エピローグ
咄嗟の判断であれだけ動けるのは、カルヴィンだからとしか言いようがない。
さすが私の推しね。
まさに奇跡。
気絶したことを恥じているが、そんな必要はないと思う。訓練に励むのはいいことと思うが、カルヴィンに落ち度はないことを伝える。
何より、カルヴィンに助けられるのは、もう何度目だろう。
感謝しても、しきれないぐらいだ。
ということで何度も御礼を伝え、そして重要な件を話すことにした。
そう。銅レリーフの件!
うっかり私が伝えたことに従い、銅レリーフを肌身離さず持ち歩いてくれているが……。その必要はないことを、改めて伝えた。
「……そうは言われても、困るな」
カルヴィンは真剣な表情になる。
困る? なぜ……?
「こうやって一度でも、自分の命を守ってくれた。既にお守りのようなものだ。……今回、傷がついてしまったが、それは修繕し、これからも大切に持ち歩きたいと思う」
「え……でも邪魔ではないですか? 結構な重量ですよね?」
「鍛えることになるので」
そこで言うかどうか迷っていたことを、口にすることにした。
つまり私の母親と兄が勘違いした件だ。
それを伝えるとカルヴィンは、あの白い歯を見せ、実に朗らかに笑う。
この笑顔、母親と兄に見せたい!
これを見たらカルヴィンのことを、変態とは思わないはずだわ。
「自分は気にしませんよ。エリノア嬢が浮き彫りにされた銅レリーフを肌身離さず持ち歩く――かなり変わった騎士だと思われても」
「そんな……カルヴィン様は、まだ婚約者がいませんよね? せっかく縁談の話がきても、誤解されてしまいますよ?」
「それは……少し困るかな? でもそうなったら、エリノア嬢に責任をとってもらおうか」
「へ?」
私が実に間の抜けた返事をしたまさにその時だった。
カルヴィンが苦しそうな表情になったと思ったら、胸を手で押さえ、前傾姿勢になる。
「え、どうされましたか!?」
一気に血の気が引き、心臓がバクバクいい出した。
椅子から立ち上がり、カルヴィンに駆け寄る。
心臓を押さえているということは、やはりナイフで突かれた時の衝撃で、何か影響が出ているのでは!?
「すぐにお医者さんを呼んできますから、待っていてください!」
そう言ってその場から離れようとするが、手首を掴まれ、ベッドの方へ引き戻されることになる。
これには驚き、でも焦ってしまう。
早く医者を呼ばなければと、気が急いている。
「エリノア嬢!」
カルヴィンが碧眼の瞳で私を見る。
先程の苦しそうな様子は収まっている……ように見えるが、どうなの!?
「月の姫君、その寵愛を、わたしには与えてくださらないのですか?」
「!?」
そ、それは……デジャヴを覚える。
王都でロングランしている有名な歌劇『月夜姫と七人の若者』のセリフ。
以前、酔っているカルヴィンがこのセリフを言っていたけれど、なぜ、今!?
「カ、カルヴィン様、今、なぜそのセリフを……?」
「今、だからです」
「?????」
いまだに胸を手で押さえている。苦しいのではないの?
医者を呼ばなくていいの?
「大丈夫なのですか?」
「エリノア嬢のセリフの返しを待っている」
真剣な表情のカルヴィンにそう言われると、もう頭の中は「?????」だが、セリフの返しを待っているならば、返さなければならない――という気持ちになるから不思議だ。
そこで私は、あの夜のことを思い返す。
カルヴィンが言ったセリフに対し、私が口にしたセリフは……。
「わくしの愛を欲しくば、この世で最も紅く輝くあなたの心臓を捧げてください」
なぜ今このセリフを求められるか分からない。
不可能な要求をするセリフなのに。
でも半信半疑でこのセリフを告げると、カルヴィンが真剣な表情から一転。
ふわっと柔らかい笑みを浮かべる。
ドキッと心臓が反応した。
「もし自分の心臓を捧げれば、そなたの愛を得ることができるのですね」
あの夜が繰り返されている。劇のセリフとは違うため、私は苦肉の策でこう返している。
「ええ。心臓とあなたの気持ちを捧げてくだされば」
フッと微笑んだカルヴィンは、自身の胸を押さえていた右手を、私の方へと差し出す。
よく見るとその手は何かを握り締めている。
カルヴィンの左手は私の手首を掴んだままだったが、その手で私の手首を返す。
手の平をカルヴィンに向けることになった。
するとカルヴィンは私の手の平に、自身の右手を乗せる。
コロンと私の手の平に、何かが転がった。
「?」
カルヴィンの右手が離れ、見えた私の手の平には……。
ビックリした。
これは何カラットあるの!?
鮮やかな赤色は、まるでザクロのよう。
でも大きさは、ミニトマトぐらいある。
よく見るとハートの形に加工されている。
「月の姫君。心臓と、自分のあなたへの愛を捧げる」
このルビーと愛を捧げるの……?
「あ、えっと、月の姫君に?」「エリノア嬢に捧げる」
転生した乙女ゲームの世界で、私が見つけ出した推しであるカルヴィン。彼が告げた言葉の意味を、じわじわと理解した私は……。全身の血流が一気によくなり、そして顔が赤くなる。
そんな私を見て、カルヴィンは限りなく甘く微笑んだ――。
~ fin. ~
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