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悪役令嬢は徹底して悪女を演じる~おーほっほっ!は卒業したい!~  作者: 一番星キラリ@9/2やられる前に発売:商業ノベル&漫画化進行中
【本編】

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悪役令嬢は真実の愛が欲しい

 ゲースが私を抱き寄せた瞬間。

 本気で背負い投げを検討した。

 でも、合気道を少々、前世で習ったものの。

 柔道の経験はない。

 もし経験があ――


「エリノア嬢、そこにいらしたのですね! お待たせいたしました。屋敷に参りましょう」


 この声は、カルヴィン!


 ゲースは澄み渡ったカルヴィンの声に、ビクッと体を震わせた。自然と私の方へ伸ばしていた腕を引っ込めている。


 この様子に私は勿論、そばで控えていた侍女も、ホッとした表情になっていた。


 ナイスタイミングで登場してくれたカルヴィンは、王立ブルー騎士団の上級指揮官に着用が認められている、オリエンタルブルーの隊服姿だった。襟、袖、裾にあしらわれた白のラインが、目にも清らかで、彼によく似合っている。


 こちらへと駆けてくることで、サラサラの金髪が揺れ、それはなんだか輝いているように見えた。やはり彼は“この世界で唯一の私の推しだわー!”と思ってしまう。


 ちなみに、あたかも待ち合わせをしているような口ぶりだが、そんな約束をした覚えはない。完全にカルヴィンのアドリブだ。


「あ、これはゲース殿下。失礼いたしました。お話の最中でしたか?」


 私のそばに来たカルヴィンは、爽やかにゲースに尋ねた。

 こんな清々しさで聞かれては、ゲースはたじろくことになる。だって私を抱き寄せようとしていたのだ。それには下心があったと思う。


 目を泳がせながらゲースは、「ま、まあ、そうだが……」と答え、そしてチラリと私を見る。でも私はそれに、気づかないフリをする。代わりにカルヴィンを見て、ニコリと微笑む。


「今日は我が家で夕食のお約束でしたよね。兄も待っていますわ。それに父親も、今日は早く戻ると言っていましたから、帰りましょう」


 カルヴィンの言葉に合わせた形だが、このまま本当に、我が家で夕食でいいだろうと思っていた。


「ええ、そうですね。ロードリッヒもコール公爵も、待たせては申し訳ないです。……では殿下、よろしいでしょうか?」


 今、こうやってみると、ゲースよりカルヴィンの方が身長があった。よって立場的にはカルヴィンが臣下なのだけど、ゲースを見下ろす状態。しかもカルヴィンは存在感があるから、ゲースはなんだかたじろいでいた。


「あ、ああ。構わない。……エリノア、さっきの件だが」

「殿下。何かありましたら、王妃殿下にご相談いただけますか? 私、王妃殿下とでしたら、頻繁に連絡をとっていますので」


 もしもゲースが、カーミランの妃教育がうまくいかないから、私に助言を求めたいと王妃に相談したら。あの王妃のことだ。「妃教育をこなせないような芋男爵令嬢との婚約なんて、解消なさい!」とビシッと言ってくれるだろう。


「母上に……。そうか。分かった。ではそうしよう」

「ありがとうございます。それでは私は、これで失礼させていただきますね。ご機嫌よう、殿下」


 私がお辞儀をすると、カルヴィンも頭を下げ「では殿下、失礼いたします」と挨拶をした。

 それを終えると。

 カルヴィンは、ごく自然に、私へと手を差し出す。

 つまり、私をエスコートし、歩き出したのだ!


 我が家で何度も会っているカルヴィンであるが、エスコートされる機会はなかった。舞踏会や晩餐会に行くと、私をエスコートするのは兄だ。よってカルヴィンにエスコートされるのは、初めてのこと!


 これは……嬉しくなる。


 だってカルヴィンは、この世界で私が見つけた推しなのだから!

