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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ブク・ブックリン

作者: ドナルド・バーダック

@1 

 社宅のマンションで由美が洗濯物を畳んでいた。一家の大黒柱であるヒロシはソファーでくつろいで本を読んでいた。一人娘のミキはその前のテレビを独占して、いつもの番組に夢中だった。四角を並べて作ったキャラクターがコンピューターゲームの世界で、鬼ごっこ等の様々な遊びをするというユーチューブ番組だ。今日はゲーム空間でモンスターから逃げ回るという内容だった。

「あなた、もうお風呂入っちゃってよ」

 由美はヒロシに言った。

「はーいママ。よぉ~しミキ、お風呂入ろう。ユーチューブはもうお終い」

「えーもうちょっと~」

「ほらほら、競走競走」

 ヒロシは娘を操るすべを熟知している。父親が服を脱ぎながら風呂に走り出すと、ミキも後を追いかけた。

「もう~」

 由美は二人が脱ぎ散らした服を拾って洗濯物かごに放り込んでいった。

「ねえねえ、ブクブク入れたい」

「ハイハイ、入浴剤な。この引き出しに、あれ?」

 引き出しを開けると、入浴剤は切らしていた。

「あ~ 入浴剤を切らしてるな」

「えーやだやだ。ブクブク無いとお風呂入らない~」

 ミキは最近、泡を噴き出しながら溶けていく固形の入浴剤にハマっている。手の平の上で溶かしたり、たらいの中で溶けていくのを観察して遊ぶのだ。

「困ったな~」

 ミキは拗ねると、言う事を聞かなくなって手が付けられない。

「ああ、そうだ。そういえばこの間、買っておいたんだっけ」

 そういえば会社の帰りに由美に頼まれて、他の細々した雑貨と一緒にコンビニで買っていたのだ。

「お~い由美、俺の部屋の机の上にコンビニの袋が有るから、中の入浴剤とってきて~」

 ヒロシは風呂場に備え付けのインターホンのボタンを押して由美に言った。

「ハイハイ」

 由美は洗い物を始める前だったのでインターホンに答えると、ヒロシの部屋に入っていって入浴剤を探した。

「この箱かしら?」

 机の上に箱が置いてあった。開けると小分けにした袋がたくさん入っていた。

「あ、これね」

 由美は袋を取り出して風呂場に持っていった。箱には「実験用バイオ社製 ブク・ブックリン サンプル」と書いてあった。由美は入浴剤と間違えて、ヒロシの会社で作っていた新型の試験薬を手に取ってしまった。本当の入浴剤は机の脇のフックに引っかけられたコンビニ袋の中にあったのだ。

「ハイ、どーぞ」

「私が、私が入れるの、早く袋開けて!!」

 由美はミキに袋の中味を渡すと、自分は洗い物をしに出て行った。

「わーい」

 ミキはいつものように湯船に浮かべた風呂桶に入浴剤を入れて遊び始めた。「ブクブクブ…」

「フンフンフン」

「ふー」

「見て見てパパ、私の手、紫色!!」

「わーすごいすごい。しかしこの入浴剤は匂いが強いな~硫黄系かな?」

 風呂桶からは桃色の煙が立ち上り、卵の腐ったような匂いが漂っている。煙を吸い込むと、何だかポカポカして酒に酔った様な気分になってきた。

「ほらほら、もう湯船に溶かしちゃって」

「はーい」

 風呂桶の中の液体は紫色になっていた。それをちょぼちょぼ湯船に混ぜていく。

「パパ、私の手シワシワ」

「ほんとーだ、手がシワシワだ」

 ヒロシは目を閉じたまま答えた。子供の手は繊細ですぐにふやける。いつもの事だと思った。風呂はとても気持ちが良かった。まるでお湯に体が溶けていくような感じだ。だからミキの手は紫色に変色して、シワシワというよりもドロドロに溶け始めている事にも気が付かなかった。

