90 ◇確執
この年の9月は、8月に比べれば平均気温が4~6度ほど低くなったとは
いえ、ダラダラと暑い日が続いたため、子供たちの外遊びの時間は8月と
同じように短めに切り上げ、一日の大半は部屋の中と家周りで遊ばせて過
ごした。
庭先で、プラスチックでできた金魚をビニールのプールに浮かばせて皆で
金魚すくいをしたり、夜には花火をしたり──
暑い暑いと言いながら、賑やかに子供たちや神谷さんと過ごした9月は、
あっという間に過ぎ去っていった。
◇ ◇ ◇ ◇
妻に先立たれてからというもの、実家とは諸事情で疎遠な状況だったため、周りには誰一人頼れる者はおらず、毎日暗い気持ちで子育てに励んできた。
そんな中、少しの光が見えたのはWeb上での相談できる掲示板での
交流だった。
いろんな人から親切な助言をもらい、その日その日をなんとか凌いで
生きてきた。
そして子供たちの母親になってくれるという女神のような女性も現れて、
ようやく神谷も将来のことを考えられるようになり──
前の職場に顔を出してみて復職が駄目なようだったらどこか新しい仕事を
見つけないと、などと少し胸膨らませていた。
香は時折側にいる神谷にじっと見つめられることが度々あることに気付
くようになった。
何なのだろう?
私に恋するようにでもなったとか?
いやいや、そんなわけあるはずない。
香は昼食の片づけで洗い物をしていて、神谷は何か言いたそうにしていたが、香が洗い物に集中し始めると自分も掃除機を取り出して掃除機をかけ始
めた。
子供たちを昼寝させた後のほっとhotの午後のティータイムに……。
「香さん、何から話せばいいか……」
おっと彼はやっと話す気になったようだった。
「大きく分類して、子供のこと? 私たちのこと ?
仕事のこと? 結婚について? 気持ちが変わったとか? 」
「仕事のことなんだ」
「いいところ見つかったんですか? 」
「いや、それはまだなんだけど」
「実は長年音信不通だったお袋から連絡があってね。
家は祖父の代から興こした会社を今は親父と兄貴が経営してるんだけど
今、兄の体調が思わしくなくて俺に帰って来てほしいって」
「音信不通って……どうして」
神谷さんのお兄さんの様子も気になったけれど音信不通だったことのほうがもっと気になってしまい、思わず彼を問い詰めてしまった。
音信不通、ずばり絶縁ということらしい。
「いつかは香さんに話しておかないといけないって思ってたけれど、それは
もう少し先でもいいかなって思ってたんだ」
そんな風に彼は、絶縁にまで至った実家とのご両親との、確執を話して
くれた。




