悪役令嬢は大興奮する
カルヴィンと意外な接点があったと分かってから、時が流れた。そして――。
父親と私がタッグを組み、進めてきた女性用乗馬服。
気づけば母親も協力し、女性用乗馬服の啓蒙活動をしているし、兄は父親が商会の事業に集中できるよう、当主業務をカバーしてくれていた。さらにカルヴィンも騎士団の中で、女性用乗馬服の宣伝をしてくれていたのだ。
騎士団で女性用乗馬服の宣伝?と思ってしまうが、これが実に意味があった。
というのもこの乙女ゲームの世界は、前世でいう中世のような価値観に基づくので、騎士に女性はいない。だが騎士団にいる騎士には、姉や妹がいる者も多かった。家族の中で騎士を目指す者がいると、必然的に騎士見習いになる前から、自宅にて剣術や馬術に励む。それを見る姉妹は、自然と剣術や馬術に興味を持つ。興味を持っても、さすがに令嬢が剣術を習うわけにはいかない。だが乗馬は別だ。
騎士の姉妹は乗馬好きが意外といる――というのが、この乙女ゲーム世界のあるあるだった。
というわけで「どうも王都では、女性用乗馬服がこれからは主流になるらしい」……なんて噂話をしてくれるだけで、大いなる宣伝効果になっていた。
こうして、満を持して迎えた、女性用乗馬服の発売日。
朝イチで私は、王妃が来店予定の宮殿近くのお店へと、向かっていた。
お店についてからは、早速、新作の乗馬服に着替えている。
これはもう、男性用の乗馬服を踏襲していたこれまでの乗馬服にはない、斬新な色合いのものだ。
まずジャケットはピンクベージュ。まさに桜色という淡い風合い。上半身がパステルな色味なので、ズボンはワイン色、黒革のロングブーツと、下半身は引き締めカラーでコーディネートしている。
首元を飾るスカーフは、ペールブルーのシルク生地に、白と銀のフェザーがデザインされていた。アクセントで、ローズの花びらも散りばめられている。ちなみに髪はシニヨンにしてまとめていた。
乗馬服と言えば、黒、紺、茶と、暗めの色が多い。でもこういう明るい色、いわゆるパステルカラーは、令嬢受けもいいと思うのだ。
姿見に映る自分を見て、私も、このお店の店員も、満足気。
でもお手伝いで特別に屋敷から連れてきているメイドは「お嬢様っぽくない!」「真紅のジャケットはないのか」と悪役令嬢コーデを求めるが、今日はそれは無視だ!
さらにはいつも黒のワンピースに白エプロンの彼女達のことも、変身させてしまう。
つまり店員やメイド達も、乗馬経験の有無に関わらず、ひとまずマネキン代わりで乗馬服を着てもらったのだ。これで用意は整った。父親は別のお店にいるが、王妃がくる昼時にあわせ、ここのお店へ来ることになっている。
母親の啓蒙活動、カルヴィンの宣伝活動。私も舞踏会に顔を出しては、女性用乗馬服がいかにお洒落であるか、アピールし続けた。
令嬢達は来てくれるだろうか?
こればかりは不安と期待が入り混じり、ドキドキだったけれど……。
「お嬢様、お店の外をご覧になってみてください!」
メイドに言われ、そっと窓から、店の外の様子を伺ってビックリ!
まだオープン一時間前なのに! 店の前には、沢山の令嬢が集結している。
店員の一人を偵察へ向かわせると、彼女達が何者であるか、浮き彫りになった。母親から噂を聞いて、共にやってきた令嬢達。騎士の兄弟を持つ令嬢も多くいる。わざわざ地方領から泊りがけで来ている令嬢もいるという。さらに宮殿で噂になっており、気になって来たという令嬢もいて、事前の周知活動が、功を成していた。
それにしても、地方領からわざわざ来ている令嬢がいるなんて!
急遽用意したお茶菓子を配り、準備を急ピッチですすめ、当初予定の二十分前オープンを目指す。
「ではみんな、用意はいいかしら?」
店員、特別お手伝いのメイド達が、一斉に頷く。
遂に、女性用乗馬服の販売が、スタートした。
◇
王妃用に、各色をあらかじめ取り置きしておいて、本当に良かったと思う。
オープンと同時に店に入って来た令嬢とマダムは、見たことのない色の乗馬服に、女性向けのズボンに、もう大興奮だった。マネキンに着せている乗馬服は、瞬時に売れて行く。私が来ているコーデも取り合いで、どんどん在庫がはけていく。マネキンに商品を着せるのが、追い付かない! こうなるとカラーを豊富に用意していたので、皆、思い思いで組み合わせを考える。
満足できるコーデができると、これまた飛ぶような勢いで、お買い上げとなった。
さらにオーダーメイドも受け付けているが、こちらは既にパンク状態。後日、お屋敷に伺う約束をとった令嬢が、何組もいる。
そんな勢いでどんどん倉庫から商品が消えて行くので、もしかすると完売するのでは!?――なんて期待も膨らむ。これにはもう、嬉しくて、大興奮状態だ。
同時に。
王妃用に取り置きをしたことに、胸をなでおろしていると。
「エリノア、どうだ、こっちの店の様子は!」
父親が母親を連れ、店に入って来た。
……ここで私はビックリすることになる。だって、母親まで乗馬服を着ている! しかも私のコーデに近い。ペールブルーのジャケットに、プラム色のズボンにダークブラウンの革のロングブーツ。首元はサーモンピンクのイニシャルモチーフのシルクのスカーフだ。
なんというか、母親が若々しく見える!
「お父様、お母様、こちらのお店は大盛況ですわ!」
笑顔で答えると、二人はなぜか表情が冴えない。
ハッとして、私は腰に手にあて、眉をくいっとあげる。
「私が陣頭指揮をとっているのですから、もう、飛ぶように売れてますわ。これでは完売してしまうかもしれませんわ、お父様。ちょっと需要予測が甘かったのでは? これだからお父様はダメですわねぇ、おーほっほっ!」
「む、そんなに売れているのか! なんとも生意気な言い草だが、お前が正しい。さすがに宮殿に近い店舗だ。母さん、急ぎ工場へ在庫を取りに行ってくれないか?」
「あなた、任せて頂戴。ジョージ、すぐに馬車を!」「かしこまりました、奥様!」
ヘッドバトラーを連れ歩いていることに、驚いてしまう。
屋敷で留守番している兄の世話係は、いるのだろうか!?
なんだか臨戦態勢で大盛り上がりになっているところへ、ついに王妃が来店した!
ウキウキで王妃を迎えようとして「え……」と思う。
なぜなら王妃の後ろに、ゲースとカーミランがいるではないですか!
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続きは、22時までに『悪役令嬢は二人の幸せを願う』を公開します。
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【お知らせ】
完結⇒一気読み可能です!
『ざまぁは後からついてくる
~悪役令嬢は失って断罪回避に成功する~』
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