「ねえパパ、手がホネホネになったよ」

「うん、手がホネホネ」

 ミキは骨が出てきた自分の手を興味深げで観察していた。ぜんぜん痛くは無かった。


 由美は洗い物が終わってテレビを見ていた。二人がお風呂に入ってから、もう三十分も経っている。

「あの人達、まだお風呂で遊んでるのね。困ったもんね」

 テレビでは嫌いなお笑い芸人がネタ披露を始めた。不倫発覚して以来、この芸人が出る番組は見ない事にしている。チャンネルを変えたけど見たこと無い映画を途中から見る気はしない。ニュースもしていない。ユーチューブもお好みでは無かった。

「ああ、眠い。私も早くお風呂に入って寝たいのに…」

 由美は立ち上がって風呂の様子を見に行った。

「ねえ、いつまで入ってるの?」

 返事は無かった。

「ねえ! うわ、くっさ、なんて入浴剤なのよ」

 風呂のドアを開けると脱衣所に熱い空気が吹き込んで視界が桃色になった。中を覗いたが誰もいない。風呂のお湯は紫色でドロドロしていた。二人とも、とっくに風呂を出ているようだ。脱衣場の床は渇いている。

「もう、お風呂から出たなら言ってよ。濡れたままでかくれんぼでもしてるのかしら」

 由美は服を脱いで、自分も風呂に入ることにした。

「気持ち悪いし、今日はシャワーだけで良いかな。でも、暖まりたい気持ちも有るのよね。私、冷え性だし」

 しばらく考えていると、匂いにも慣れてきてそれほど不快でなくなってきた。

「そうよね、良い温泉って臭いもんだし」

 由美はやっぱり湯船に浸かることにした。

「わーい、ママも入ってきた。ゴポゴポ…」

「なんだ由美の奴、また最近太ったんじゃ無いか? ゴポゴポ…」

 お湯の中でミキとヒロシが言った。二人はお湯に溶けて一緒くたに混ざっていた。

「なんだかお湯がボコボコ泡立ってるみたい。なんだか気持ちいいわ。私も長風呂しちゃいそう」

 湯船に浸かっていると、だんだんウトウトしてきた。眠気が気持ち良い。

 ザパー

 由美の手が溶けて骨が出てきたが不思議にも思わなかった。その骨も溶け始めた。ついに腕は崩れて湯に沈んだ。

「あらいやだ。私の腕が」

「バー」

 湯船から人っぽい頭が盛り上がってきた。ミキに似た顔をしていた。

「まあミキ、あなたまだ入ってたの?」

「うん、パパも一緒だよブクブク…」

「ブクブク…ミキ、バラすなよ」

 ヒロシの頭も水面から盛り上がってきた。

「まあ、あなたもいたのね。ポッ」

(夫と一緒にお風呂に入るなんて、娘が産まれてからだから5~6年ぶりかしら?)

 と、由美は思った。

「ママ顔がドロドロよ、お婆ちゃんみたい」

「まあ、イヤだわ。長湯しすぎたのかしら」

「そんなこと無いよ、ママは相変わらずキレイだよ」

「まあパパ…」

「ひゅーひゅー」

「「ワハハハハ」」

 風呂場に家族の笑い声が溢れた。


@2

「はあ、もう終わりね…」

 彩菜は橋の上に立ち川を眺めて溜息をついた。店の借金返済のためにあらゆる努力をした。しかしもうどうにもならない。後は自分にかけた保険金を当てにするしか無いだろう。この町に出てきて不安でどうしようも無いとき、この川の名前が「彩菜川」だと知って運命を感じた、あの日渡ったこの橋で、自分自身の人生にケリを付けるのだ…。

「はあ、やっぱりこんな製品売れる訳無いよな…」

 夕日を背に、女の反対側からスーツを着た男が橋の上をとぼとぼ歩いてきた。一日中、新製品の入浴剤を売り歩いたがほとんど売れなかった。佐山と言った。

「なんだよ、ブク・ブックリンって。企画部は売る気あんのかよ」

 新製品の企画部は社長の直轄で、社内でもアンタッチャブルな部署であった。マーケティングを無視した傍若無人な企画でワイドショーを賑わし、それが広告効果に繋がる事もありワンマン経営がまかり通っている。だが、それを売り歩いて責任をとらされる営業社員にとっては地獄でしかない。

