31 ◇香の決意
公民館へ美晴ちゃんと行った日から疲れも取れた頃──
気晴らしにヘルパーさんが帰った後、ふらっと買い物がてら車で出かけた。
家から15、6分先の食料品店まで足を延ばし車を走らせた。
ここのお店は公民館へ向かう道の先にあった。
正確に言うと、家からだと14分くらい走らせたところで
公民館は小さな交差点で左へ折れ、食料品店は直進してしばらく
行くと左方向に立地している。
家から少し離れているので病気になる前もたまに来る程度で、食材は
もっぱら車で6~7分の所にあるスーパーマーケットを利用していた。
いつもながら、近場に自社工場を持つ食料品店は果物や
野菜、豆腐、そしてお惣菜が安い。
大好きな桃とコロッケそれと大根かぼちゃなど買った。
まだ母親しか私の病気がよくなってきていることを知らないので
あまり買い過ぎてもよくない。
そもそも出歩いてるのも夫はもちろんのことヘルパーさんたちも
知らないので。
夫には本来ならばもう伝えておいてもいいのだけれど、あの人は
忙しいらしく、ほとんど家にいないし、私との家での会話がないので
しようがない。
私に病気についての話をさせてくれないのだもの。
ヘルパーさんたちには、完治の見込みが8割がた近づいたところで、と
考えてる。
万が一、治らない時のことも考えておかないと、って
そんなこと考えたくはないけどね。
後はこっそり自分の部屋で食べるおやつを買い、スーパーマーケットに
隣接して建っているお店では、手作りのサンドイッチも買って、車に乗り
込んだ。
家に向けて車を飛ばしていた私は、ふと思い立ち何度か
立ち寄ったことのある公園で時間を潰すことにした。
今しがた買ったサンドイッチが頭に浮かんだ。
たまごサンドとツナサンドをドッキングさせてボリューミィーな
サンドイッチなのだ。
この公園にはテーブルと椅子のセットが数セット設置されており、
座ってゆったりと時を過ごせるのがいい。
独りでそんな寛ぎの時間を過ごそうと思い、私は記憶にある
テーブルと椅子のある場所を目指した。
樹木の植えられている道を歩いていると樹木のこちら側に設置されている
金網越しに何やら愚図る子供の声が聞こえて来て自然とそちらへ惹きつけられ、
見てみると。
私は思わず釘付けになった。
父親と子ら3人の姿に。
一番下の子は時々こけながらのヨチヨチ歩きのまだ赤ちゃんで、側にいる
おしゃまそな女児は確か2~3才くらいだったかと記憶している。
父親は3才児の女の子に下の1才児の男児のことを見ていてくれと指示し、一番上の5才くらいの男児に手を焼いているようだった。
苗字に神という字があったので、苗字がすぐに出て来た。
彼の人は神谷と呼ばれていたと記憶している。
今日は仕事を休んでいるのだろうか?
本日は平日。
それとも、もはや仕事なぞしてなかったりして。
私は何故か公民館で彼らと出会った時も彼らの一挙一動に
心奪われていた。
たぶん、私の知らない世界がそこには広がっていたから
かもしれない。
母親であっても3人の子のお守りは大変なことだろうに
男の身ではさぞかし大変だよね、と先日も思ったことだった。
亀掛川香はこの日、神谷親子が視界から消えるまでそっと金網に
身を寄せて──
というか、半分かぶりつき状態で彼らを見つめ続けた。
公園で彼らの背中を見送り、賑やかな彼らが去った後、香はお気に入りのテーブルと椅子に座りに行くことなく踵を返し、車に向かった。
しばらく彼らに気を取られて立ちっぱなしだったため、サンドイッチは
自宅で座ってゆっくりと食べることにしたのだ。
そして、この時もうすでに香はあることを胸に秘めていた。
ただの暇つぶしなのか? なんなのかは自分でも判らないけれど
彼ら親子と知り合いになろうと決めたのだった。
◇ ◇ ◇ ◇
自分で自分の気持ちを持て余していた私もまた誰かを必要として
いたのかもしれない。
私もまた、などと香りが思ったのは、神谷もきっと誰かの手を
必要としているだろうと思ったからだ。
そしてその神谷の必要とする手に自分がなってやろうとこの日
香りは固く決心したのだった。




