57 ◇チクる
彼女も私がこれ以上本気で怒り出しては堪らないと思ったのか
トイレへ行ったあと、もう私のいる席には戻って来なかった。
よしっ、邪魔者がいなくなった。
私は知らず知らず周囲を見回し、スマホで亀卦川くんと石川さんの
ツーショットを一枚素早く撮った。
げっ、私ったら何やってんだか。
そうこうしてるうちに、私の予想通りふたりはそっと店を抜け出し
そのまま帰って来なかった。
やっぱりねぇ~、そういうことか!
ま、美男美女そうなるわな。
しかし、亀卦川ぁ~奥さんどうすんの?
弁当せっせっと作ってるガキさんの気持ちは?
後者の件で責めるのはちょっと違う?
だけどさ、ついでって言うけれどもガキさん、女性軍の私たちは
もちろんのこと、男性陣にだって私の知る限り、手作り弁当をこれまでに
作ってあげたことはないと思うからぁ~。
やっぱり亀卦川くんだからって思うわけよ。
恋愛感情とまではないとしても、ちょっぴり乙女心くすぐられるところが
あってのお弁当なわけよ。
本人でもないのに断言するなんて……ねー、ヤダ。
とにかく、何がってわけでもないことだけど、私は今夜のふたりのことを
ガキさんの耳に入れてやろうと思った。
結婚の決まる前の私だったら、焼きもち半分、意地悪半分くらいの気持ちでチクったかもしれないけど、今は違う。
幸せ一杯の今は違う気持ちで伝えることができると思う。
ガキさんが後になってあの人たちがデキテルことを知ったら
どんなにか悔しく思うだろうって、手に取るように分かるから。
知ってこの先も弁当を亀卦川に作ってやるかどうかは私には
分からないけど、知ってて作るのと知らぬまま淡い期待なんか
抱きながら作るのとでは、ぜんぜん違ってくると思うのよね。
◇ ◇ ◇ ◇
年が明けて初出勤の日、私は弁当を持参しガキさんと話せる
時間を作った。
私は年末の飲み会のことを面白可笑しく話をし、その合間にふと思い出したかのように演出して、例のふたりのことを話題に出した。
「知世さんって結構飲み会に参加してるんですね。
話題豊富だし、男の人たちとも上手に話を合わせられるから
羨ましいです」
「うん、そこはね否定しない。
うふっ……まぁね、私くらいの妙齢も過ぎたおばはん気兼ねもないからね」
「ふふっ、そういうことをカラっと嫌味なく言えるところがすごい」
「そりゃどーも。
一応誉め言葉ってことで受け取りましょっ!」