「俺は家のローンも残ってるし、息子は大学受験で娘は高校生、これからもっともっと金がかかるってのになあ…ああ、くそムカつくな」

 佐山はアタッシュケースを開けて中味を見る。宝石のように規則他正しくずらりと並んだブク・ブックリン。

「ちくちょー、こんなもん」

 ひとつ取り出して川に向かって投げ捨てた。ボチャンと音がしてとても気持ちが良かった。ブク・ブックリンが落ちた所からブクブクと泡が立ち始めた。佐山はブクブクを見ていると笑いがこみ上げてきた。

「うへへ、こんなもんこんなもん」

 ぼちょん、ぼちょん

 佐山はブク・ブックリンを乱暴につかんで川にどんどん投げ込んだ。環境を汚染してるという背徳感にゾクゾクした。川の水はすぐに泡立ち驚いた魚が飛び上がった。だが、その頭はすでに白骨化していた。飛び上がったは良いがドロドロした水面には沈み込むことは無く水面にポトッと落ちて魚の形を残したまま溶けていった。

「ちょっと、アンタ!!」

 突然、後ろから肩をつかまれた。女の声だ。振り返ると薄いワンピースの上にケープを羽織った若い女が立っていた。いかにも夜の女という風貌で気の強そうな目で佐山をにらみつける。

「アンタ、何やってんのよ。私の川を汚さないでよ」

「なんだ? おまえの川なんてもんが有るかよ、川はみんなの物だろ」

「そうよ、だからアンタ一人がストレスのはけ口にみんなの川を汚すなんて許せない。それに、この川は私にとって特別なの」

「特別ぅ?」

 女は橋の付け根に埋め込まれた銅板を指さした。

「私の名前は彩菜。源氏名もAYANAよ。私とこの川は運命で繋がっているの。どう、分かった?」

「なんだ、そりゃ」

 佐山は彩菜を無視してブク・ブックリンの入ったアタッシュケースを持ち上げた。

「そんなもんが、どうした!!」

 彩菜に見せつけるようにアタッシュケースごとブク・ブックリンを全部、川に投げ込んだ。

「わはは、ざまーみろ。ギャハハハ」

 目の前で拳を握り震える女を見下ろして、佐山にサディスティックな笑いがこみ上げてきた。

「こんにゃろう」

 彩菜はハイヒールを脱いで手に構えた。そして、振りかぶってハイヒールの踵で佐山の頭を思いっきりぶん殴った。ヒールの先端が佐山の耳に突き刺さってぶら下がる。

「ギュア、て、てめえ」

 ぼたたたた、ハイヒールと血が地面に落ちる。耳が聞こえない。

「お、おおお、おれの、鼓膜が、破れたぁ~」

「ふん、ざまーみろ」

 佐山の目が狂気に血走った。

「クソ、死ね、死ね~」

 佐山の伸ばした腕が、彩菜のか細い首に食い込む。

「うぐぐぅうう」

 力では到底男にはかなわない。でも、死のうと思って橋にやって来たのに、こんな男に殺されるのはゴメンだった。彩菜は抵抗して爪を佐山の目に突き刺した。ネイルが折れて爪が剥がれたが、脳内でアドレナリンが分泌して痛みを全く感じなかった。

「ギャアア」

 二人はもつれ合い、橋の手すりを乗り上げた。

「うわああ」「ぎゃあああ」

 ボチャン!!

