59 ◇見ちゃったんです
~ 知世がガキさんに亀卦川と石川のことについて話した後の頃~
石川恭子Side:
そう、暦は2月/如月で二十四節気でいうところの雨水の頃であった。
仕事の休憩時間に化粧室にいた時のこと。
私が入って行った時、メイクアップアーティストの原口さんが
化粧直しをしているところだった。
軽く挨拶をしてトイレに入り、そろそろ出ようというタイミングで
若い女子がけたたましく化粧室に入って来た。
「あっ、知世さんっ」
「はいはい、知世だけど……何か?」
「あーっ、トイレも行きたいんですけど、だけどぉ~」
「何なのよもう、それなら言いたいこと早く言いなさい」
あやみは、トイレへ急いでいる風ではあるものの、何か私に
言いたげな様子である。
「わたしぃ、見ちゃったんですよね」
「はいはい、それで……」
どうせしようもないことに決まってる。
私は適当に彼女に先を促した。
「初めてじゃないけど、またまた見ちゃって」
「だぁかぁらぁ~、何を? 早く話さないと、漏らしちゃうわよ?」
「うーっ、知世さんは見たことないんですか?」
私は広げた両手を胸の高さから肩の高さまで上げて、お手上げの
ポーズを取った。
この子ったらまったく、何を見たかも言わないで私に見たことは
ないのかと聞く。
アホたれ、そんなもの答えられるわけないでしょーが。
「以前夏頃にちょくちょく見かけてたんですけど。
桂子さんが亀卦川さんにお弁当を作ってあげてたの。
今日も手渡ししてるところ、休憩室で見ちゃったんです」
あれからもガキさんがお弁当を彼に律儀に作り続けてたことは
知ってる。
休憩室を使ってるんだから、知ってる人は知ってることなのだ。
この子も、今頃スキャンダル扱いして何なのかしら。
あっ、私はピンと閃いた。
こいつ~、きっと石川さんが化粧室に入るところを見てたんだ。
いい性格してるよね、全く。
「そんなのLunch Timeに休憩室使ってる人なら、みんな知ってる
わよ。何言っちゃってんの? それと大騒ぎすることじゃないから。
亀卦川くんの奥さんが病気で、何かと不便してるんじゃないかって
ガキさんのやさしさからのお弁当なんだから。
変な騒ぎ方はガキさんに迷惑だよ、あやみちゃん。
そんなことより、早くトイレ入りなさいお漏らししちゃうわよ? 」
これまでガキさんと距離を置いてた私だから、一緒になって少しくらいは、スキャンダラスな話にして盛り上がりたかったのかもしれないけど、あやみぃ~あたしは幸せな女に昇格したんだ。
『そんな下世話な話、乗んないよ』
私はトイレに駆け込むあやみに向かってベロを出して呟いた。
そして私も石川さんが出てくる前に、急いでその場を後にした。
◇ ◇ ◇ ◇
原口さんが気を利かせて? 私と二度目の鉢合わせにならないよう出て
行ったあと、私も倉本あやみと鉢合わせしないよう、早々と化粧室から
出て行った。




