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『あなたに恋しました !』 ――最後は君を好きになる――    作者: 設楽理沙


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73 ◇ 虚無感




 私は夫のことをどんな人間だと思っていたのだろう。


 あのようなことを平然と言えるような人だと思ってた? 

 思ってもみなかった?


 考えてみたけど、どんどん夫に対する気持ちが溶けて風化して

追いかけてみても、そこには何も見えず何もなかった。


何も……。


 こんな不思議なことってあるのねぇ~。


 今夜のことも、これまでの結婚生活もなかったような気さえするのだ。


 ただすっかり忘れ去っていた町田くんのことが蘇り、胸を苦しくした。



          ◇ ◇ ◇ ◇



 大好きだった町田くん。


 彼とは学生時代に出会い、就職してからも交際は続いた。


 プロポーズこそされてなかったが暗黙のうちにお互い近い将来

結婚するものと決めていたと思う。



 そして互いの気持ちも他の人には目もくずじゃないけれど

好きな気持ちに揺るぎはなかったはず。



 カメラマンの町田芙美夫(まちだふみお)は一年の内の半分以上を

海外で過ごしていた。


 彼が仕事で日本を留守にしていた時、たまたま大学時代の友人たちと

立ち寄ったバーで私は亀卦川康之と出会った。


 亀卦川康之たちもちょうど仕事仲間3人で飲みに来ていた。


 彼らはモデルだったり俳優だったりと、一般人にはない華やかな空気を

(まと)っていた。



 ふたりの大学時代の友人たちは芸能関連の垢ぬけた男性たちに色めき立ち、

その夜は大いに盛り上がり、早々と二組がそれぞれにお持ち帰りされた。



 私も亀卦川にそれとなく誘われたのだが、婚約者がいるからと

お持ち帰りをやんわりとかわした。



 その夜、亀卦川はそれ以上強引に迫ってくることはしなかった。



 そして、そのあとも友人たちは彼らと付き合いを続けた。


 その間、一対一の付き合いで行き詰まるのか、友人たちは時々三対三で

飲みに行こうと誘ってくるようになった。



 友人たちは相手の男に本気のようで『私たちの恋のために協力してほしい』

と言ってくるようになり──


そんなふうに頼まれると断りづらくて何度かは断わったものの、数回に一度は私も付き合うようになった。



 グループで会う時は自然と最後のほうはカップルになってない私と亀卦川が

当たり障りのない近況報告のような会話をして、という流れになるのだった。



 亀卦川との会話自体は嫌ではなかったが、町田くんのことを思うと楽しめ

なかったし、


付き合ってないとしても……

友人たちからの頼みだとしても……


同じ男性と何度も会うことに対して自分の中で躊躇いが生じ始めた。




 嫌でも残った者同士で亀卦川と何かしら会話をすることになる。



 それで2度3度複数人で会った後は、友人たちに頼まれても断り続けて

いた。

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