンデリアの光を宿したかのように、透明感のある肌が輝いて見える。柔らかいカーブを描く肩は、思わず抱き寄せたくなるもの。ドレスのインパクトに反し、女性らしい華奢な体をしている。でもすっと背筋が伸びているので、何とも言えない威厳を感じさせた。つまりは圧倒的な存在感がある。
間違いない。
成長したエリノア嬢だ。
初めて会った時から美少女だったが、今は若き美女へと、見事に成長したのだと思う。
後ろ姿を見ただけで、感動してしまった。
そのエリノア嬢は、スイーツやサンドイッチが並べられたテーブルに向かい、悠然と歩いている。そしてそこにはもう一人、令嬢がいた。
エリノア嬢とは対照的な、甘い色合いのふわふわとしたドレスを着ている。まさに砂糖菓子のような令嬢。……これが、ゲース第三王子の新しい婚約者では……?
休憩室は、中に入るとすぐに大きな柱がある。一旦そちらへ移動し、様子を伺うことにした。
お読みいただき、ありがとうございます!
続きはまた来週末に公開しますー。
もし続きが気になりましたら、お時間会うタイミングでご覧くださいませ。
(冠婚葬祭が来週あるため、日曜日にご覧いただいた方がいいかもですー)