60 ◇後腐れのない関係
石川恭子Side:
そっか、夏ごろから彼、桂子さんからお弁当作ってもらってたんだ。
私は大抵午後からの仕事でスタジオに入ることが多かったので
知らずにいたのだ。
桂子さんは、やさしいな。
奥さんのいる人にお弁当だなんて。
下心があるようなら、作らないよね?
私は原口さんが倉本さんに放った台詞を聞いていたせいもあって
そんな風に考えた。
それは新垣桂子という人物が、亀卦川康之という人物とどうしても
交わりそうもない類のカテゴリ入りしている人だったから。
まず、桂子さん自身が略奪愛なんていう事柄から100億万年光年も
離れていそうだし。
次に亀卦川くんが進んで付き合いそうな感じが微塵もしないから?
桂子さんを下に見てるとかそういうのじゃなくて、何ていうのかなぁ
まるで二人は合ってないって感じがする。
清楚で地味を敢えて装ってる? 彼女に、亀卦川くんは似合っていない
と思えるのだ。
だけど、亀卦川くんが誘えば、彼女は誘いに乗る?
下品なことを考えるな、恭子。
桂子さんに失礼だわ、とっても。
……っていうか、彼女には彼女に相応しい素敵な男性と
出会い、ゴールインしてほしいと思う。
私とは正反対のイメージな桂子さんだけど、私は彼女の醸し出す
雰囲気がとても好き。
彼女が作り出す雰囲気、イメージは、彼女の性格にマッチしていて
いいと思う。
だけど、亀卦川康之という男を自分にもっと強い力で引き付ける方法をと、もし私が桂子さんから請われたとしたら、彼女には持てる素材を活かして、
きつめでシャープな化粧にモデルっぽい装いを勧めるだろう。
現在の装いとか雰囲気は、彼の妻におさまってからなら
いいだろうと思う。
けれど彼女には、今のままの彼女に強く魅了される男性との縁を
持つことを考えた方がいいと思えるから──
『そのままの新垣桂子さんでいてください』と私は小さく呟いた。
だって亀卦川康之にはすでに奥さんがいるんだもの。
桂子さんも私も、香さんを押しのけてまで亀卦川くんの奥さんに
なる必要性なんて、全くNothingだもん。
そのうち、お互いいい人が見つかるわよ。
この後も誘われれば、亀卦川と適当に付き合いを続行、一緒に
遊んでもいいと思う石川恭子だったが、割と早い段階で割り切って
いたのである。
略奪婚なんてよほどのこと、よほどの相手でもなけりゃあ
できるものではない、と思っていたからだった。
そして何より亀卦川の言動からして、妻と離婚して君と……なんていう
熱量など微塵も感じられないということも大きかった。
都合が付かない時は断ることもあるが、恋人同士の間柄と
あちらも別段気分を害することもない。
適度に遊ぶ相手にはちょうど良かったのだ。
後腐れのない関係というヤツだ。




