97 ◇大勝負の時
それからは話がとんとん拍子に進んでいった。
そして私は神谷家の一員として迎えていただくために、ご両親、お兄さん
ご夫婦と対面することに。
無職は強し、神谷さんが平日でも構わないため大安吉日の11月25日水曜日に子供たち共々顔見せに伺うことになった。
さぁ、今の作った姿から脱皮して、以前の私で突撃だわぁ~。
別人28号で神谷家に乗り込んでやろうじゃないの。
子供たちに引かれるのはちと悲しいけど、ここは一番大勝負の時。
『相手に飲まれてなるものかぁ~』と、私はひとり息まきその日を迎えた。
神谷さんとは別行動で行くことにした。
「香さん、どうして僕たちと一緒に行かないんですか?」
「戦闘モードで行きたいので」
「うちの両親の手ごわさを話したのがいけなかったんですね。
亡き妻には冷たい仕打ちの両親でしたから」
「神谷さん、あなたと結婚すると決めたからには、私は失敗しませんから。
りっぱに戦いに勝ってみせます」
「すごい力入ってますね」
「ええ、もちろん」
会社に着くとカウンター越しに女性社員が出て来て応対してもらえた。
私のことは話が通してあったようで、スムーズに神谷親子が待つ部屋へと
案内された。
彼女はドアをノックし、私を中の人たちにアナウンスして案内を済ますと、丁寧に私に一礼して即座に踵を返した。
座っていた神谷さんがすっくと立ち上がるのが見てとれた。
こちらに来ないでしばらく彼は呆けていた。
続いて横にいる父親らしき男性がゆっくりと立ち上がるのも見てとれた。
彼の様子から合点がいった。
いつもの私からは100億万光年離れている私の姿に──
果たして誰なのか?
来るはずの香さん? にあらず、どういうことだ……みたいに考えている
のが分かった。
私はそういった様子を見つつ、部屋を観察してもいた。
言うほど大きな企業でもないし、社屋などはちまちまっとしてるよと
神谷さんから聞いていたのだけれど、通された所謂役員応接室は機能的な
レイアウトがなされていて、インテリアデザインもこだわりが感じられる
素晴らしい空間になっている。
私は部屋の中をぐるりと一巡見回したあと、2人に向かい合った。
颯爽と背筋を伸ばし、速足で彼らの傍まで歩き、父親に向けて
「はじめまして、有海香と申します。
どうぞ宜しくお願い致します」
と一般的な挨拶をした。
本当は神谷さんから紹介してもらうのが筋なんだけど、彼にはその余裕が
なさげだったので、自分で先に挨拶したのだ。




