原始人とえんぴつ
「うほっ?」
驚きの声をあげて原始人の茶色い彼はそれを見つけた。
泥の傾斜の中腹に突き刺さっている不思議なものだった。
どうやら木で出来ているようだが外皮は不自然な緑色をしており、やたらと細い。真ん中に黒い何かが埋め込んであるらしく、断面には芯が見えていた。
彼はそれを引き抜くと、嬉しそうに持って帰った。
みんなのところへ帰ると、自慢げにそれを見せびらかした。
しかしみんなはあまり興味を示さない。彼が何も食べ物を獲ってこなかったことに不満そうだ。
何に使うものやらさっぱりわからないものを自慢されても何が嬉しいのやらさっぱりわからなかった。
「うぽつ!」
彼女のうちひとりが前に進み出て、珍しそうにそれを眺めて、すぐに飽きると、彼の頭をぽかぽかと叩いた。
「ばぶみー!」
興味を示してもらえなかった彼は、甘えるように、彼女にすがりつこうとする。
「クサ! クサ! クサ!」
彼女が笑いながら激怒した。前歯を全開して見せて、彼を詰る。
「リムンゾ!」
「ぬ……ぬるぽ」
「ガアアッ!!」
「マ。イマキタサンギョ」
色黒の別の彼が石斧を担いで彼に近づくと、少しだけ理解を示してくれた。
「ぐ……ぐぐるる」
そう言うと彼から不思議なそれを受け取り、色んな角度から眺め回す。
先の尖った六角形の緑色の外皮をもつ木の棒を観察しているうちに、きゅぴーんと音を立てるように目が輝いた。
「わんちゃん! わんちゃん!」
何かがわかったようだ。
石斧を投げ捨てると、逞しいその腕でえんぴつを正しい持ち方で握り、石板に激しく芯の先を走らせはじめる。
しかし何も書けなかった。紙がなければえんぴつはその本領を発揮できないのだ。
イライラした色黒の彼はえんぴつをヤケクソに振り回すと、石板に叩きつけた。
「モチツケ――ッ!!」
止めようとする茶色い彼の前で、えんぴつは真っ二つに折れ、先の部分が草むらの中へ飛んで消えた。
ぽっきーん!
「えんぴつたーそ!」
しかし茶色い彼はその時、ひらめいたのだ。
ぽっきーん! という音は、とてもいい音だった。
なんだか悲しさに混じって胸がスカッとするような音として響いた。
獲物を狩りに出掛ける男たちから外れて、茶色い彼はそれから毎日岩を木の枝で叩くようになった。
色んな枝を試行錯誤した末、ドラムスティックを発明することとなる。
さまざまなビートも創始した。
かくして人類は音楽を発明したのである。