 二人は手すりを乗り越えて、ブク・ブックリンに汚染された川に落ちていった。

 ブクブクブク、川は泡だって二人の体は溶けていく。

 佐山の目に突き刺さった指が骨になる。彩菜の首を絞める手も骨になる。二人は絡まりながら混ざり合っていく。

「ゴボゴボ、シネシネ~」

「ガババ、アンタなんて~」

 やがて二人の落ちた所はピンクの細かい泡だけになった。コポッと、ときどき浮いてくる大きな泡が二人が未だに続く格闘を物語っていた。


@3

「う~ん、ほんとにナイスアイデアだと思うんだけどな~」

 セールスマンから格安で買い取った入浴剤を眺めながら坪田はつぶやいた。銭湯の開店時間が近づいている。

「バレないよなぁ…?」

 じつは風呂の湯をずっと替えていない。なんか法律で、浴場のお湯は毎日代えないといけないらしい。ラジオなんとか菌とかで死ぬとか何とか言ってた。坪田は笑って受け流した。中卒の坪田には細菌だとかはよく分からない。どうせ家の銭湯を継ぐんだから勉強なんて無駄だと思っていた。案の定、行ける高校は無かった。

「ふふ、入浴剤で誤魔化すってのはナイスアイデアのはずだ。ブク・ブックリン、強烈な匂いを発するとあのセールスマンは言っていた。コイツを入れれば風呂の汚れも匂いも誤魔化せる。俺って頭が良い。ウンウン、オレは地頭は良いんだよ」

「誤魔化すって何の事だい?」

「おっと…」

 もう客が入っていたのに気が付かなかった。毎日、退屈な番頭をやってると独り言を言うクセが付いてしまった。

「アンタのとこの風呂、ときたま臭うよ。ちゃんとお湯代えてるの?」

「へへ、勿論ッスよ」

 嘘だった。風呂のお湯は全然代えてない。入浴剤で誤魔化す作戦なのだから。

「今日から特別な入浴剤を入れたっス。温泉ですよ温泉。特別料金とりたいくらい。へへへ」

 オバサンはじろっとした視線を残しながら、番頭に五十円玉をひとつ置いて女湯に入っていった。

「ちぇ、これっぽっちの金で毎日風呂のお湯を代えられる訳ねーだろ。つっても値上げしたら橋の向こうの健康ランドに客とられちまうしな、ギリギリの商売感覚って奴よ」

 坪田がブラックミュージシャンの真似をして五十円玉を紐に通して首にかけていると、また客が入ってきた。今度はサラリーマン風の男性客だった

「毎度あり」

 サラリーマンは五十円払って男湯に入っていった。

「ねえ、ここってスマホ決済できないの? パイパイ払いとか…」

 男に続いて派手めな女が入ってきた。乳が服からこぼれだしそうだ。見たこと無い客だった。

「パイパイでお支払いは大歓迎ですが、スマホ決済って何です? え、スマタ決済?」

「何言ってんのよバカ。電子決済に決まってるでしょ」

 坪田は電子決済の噂を聞いたことがある。テレビでCMをやってた。なんか新しい機械を使うのだ。そんなものは導入してる訳無い。ウチは新しい機械を導入する余裕なんて無いんだから。パイパイ払いがスマタ決済で無いと分かると、坪田は女への興味を途端に無くしてボロボロの両替機をアゴでしゃくった。女は文句を言いつつ、素直に両替機を使った。

 今日は客の入りが多いみたいだ。通りすがりで新規の係の客が入るなんて何年ぶりだろう。

「あれ、もしかしてあの入浴剤の匂いのせいかな? そういやここに座ってると匂いが薄まって良い匂いに思える。入浴剤を入れてるときは強烈な匂いで思わず逃げ出したけど、香水だって原液は臭いって言うし、良い匂いってのは案外こんなもんなのかもな…」

 それからも客は次々と入ってきた。しかし、出て行く客は一人もいなかった。ふだん客の来ない銭湯で、入ってくる客の対応に忙しかった坪田はそれに気が付くことは無かった。坪田の首には五十円玉がビッチリと繋がって首に巻き付いていた。

