悪役令嬢は意気投合する
カーミランによる、私の名誉を汚そうとした事件の責任を、王妃が感じている。
これはもしや、カーミランが私を逆恨みし、事件を起こしたと考えているのでは?
王妃は、カーミランの間違ったマナーを指摘をするよう、私に頼んだ。私はそれに応じ、何度となくカーミランの間違ったマナーを指摘している。それに対し、カーミランは確かに頭に来ているとは思うけれど……。
「王妃殿下、それは例の間違ったマナーの指摘を私がしていたため、カーミラン嬢が逆恨みをしたと、お考えですか?」
「ええ、そうよ。憎まれ役を、エリノア公爵令嬢に頼んでしまったわたくしが、間違っていたと思っているわ」
「王妃殿下、さすがにカーミラン嬢も、気づいていたと思いますわ。最初は、婚約解消されたことの腹いせに、私が小姑のようにマナーの間違いを指摘してくる……と思ったかもしれません。ですが私のバックに王妃殿下がいることは、カーミラン嬢も、気づいたと思います」
すると王妃は「では、これが理由かしら?」と目を輝かせて私を見る。思いついた推理の答えを合わせをしたいようだ。
「あの男爵令嬢は、妃教育で躓いているでしょう。でもエリノア公爵令嬢は、彼女よりうんと前に、妃教育を終え、試練を乗り越えているのよ。それに対する嫉妬で、エリノア公爵令嬢の名誉を汚そうとしたのではなくて?」
「それは……可能性としてはゼロではないかもしれません。ですが自身がその妃教育で目が回っている中、わざわざ人を雇い、自身は現場に駆け付けてまで動く理由としては、少々弱く感じますわ」
「そうね。そうなるとあれかしら、ゲースはエリノア公爵令嬢を、男爵令嬢のサポートにつけたがったでしょう? でもそれはわたくしが阻止したわ。ところが男爵令嬢はエリノア公爵令嬢のサポートを必要としていて、断られたことに頭にきた、というのはどうかしら? 腹いせで名誉を傷つけようとしたの」
なるほど。その線は、全く考えていなかった。確かに言われてみると、妃教育に苦しんでおり、経験者である私のサポートを受けられたらと、カーミランは思って……いないわ。いないと思う。
「王妃殿下は、次から次へと推理され、すごいと思ってしまいますわ。ですがカーミラン嬢は、私のことが大嫌いですから、サポートにつけば、それこそヒステリーを起こしそうです。それ以前にサポートにつけようとしていると知ったら、『必要ありません!』と叫んでいそうですわ。ですからそれを理由に、あんなことをしたとは思えませんね」
しばらくは王妃と二人、カーミランの犯行動機を考えたが、答えは分からない。すると業を煮やした王妃はこう宣言した。
「わたくはね、推理小説は謎がきっちり解明されないと、落ち着かないの。どうしてあの男爵令嬢が、卑劣な事件を起こしたのか、その動機を暴きましょう」
「お、王妃殿下、そんな、そんなことができるのでしょうか!?」
「わたくしが主催するお茶会に、あの男爵令嬢を呼び、さりげなく尋ねてみるわ。尋問するわけではないのだから、大丈夫よ。もしあの子がわたくしの前で、ポロっと本音を語ったら……。いきなりそれで連行、にはできないけれど。でも正式な尋問を受けた時に、嘘はつけなくなるわよね。わたくしに嘘をついたの、ということになるから」
「なるほど!」
王妃は私以上にやんちゃで……とても頼もしい!
こうして王妃は男爵令嬢とのお茶会が決まったら、私に教えてくれることになった。
屋敷に戻ると、朗報が届いている。
実行犯の一味の一人が、窃盗で捕まったという。王都から馬車では二日かかる街にいるため、連行には時間がかかるとのこと。ただ、仲間の名前や私を攫った事件への関与も、ほのめかしているという。
ちなみに実行犯は、ブラック・シャドウという、ありとあらゆる犯罪を請け負う犯罪組織。国内にいくつも支部があり、また歴史も長く、様々な事件への関与が疑われている。その根は深く、今回逮捕できるのは限られたメンバーだろうが、これを機にブラック・シャドウ殲滅も目指すと、王立ブルー騎士団は息巻いている。
これに刺激を受けたのが、王立警備隊で、こちらは警察のような組織。国中にやはり支部があり、ブラック・シャドウとは長年因縁の関係にあるというから……なんだかこちらは少し大事になりつつある。
父親はこの報告に大喜びとなり、さらに王妃がお茶会でカーミランから本音を聞き出そうとしていると知ると、ご機嫌になった。
「今回、ゲース殿下との婚約解消があったが、王妃殿下がエリノアのことがお気に入りで、本当によかった。これで王家との関係も良好だ。でかしたぞ、エリノア」
「王妃殿下とは、気質が似ていると申しますか。お話していても、とても楽しいですわ!」
笑顔で答えると、両親は不穏な顔つきとなり、兄はその両親を見て、苦笑している。
そうね、ここはこうでなきゃ。
「おーほっほっ、当然ですわ! 私はコール公爵家のエリノアですのよ。王妃殿下とも当然、意気投合ですわ~!」
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続きは明日、13時までに『悪役令嬢はあの方に会う』を公開します。
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