91 ◇悩む
元々の原因は神谷の妻の由香子に起因していた。
家柄の釣り合いがとれない、お前に相応しくないというのが
父親の言い分であった。
そして残念なことに母親も父親ほどではないにしろ、概ね
父親と同じ意見だったこと。
神谷の妻由香子の旧姓は森口といい、森口由香子という。
彼女は幼い頃(8才頃)父親と死別し、母一人子一人の家庭で
育ち……。
由香子もその母親も堅実に生きてた人たちで、由香子が小さな頃から
将来のためにと母親はせっせと少しずつではあるが貯金をし、由香子は
由香子で高校生になるとアルバイトに励み、お金を貯めていた。
そしてその両方のお金で彼女は公務員試験に向けて一年間を自分に
投資したのだとか。
専門学校に通い、見事合格を勝ち取り、警察事務職に就いた。
「奥さん、とっても頑張り屋さんだったのね」
「うん、話を聞いて僕もそう思った」
「そんなすごい女性があなたと不釣り合いって、申し訳ないけどお父さん
最低だねー。アッゴメン」
「そうだろ? 流石、香さんだよー。最低なんだよ親父はさ。
何様なんだろうねー、haha」
神谷は、心から香のことをリスペクトした。
結婚しようかという相手に、その父親のことをこんな風に正当に評価し、
言葉にするなんて、普通は避けるだろうから。
「ところで……」
「……」
「神谷さん、あなたも元々警察官だったのかな? 」
「へっ? いやぁ~、僕が警察官だったことは一度もありませんよー」
「じゃあ、由香子さんとはどちらで?
お知り合いになったのかしら? 」
「あーっ、それね。
聞いてくださいよー」
ダカラ 聞いてるよっ。
「僕、二回も車のキー落としちゃって、その時落とし物の窓口にいたの
妻だったんですよ」
あれですか、警察署でナンパしたのかしらン?
「その後、街で再会しましてね、それで」
流石に警察署じゃなかったのね。
そして私は話の続きを彼に促した。
母親も結婚には反対していたため、悩んだ末、神谷は妻が亡くなったこ
とも、現状困窮していることも家族には誰ひとりとして知らせなかったと
いう。
しかし、子供3人抱えてこのままでは働くこともままならず、最後には
子供たちのためにも親元に泣きつかなきゃならない日が来るのかもしれないなぁ~と思いつつ、その日暮らしを送ってきた神谷だった。
しかし、香との出会いでそんな境遇にも一筋の光明が見えてきて、
それこそほっと一息ついた頃、母親から電話がかかってきた。
開口一番、母親から、ずっと次男である神谷のことを気にかけ続けていた
けれど、夫(神谷の父親)からの厳命で連絡を取るのもままならない状況だった
こと。
陰から神谷のことを心配しつつ、どうか幸せでいてくれと願っていたの
だということを聞かされ──
続けて、手紙を出したいから住所を教えてほしいと言われた。
何事かと待ち続けること10日ほどしてから母親から手紙が届いた。
そして実家の窮状を知ることとなった。
神谷は悩んだ。
この話を放置すべきか、それとも……。
自分は今無職だ。
就職できたとして、納得のゆく職場に巡り合えるかは運任せのところも
ある。
就職先次第では、結婚して妻になる香に苦労を掛けることになるやも
しれない。
両親との絶縁を解いて和解し、家業を継ぐにしても自分の中で決断して
から香に報告するのか、香に相談してから決めるか、しばらくの間悩んで
いたのだと言う。




