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悪役令嬢は徹底して悪女を演じる~おーほっほっ!は卒業したい!~  作者: 一番星キラリ@9/2やられる前に発売:商業ノベル&漫画化進行中
【特別編・SS】

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彼と彼女の出会い(2)

「あっ……」と声が思わず出てしまう。


 まずはストロベリーのような、真っ赤なドレスが目に飛び込んできた。この色のドレスをここまで完璧に着こなせるなんて、まだ少女だろうに、体はもう大人な女性だ。そして顔だって……。


 さっきの少年よりも透明感のある藤色の瞳をしている。鼻もツンと高く、薔薇色の唇に、くすみのない肌をしていた。それになんて美しいシルバーブロンドなのだろう。長く艶やかな髪に、心臓がドキッとし、次の瞬間。


 力が抜けていた。


 しまった!と思ったが間に合わない。


 力が抜け、手がまず枝から離れた。重力に引っ張られ、体重を支え切れず、そのまま足も枝から離れる。


 ドボンという音が聞こえたのは一瞬で、耳には水が入り込む。


 そう。


 木のそばには池があった。その池に落ちたわけだ。


 情けない。

 美少女に見惚れ、うっかり力が抜け、池に落ちるなんて!

 しかもその美少女の目の前で、だ。

 羞恥どころではない。

 もうこのまま池の底に沈みたい。

 そう思ったが――。


 脂肪は体が浮くのを、手伝ってくれたようだ。


 しかも一度は深く沈んだものの、本能で手足をばたつかせたおかげで、水面へと浮上する。


 そこで驚きの状況を目の当たりにする。


 どう考えても上質で高級そうなドレスを着ているのに。

 美少女はそれに構わず、池の中に入ってきていた。

 しかも木の枝を手にし「しっかりして! これにつかまりなさい!」と叫んでいる。


 これには感動とこれまた羞恥。


 こんな美少女に助けられるなんて!――感動。

 こんな情けない姿を見られたなんて!――羞恥。


 枝に掴まろうと必死に泳いだし、さらにはしごを手にした大人も集まって来た。


 最終的に池から救出され、自分と美少女は保健室へ運ばれる。そこでまず、びしょ濡れの服を脱ぎ、タオルでくるまれた。用意されたシャツとズボンに着替えながら、そばにいる男性教師に尋ねる。


「あの、彼女は、ご令嬢は怪我などないですか、大丈夫でしょうか?」


「どこも怪我はしていないぞ。むしろ君のことを心配をしていたぞ」


「……!」


 この時、羞恥は吹き飛び、胸が熱くなっていた。

 ベッドで横になるよう言われ、まさに掛け布を体の方へ引っ張った瞬間。


 令嬢が入って来た。


 白のだぼだぼのシャツに、チェック柄のズボン。この学校の制服だ。ドレスの替えなどなく、男子の制服を着るしかなかったのだろう。それでも彼女の美しさが、損なわれることはない。


 横になっていた体を起こし、御礼の気持ちをすぐに伝える。


「ご令嬢、先程は助けていただき、ありがとうございます。自分はカルヴィン・エド・ヘースティングズと申します。ヘースティングズ伯爵家の次男です。お名前をお聞きしても?」


「カルヴィン様。ご無事で何よりです。私はエリノア・コール、あのコール公爵家の長女ですわ。私のことを知らないなんて! これまでの人生、損をされていましたね。でも大丈夫ですわよ。私と知り合うことで、カルヴィン様の運は上向くと思いますわよ~」


 手を口元に当て、微笑む様子はまるで女王陛下のようだ。

 この自信満々のエリノア嬢を見ると、自分が不甲斐なく、情けない気持ちになる。


「エリノア嬢の言う通りだと思う……。入学早々、醜態をさらし、お恥ずかしい限りだ。これで騎士科に在籍だなんて……」


 唇を噛みしめる自分にエリノア嬢は「あら、そこは落ち込むところかしら?」と言うと、こう続けた。


「騎士になるために、入学されたのでしょう? 騎士として入学したのであれば、あれぐらいで池に落ちては、ダメダメかもしれませんわ。でもこれからですわよね? あなたはまだ、騎士ではないのだから。これからもっと力をつけて、運動神経をよくして、剣術の腕も馬術の腕も、磨いていくのでしょう? 何も始まっていないのに、はなから諦めたら、ダメではなくて? 人間、何事も諦めたら、そこで終了ですわよ。私が尊敬する方は、そうおっしゃっていましたわ。そしてそれが、私のモットーですから!」


 この言葉を聞き終えた時。

 自分の魂が震えているように感じた。

 心の琴線に、エリノア嬢の言葉は触れたと思う。


 そうか。

 諦めたら、そこで終わってしまう。

 これからだ。

 運動神経を鍛え、剣術も馬術の腕も。槍や弓も。すべてマスターし、高みを目指す。


 エリノア・コール。


 君の名は絶対に忘れない――。

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