悪役令嬢は意味深な視線に戸惑う
こうして私を浮き彫りにした銅レリーフは、カルヴィンに渡ったのだけど……。
何気に恥ずかしいわよね。
だって受け取ってもらうための口実とはいえ、「カルヴィン様に肌身離さずお持ちいただければ、本望ですわ」なんて言ってしまったのだ。これって推しに自分の写真を渡し、毎日持ち歩いてくださいと願っているようなもので……。
でもまあ、あれはあのフェルッティの“作品”なのだ。芸術品! 描かれているのが私であることには目をつむってもらい、宝石と同価値の作品として、大切にしてもらえればいいだろう。
そんな一幕もありましたが。
カルヴィンも興奮が収まったようだ。いつもの端正な顔になると、私に声をかけた。
「では出発しようか。帰りも送るから、我が家の馬車に乗るのでいいかな?」
「はい! お願いします」
四人乗りの馬車に、カルヴィンと向き合う形で乗り込むと、私の隣には従者、カルヴィンの隣にも従者が座る。なんだか不思議な感じだった。騎士見習いの姿をしているので、今日の私のお供は従者だ。結果、男性四人で馬車に乗り込んでいるように見えるけれど……。私はこんな姿でも女子なのだ。
「エリノア公爵令嬢……ではなく、エリック。いくつか騎士見習い、騎士の待機の姿勢や返事の仕方など、レクチャーしようか」
カルヴィンの言葉に「お願いします!」と返事をすると、早速「そこは、『イエス・サー』で」と指摘される。「! イエス・サー」と返事をして、その後は宮殿に着くまで、いろいろ教えてもらった。
馬車から降りてからは、歩く時の姿勢、背筋をピンと伸ばす、胸をはるとか、仕草や動作にも指示が入る。なんだか本格的だが、私の後ろに続く従者は「お嬢様、本当に騎士見習いのように見えます」と言ってもらえたので、これはもうカルヴィンに大感謝だ。
通常はエスコートされる宮殿の廊下を、ツカツカとカルヴィンと並んで進むのは、不思議な感じ。
しかも警備の兵士やすれ違う騎士は敬礼してくれる! さらに貴族の令嬢から……意味深な視線も向けられた。これにはもうどう反応していいのか分からず、挙動不審になると、隣でカルヴィンがクスクス笑う。
こうして王妃とカーミランのお茶会が行われるテラスに到着した。
テラスだと開放的であり、王妃を護衛する近衛騎士、通常の警備の兵士もいるので、私とカルヴィンがいても目立たない。
まあ、私のこの姿をカーミランが見破ることはないだろう。
ということで、二人が到着する前にテラスに着くと、シャンと背筋を伸ばす。
方々から視線を感じるが、それはカルヴィンに向けられていると理解する。何せ彼は、王立ブルー騎士団の上級指揮官の隊服を着ているのだ。それは一目瞭然。なぜ王妃のお茶会の警備をしているのかと、事情を知らない者は思うだろう。
「!」
カーミランがやってきた。
少しやつれたような?
妃教育が相当答えているのね。
でもまあ、昔の私も苦労したから、それは分かる。
分かるけど……。
私の名誉を汚そうとしたことを思うと、もう同情する気持ちにはなれない。
そう思ったけれど。
なんだかね。
可哀そうに思ってしまうのは、私、お人好しなのだろうなー。
再びカーミランに目を戻す。パステルピンクに白のレースたっぷりのドレスを着たカーミランは、やつれたとはいえ、やはり可愛らしい。あんなに大きなリボンを髪に飾って似合うのは、ヒロイン特権だと思う。
じっと観察しすぎたか。
カーミランと目が合ってしまった!
思わず心臓がドクンと反応する。
だがカーミランの視線は、すぐに私の隣にいるカルヴィンに向けられた。やはり彼の端正な顔は、目をひく。でも舞踏会での一件……軽食で一度とった料理を戻そうとして一悶着があった時、カルヴィンがいたことを思い出したようだ。カーミランの表情が強張る。
「まあ、カーミラン男爵令嬢、よくいらしてくださいました」
王妃がやってきた。
シャンパンゴールドの輝かしいドレスを着ている。
迫力とその存在感と言い、なんだか女神のように見えてしまう。
チラッと私とカルヴィンに視線を向けた王妃の口元が、フッと微笑んでいる。扇子でカーミランに、口元が見えないようにしているが、声を出さずに唇を動かしているその様子を見ると……。
「似合っているわよ」
どうやら私の男装を、褒めてくれたようだ。
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