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『あなたに恋しました !』 ――最後は君を好きになる――    作者: 設楽理沙


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35/101

35 ◇夫との距離




 桜が満開に咲き乱れる時を過ぎ、男児のいる家では鯉のぼりが天高く

流れるようになった頃からこちら夫の朝帰りは常態化していて──


相変わらず夫婦がゆったりとした時の中で会話できるような時間は1度として

訪れはしなかった。




 この先も治る見込みもないと思われている私が、嘘のようだけれど運に

恵まれ力量のある医師と出会え──


ほぼ難なく元の日常生活のできる身体に戻れるということを、仮に夫が

知ったとして、夫は私が病気になる前の夫に戻ってくれるだろうか!


 おそらく無理だ。


 すでにできた夫の恋人の存在はなくならないだろうし、妻からは得られな

い非日常的な荒廃感漂う隠微な男女のやり取りをやめられはしないだろう。


 私に向けられたやさしい眼差しをしていた頃の夫を

取り戻したいと思う。


 果たして、どれくらいの確率でそれは成功するだろうか。


 私は新しい治療薬で元の生活に、身体に、戻っていける可能性を知った日

から、うつうつと自分のこれからのことを考えて過ごしてきた。


 昨日、夫は遅い出勤の日だった。


 ヘルパーが帰ったあと、少し時間があったので私は薄化粧をして、好きな

ワンピースを着用し、身なりを整えてキッチンに立った。


 お湯を沸かしながら夫にドアの外から声を掛けた。



 「紅茶を淹れるんだけど、飲みませんか?」


 「あぁ、ありがと、いただくよ」



 ミルクティーを入れながら──


ふっと、話の流れ次第では病気の朗報を今日こそは話しておかないとなぁ~

なんて思っていた。



 だけど、部屋から出てきた夫は、立ったまま椅子に腰かけるでなく、紅茶

の入ったカップを手にTVのスイッチを入れたかとおもうと、ニュース番組を

つけて言った。


「午前中晴れてたのにさ、ちょっと空模様がおかしくなってるから……」


 天気予報のチェックをしたかったみたいだけれど、生憎そういう天気の

ことはどこの放送局でもやってなかったみたいで、次にスマホでせわしな

くチェックし始めた。


「そうね、なんとか帰宅するまで降らないでくれるといいわね」



 無難に私は返した。


 その(かん)、彼はスマホから視線を逸らすことなく紅茶を飲む。


 調べ終わったのと、紅茶を飲み干したのとが同時だったようで──



 「ごちそうさま、じゃ行ってくるよ」


 そう言って夫は慌ただしく出掛けて行った。



 はぁ~、私の顔を見たのはたったの一度きり。

 はなから私との会話など考えていないかのように。


 

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