悪役令嬢は話し合う
カーミランは、自身がしたことを王妃に告白し、それは国王陛下に伝わり、ゲースにも知らされることになった。それを知ったゲースは驚き、そして両親からこっぴどく叱られることになる。ゲースとしては、そんな恐ろしいことをしたカーミランとは婚約破棄をしたい……と言い出したというが、「そうやって簡単に婚約解消できると思うな。責任をとれ」と、国王陛下が大激怒。婚約破棄は認められなかった。
一方、カーミランは王妃に話したことで、もう隠し通せないと思ったのだろう。父親であるデンバー男爵に全てを話し、王立警備隊への出頭を決めた。だがしかし。いかんせんカーミランは王族の婚約者という身分。いきなり王立警備隊へ出頭し、犯罪者になることは、大問題でもある。そこでカーミランとデンバー男爵、国王陛下夫妻とゲース、さらに私と父親、厩舎に一時私と共に閉じ込められることになったカルヴィンとで、話し合いの場が設けられた。
大きな円卓のテーブルが設置された、特別会議室が、その話し合いの場だ。
カーミランはこんな日であるが、相変わらずフリル満点のピンク色のドレスだ。デンバー伯爵は黒のスーツ。私達と対面になる席に案内された。
私の父親は赤のセットアップと、なんだかやる気に燃えている感じだ。カルヴィンは上級指揮官の隊服を、ビシッと着こなしている。私は深みのあるパープルのドレスを着ていた。
そこに黒のスーツを着たゲースを連れ、国王陛下夫妻が入って来る。
着席していた全員が席から立ち、挨拶を行う。
国王陛下はロイヤルブルーのセットアップに、白のマント、王妃はお揃いの色のドレス。
これでメンバーが揃い、改めて椅子に腰を下ろし、お茶が運ばれた。
いよいよ話し合いがスタートとなる。
まずデンバー伯爵とカーミランが、謝罪を行った。
父親はご立腹で、うんともすんとも反応しない。
カルヴィンは、一応謝罪は受け入れた。だが表情は硬い。
私は悪役令嬢らしく「私の名誉は、それぐらいでは落ちることはなくてよ。おーほっほっ」と返し、父親は大喜びで、王妃も笑っている。国王陛下とゲースは目を丸くしていた。カーミランは悔しそうな顔をして、デンバー男爵は呆気にとられている。カルヴィンは「やれやれ」という顔をしているが、口元はほころんでいるので、笑っているのだと思う。
謝罪の後は、今回の事件を公にするかどうかが話し合われた。
王族としては、とんでもない不祥事。本来は水面下で処理したい。とはいえ、被害者は私。その決断は私に委ねられたわけだけど……。
実際には何もなかった。厩舎に放置され、カルヴィンに助け出されたのも束の間、再び閉じ込められてしまったが。本当に何もなかったのだ。それでもこの件が公になれば、格好のゴシップネタに、なりかねない。特に救出に来てくれた騎士であるカルヴィンが、面白おかしく噂の種にされるのは、避けたい。
よって、この事件は公にはせず、水面下で処理することにした。
これについては私の父親も納得している。変な噂や醜聞は、一度人の口の端にのぼれば、収拾がつかなくなることを、よく知っているからだ。表面的には沈静化したと見えても。まさに舞台裏では、延々と囁き続けられることになる。それは避けたい――というわけだ。
カルヴィンは私の決断を尊重すると言ってくれた。
やっぱり私の推しは優しい!
次に恐ろしい計画を立て、実行に移したカーミランに対しては……。
父親は「死刑が妥当」の一点張りで、デンバー男爵が泣いて「どうかそれだけは!」と訴えることになる。当のカーミランはここにきて、自分がやったことの罪の重さを知った。そして私の父親の剣幕に押され、何度か意識を失うことになる。
父親の「死刑にしろ!」という気持ちは分からなくもない。だが、死刑は……。
結局、私の希望も通り、かつ公になれば同じく名誉に関わるカルヴィンも「死刑ではなくていい」と言ってくれた。その結果、カーミランとデンバー男爵は、爵位を失うことになった。財産は没収で、大部分が我が家への賠償に、残りはカルヴィンへ渡ることになる。
ゲースは王族から離脱となり、爵位もない平民になることが決まった。これにはゲースが泣いて許しを請うたが、すべての元凶はゲースなのだから、国王陛下夫妻は心を鬼にした。
カーミランは奇しくも妃教育から解放され、そしてゲースと結婚し、その後夫婦二人で強制労働につくことが決まっている。その期間は十年。鉱山での労働だ。十年後、夫婦としてちゃんと労働を終え、心を入れ替えたら、王都へ住むことを許すということになった。
「まったく、あの女狐め。結局、あの女狐は妃教育から解放され、しかも好いた男と結ばれる。なんだかあの女狐の思うツボではないか。本当に、こんな結果でいいのか、エリノア!」
話し合いが終わり、父親、カルヴィン、私は、宮殿のエントランスに向け、歩いていた。決着がついたのに、父親の鼻息は荒い。そして父親が言う通り、カーミランの思うツボかもしれない。
でもこれでいいと、私は思っている。
腐ってもカーミランは、このゲームの世界のヒロイン。そのヒロインが死刑だなんて……。それに。
「爵位を失い、平民となって、強制労働に十年もつくのですよ、お父様。元は貴族の令嬢なのに。それはそれで過酷と思いますわ。メイドも侍女もいないのですよ」
「なんだ、エリノアらしくない。いつものお前なら」「コール公爵」
この瞬間、私はいつもの「おーほっほっ」を求められたのかと思い、瞬時に対応するつもりでいた。だがカルヴィンに声を掛けられた父親は「む、なんだ、サー・カルヴィン」と大人しくなった。
するとカルヴィンは、父親に対し、こんなことを語りかけたのだ。
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