 ただ、白の手袋を彼がつけているのが残念。

 素肌に触れて見たかった……なんてことを思ったり。


 ついミーハー心で盛り上がってしまうけれど。


 エスコートの件は、一旦おいておいて。


 万が一のことがある。

 歩きながらの会話は、王妃とのお茶会で食べたスイーツの話と、当たり障りのないことを話した。そしてエントラスホールに到着すると、ドアマンに頼み、我が家の馬車を呼んでもらう。


 カルヴィンは愛馬で宮殿に来ていたようだが、馬丁を呼び出し、屋敷へ連れ帰るよう頼んでいた。


 こうして馬車に私とカルヴィンは乗り込む。侍女も同乗している。そこでようやく本題を、話せる状態になったのだ。


「夕食の約束などないのに、咄嗟に嘘をついてしまったな。申し訳なかった」


「いえ、こちらこそ、助かりました。実はあの時……」


 ゲースから、妃教育に苦戦するカーミランを助けるよう求められたこと。さらには何を勘違いしたのか。あろうことかゲースは、私がまだ彼に未練があると思った。宮殿に来たのも、自分に会いに来たのだろうと、ゲースが言い出したことを話して聞かせた。


「なるほど。それでエリノア嬢のことを抱き寄せようとしたと。それは……とんでもないことだな。自分としては、婚約者がいるゲース殿下が、元婚約者を抱きしめようとしていることに、驚愕してしまった。角が立たないよう配慮しつつ、ストップをかけたものの……。ちなみにエリノア嬢は、殿下に未練は」「ありません。これっぽっちも!」


 即答する私を見て、カルヴィンは快活に笑う。

 笑顔が眩しいが、その白い歯も眩しい!


「ゲース殿下は、エリノア嬢と婚約を解消すると、早々にあのご令嬢と婚約している。エリノア嬢も婚約すれば、あらぬ誤解を受けなくなるのでは?」


 ああ、カルヴィン! 推しであるあなたの言葉に、反論はしたくないけれど。

 婚約と言うのはですね、相手あってのことなのですよ。

 私には……いないの、婚約するような相手が!


「コール公爵のところには、沢山の縁談話が来ていると、ロードリッヒから聞いている。ただ、公爵は、エリノア嬢が今は別のこと……例の女性用乗馬服に夢中だから、少し落ち着いたらその話をするつもりなのだとか。……実際のところは、どうなんだ? 縁談話をコール公爵にされたら、進めてみる気はあるのかい?」


「それは……。ゲース殿下と派手に婚約解消をしているので、そういった話は、数年はないだろうと思っていました。正直、縁談話が来ていることに、逆に驚きです。でも一応、私は舞踏会や晩餐会に顔を出しているのですよ。兄同伴ですが。もし私という人間に好意があるなら、そこで少なからずアプローチがありますよね?」


「なるほど。それは一理ある」


 カルヴィンは長い脚を組み、同意を示してくれる。

 推しが自分に寄りそうようにしてくれると、これは嬉しい!


「結局、アプローチなんて、一切ないのです。そうなると今、父親のところへきている縁談は……。公爵家との婚姻関係を、望んでいるだけだと思います。私は……できれば私を見てくださる相手と、結ばれたいと思っているのです。自分の立場を考えると、それは難しいと思いますが……」


 王侯貴族の結婚なんて、愛がないのが普通だ。もはや家同士の結びつきが前提だったりするから。でもこの世界において、婚約解消はそうそうあることではない。それを経た今、できれば次は真実の愛に出会いたい……なんて夢を描くけれど。


 無理ね。


 何よりもその前に、「おーほっほっ」から卒業したいのよ、私は!


「難しい……かもしれないが、エリノア嬢はそこで諦めるような性格ではないだろう? 君は自分に言ってくれたじゃないか。『諦めたら、そこで終了ですわよ』って」

お読みいただき、ありがとうございます!

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