25 ◇辛辣な台詞
最近朝帰りするようになっていた夫がまたもやの朝帰り。
相当ご機嫌さんのようだ。
昨夜早寝していた私は、街も人も静まり返った空気の中、ほぼほぼ
無音状態の静けさをけ破るような勢いで部屋に飛び込んできた気配に、
目を覚ました。
枕もとの時計を見ると4時を少し回っている。
夫が帰って来たのだろうことはすぐに分かったので、起きてドアを開けた。
正確には四分の一ほど開けたところで、夫と一緒に彼を支えるようにして
入って来た女性と目が合ってしまい──
思わず私は少し挨拶っぽい仕草を相手に投げかけただけで、そそくさと
自分の部屋へ逃げ込んだ。
だから、夫は私のことに気ずかないままだったと思う、たぶん。
私を見た女性は気を使ったのだろう、夫に二言三言何か言葉を
かけるとそのまますぐに帰ろうとした。
「あぁ、あいつのことは気にしなくていいさ。
妻の務めも果たせないんだから俺に文句など言えやしない。
さぁ、もう少し俺に付き合って!
酔いつぶれたら泊ってけ! 泊まってっていいぞ。
うちのソファはソファベッドだからさ。
それではっと、そういうことで今から飲み明かそうぜ。
あー、ちゃちゃっちゃ、盛り上がって参りました~」
「ンもう、亀卦川さんったら、困った人だなぁ~しょうがないやっ」
えっ? 帰らないの? えーっ。
呆れたことにこのあと、ふたりは賑やかに飲み始めた。
「あの人は誰?
あいつは誰?
私の知ってる夫じゃぁない。
あいつ……」
私はいたたまれなかった。
私にできることはひとつしかない。
それは布団を被り寝ることだった。
寝て、何もかも忘れてやる!
香、泣いちゃぁだめ。
分かってる。
私はもうひとりの慰め役と会話した。
横向きの体勢になり、薄めの掛け布団を両腿に挟んで私はゆっくりと
目を閉じた。
翌朝、私はヘルパーが来るまで部屋から出なかった。
ここのところ大抵11時頃に来る予定になっているのだが、流石に
其の頃には件の彼女は退散したようで居なかった。
私は玄関で靴を確認した。
夫と一緒に寝てたりしていたら、シャレにならないもの。
まともな女性で助かった。
酔っていた夫は、今朝方吐いた自分の辛辣な私へのセリフを
はて、ちゃんと覚えているだろうか?
分かっていること、それは──
人は心に思ってないことは口から出ないということだ。
予想はしていたものの、実際
辛辣に──
直截的に──
そんな台詞など聞きたくなかった。
言葉には強い力が宿っていて、私は夫の口から出た言葉に深く傷つけられた。