「さすがにこれだけの五十円玉は重いな。いったい幾ら有るんだろう」

 坪田は首から五十円玉のネックレスを外して数え始めた。

「いちにいさんしい…」

 五十円玉を数えていると、だんだん眠くなってきた。坪田はそのまま番頭代で眠ってしまった。

 ドロドロしたピンクの煙がお風呂場から漏れて漂っていた。坪田の皮膚はブツブツと泡立ち始めていた。このまま数時間もすれば、他の客と同じ様に坪田の体もドロドロに溶けてしまうだろう。


@4

 バイオ製薬は今や世界一の製薬企業にのし上がった。すべては社長である栗山の力あっての事だった。

 栗山は街一番の高層ビルから下々の世界を睥睨していた。どのビルも自分のビルには及びも付かないちんまりとした小さなビルばかり。ビルの大きさは企業の大きさと会社の力そのものだ。そしてその力とは栗山の力なのだ。

「社長、ブク・ブックリンの売り上げが一〇〇兆円に達しました。今や世界中の人間にバイオ社のブク・ブックリンが行き渡っています。これで我が社のブク・ブックリンは世界征服の野望を達成しました!!」

 秘書の田淵が栗山に言った。

「間違いないな、子供から大人、入浴に介助の必要なお年寄りまで、すべての人間にくまなくブク・ブックリンは行き渡ったのだな?」

「はい、間違いありません!!」

「そうか…、ブク・ブックリンのお風呂に入浴すれば、人間はみんなブクブクのドロドロに溶けてしまう…。まだ一人、入浴していない者が残っているようだが?」

「しゃ、社長、まさか!?」

「それは、おまえだ、田淵ぃ~!!」

「そんな、今までお仕えしてきたのに」

 栗山は田淵にのしかかった。

「止めて、止めてください、社長ぉ~」

「さあ、こっちだ、こっちに来い!!」

 栗山は田淵を力ずくで水槽の方に引きずっていく。社長室の水槽にはブク・ブックリンに満たされていて、その中を骨と目玉だけの魚が泳いでいた。

「さあ、おまえもブクブク、ドロドロの仲間入りだ!!」

「ぎゃあ、こ、このう!!」

 田淵は柔道でオリンピックに出場したこともある。その実力を認められてボディーガード兼秘書として栗田に採用されていたのだ。その気になれば自分の身は自分で守ることはできる。社長をといえど一般人と力は変わらないのだから。

 しかし、社長はすごい力で田淵を押さえ込んで逃れることができなかった。関節をとろうとして社長の腕はグニグニとゴムのように変形して技が極まらない。

「なぜだ? なぜ、ただの人間に、おれの柔道が通じない!?」

「愚か者め、ただの人間に世界征服などできるか。冥土の土産に見せてやろう。オレの本当の姿を」

 田淵は水槽の液体に頭を半分溶かされながら見た。社長の耳からドロドロの液体が流れ出しているのを。

「そうか、あなたはすでに、頭蓋骨の中にドロドロ生物に寄生されて、そしてその力で地球侵略を行っていたのか…!!」

「ふふふ、このドロドロこそは(ワタシ)そのもの。我々(ワタシ)は古代に隕石に載って地球にやって来た原始生命。ワタシは有史以来、何ども人類の支配を試みてきたがその度に失敗した。人類を支配するための世界的な流通、情報網が完備されていなかったからだ。しかし、現代はスマホやSNS、ネット通販によって、世界的な流行の伝播と商品普及を一瞬にして行える。皮肉なことだな。オマエ達の便利な発明が自分たちの弱点になるとは。オマエ達がワタシの脅威に気が付く前に、ワタシは世界征服を完了する事が出来たのだ!!」

 田淵はすでに聞いていなかった。水槽の液体に溶かされた田淵の意識は、その他のすでにドロドロに溶かされた地球の人々の意識とテレパシーで繋がってごちゃ混ぜになって、個人のアイデンティティを維持できなくなっていたのだ。

「フフフ、地球は、我々(ワタシ)が支配する。我々こそが世界の支配者だ!!」

 夕日が沈もうとしていた。人のいなくなった無人の都市を暗闇が飲み込んでいった。


 了

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