95 ◇実家の家業
「しかし、会社の業績が伸びるのはうれしいけど、人々が災難に遭うそんな
時代が来るなんて、僕はいやだなぁ。
こればかりは予想はずれてくれって思いますよ」
「そうね、私も同意見です。
仮に予想が外れたとしても、将来的に安定した業種なので、やっぱり家業
継いだほうがいいと思うわ。
それにあれでしょ?
ご両親やお兄さんたちの不安も解消してあげられるのだし」
「そうだね、一度実家に行って話し合ってきますよ」
「それがいいわ」
◇ ◇ ◇ ◇
初めて聞いた神谷の実家の家業のこと。
香は後で調べて、神谷の実家が経営する会社が予想以上に収益の大きい
りっぱな会社であることを知った。
そこの実質社長として迎えられるわけだから、後添えだって困らないだろ
うし、ご両親は今度こそ、自分たちの眼鏡にかなった相手を望まれることだ
ろう。
将来的に子供たちは、両親のほかに祖父母の元で暮らせるようになる。
そして財力のあるお家だからお手伝いさんや家庭教師、ヘルパーなども導入されて、これからは何不自由なく暮らせるのだ。
神谷や子供たちのことを考えると、これでいいのだ。
彼は実家の会社を継ぐ。
これが彼らにとっての最善なのだと思えた。
実家との絶縁が解けそうな今──
私のちっぽけな支えなんて不要だ。
香は神谷との結婚を白紙に戻そうと決心した。
神谷は翌々日、実家へと向かった。
『子供たちは連れて行かないのか』と問うと、申し訳ないですがあなたに
みててほしいとお願いされた。
「だけど、ご両親は孫である雨汰くんたちに会いたいのじゃないかしら? 」
「分かってます。
ですけど、それはちゃんと話がまとまってからにしたいんです。
それに子供たちにいきなり知らない人間のいる場所に連れて行って
不安にさせたくないですし」
「あぁそうですね。
ごめんなさい、差し出がましいこと言いました」
「いえ、そんなことは……」
そんなこんな遣り取りのあと、彼は出掛けて行った。
◇ ◇ ◇ ◇
子供たちを寝かしつけた頃、彼が帰ってきた。
「お帰りなさい」
「ただいま」
「どうでした? 」
「うん、まぁいろいろ思うところもあるけど、このまま家業を継いでも
いいかな、とは思ってます」
神谷にしては珍しく何かを含んだような物言いだ。
「今までのわだかまり? みたいなものは、取れたの? 」
「まぁ、どうでしょうね。
絶縁された時のことは、どうしたって忘れられるもんじゃないから。
理由が理由でしたから、我が親ながら情けなく思ったものですよ。
息子の伴侶に選ぶ基準が家柄だとか学歴ですからねー。
あの時、いっぺんに目が覚めました。
これが血肉を分けた本当の肉親なのか? と。
まぁ今回も何か、調子のいいこと言ってましたがね」




