54 ◇ずっと言い出せなかったこと
私と緒方はそれぞれせっせと、食卓にディナーの品の数々を並べた。
……といっても、酒のあてになりそうなメニューばかりだった。
フライドチキンとかフライドチキンとか……。
私と緒方の部屋。
モダンな造りのマンションに暮らす知世たちは、玄関から一直線に進むと
現れるゆったりとした空間リビングダイニングの4人掛けのテーブルを挟み、
お互い交差して向かい合っていた。
いつもの2人の座り方だ。
反射的に私は視線を下方に落とし、ベージュ色のテーブルの淵を見つめながら
緒方が話を切り出すのを待った。
流石に料理に手を出すことなどできなかった。
◇ ◇ ◇ ◇
「あのさ、去年からずっと考えていたんだけど──
その、なかなか言い出せなくてさ」
部屋の壁は茶系のWood素材と、その真向いの壁はレンガ造り風の
壁紙が施されていた。
玄関から一直線に進んだ先端には、日中陽射しが煌々と入ってきて
明るく照らしてくれるリビングダイニングとその先にはバルコニーがある。
とても利便性が高く、芝も敷き詰められているお洒落なバルコニー仕様になっている。
普通のベランダとは違い、天井もガラスの壁があり、部屋と同じような
ものだ。
お日様は燦々と入り、洗濯物をすぐにカラッと乾かしてくれる。
お天気の悪い日には、雨風から守ってくれ、衣類を濡らすこともない。
主婦にとっては憧れのバルコニーだ。
一緒に住むことになった時、緒方が購入してくれた。
私の意見をふんだんに取り入れてくれた部屋ですごく気に入ってる。
だけど、はぁ~出ていかなきゃだわ。
私1人じゃ、とてもこんなゴージャスなマンションに住めやしない。
『もう少し彼に形だけでも尽くしていれば、この部屋を出て行く日が
2~3年延びてたかも』──などと、知世は埒もないことを考えていた。
緒方が話しやすいように『うん、いいよ、覚悟できてるから』と
言おうとしたその時……。
「けっ、結婚してください」彼はそう言った。
そして小さな箱をテーブルの上に乗せ、開けて指輪を取り出し
私に差し出した。
「知さんの小物入れに入ってる指輪を店に持って行って買ったんだ。
気にいらなければ交換もしてくれるから」
うそっ。
そんな素振り微塵もなかったじゃない、あんたさぁ。
私のことなんて、
空気のように──
ただの同居人のように──
思ってたんじゃなかったの?
「俺、もしかして断られる?」
固まる私に緒方が尋ねる。




