72 ◇ 通告
私が神谷さんの抱えてる細かい諸事情のあれこれをネット上から
垣間見て、帰宅したその日……。
久しぶりに素面の夫が帰宅して、珍しく私の寝ている部屋の
ドアをノックした。
「どうぞ!」
ドアを開け、夫は出入り口に佇み口を開いた。
「話があるんだけど、いいかな? 」
うん、なぁに? 」
私が夫の顔を見ると、彼の視線とぶつかった。
「これからのことなんだけどさ……」
「うん」
ちょうどいい機会だから、彼の方からの話が終わったら
私も病気が治りそうだという話をしてみようかな。
「君はほとんど何もしないでベッドで寝て食べるだけの生活だろ。
俺ばかりが働いてお金出さなきゃいけないなんてどう考えても不公平だと
思わないか? 」
予想もしてなかったトンデモない話に私は耳を疑った。
そして大前提の、これからも私が寝て過ごすだけの人生を送るという
誤ったインプット情報。
ここはまだ話してないからしようがないけれど。
はぁ~、ほんとにこの先も病気が治る見込みのない状況で聞いたと
したら、大暴れしたくなるような話だよね。
「康之さん、これまでのかかった医療費、ヘルパーさんへの給与は
私の貯蓄から出してます。
結婚した日、病める時も健やかな時も、と誓ったのは嘘だったって
ことね? 」
「病める時ったって限度があるだろ?
難病でずーっと寝たきりなんて詐欺だろ、そんなの。
この先君には収入だって入ってこないってことだろ?」
「ね、聞いてもいーい? 」
「なに? 」
「じゃあ、私が無職で収入がなかったら結婚してなかったっていう
ことなのかな?
私たちの結婚って、共働きが前提だったの? 」
「どーだろ、プロポーズした時はそこまで具体的なことは頭になかったと
思うけど、とにかく一生病気で一生医療費がかかって一生日常生活が一人前
にできない人と、この先も結婚生活はできないね俺には」
「そっか、わかったわ。うん、よかったよ」
「? 」
「あなたの本心が聞けてよかったわ」
「ごねられるかと思ったけど、冷静に受け止めてもらえてまぁ、俺も
安心したよ」
「なるべく早く出て行きますね」
「よろしく! 」
◇ ◇ ◇ ◇
町田くん、嗤って!
私をう~んと、嗤って!
あなたを裏切って苦しめた女の末路だよ。
いつの日か因果応報があるかもしれないって思ってたけど
やっぱりきちゃったよ。
こんなことが償いになんてならないけど、あの時のことは
本当にごめんなさい。
上手くいってないのは感じてたけれど、ここまではっきり引導を
渡されるとは想定外のことだった。
頭の中が霞みがかったような心持になった。




