23 ◇精いっぱいのプライド
こうして石川との逢瀬にはまってしょっちゅう夜の街に繰り出すように
なった頃、俺はガキさんのちょっとした変化に気付いた。
この頃、ガキさんの自宅に招かれることはなくなっていたけれど、彼女は
相変わらずニコニコと弁当は作ってきてくれていたので──
その流れに乗ってよけいなことは言わず何食わぬ顔で、有難く元のお弁当を
いただくだけの関係に戻っていった。
◇ ◇ ◇ ◇
桂子は康之と石川恭子が親密な関係になっているようだとの
噂を耳にしてから、康之を自宅に招くことをやめた。
桂子は自分のことを客観的に見ることのできる女性だった。
あの石川と康之がしょっちゅう夜の街に繰り出していることを知り、
正直ため息が出て凹んだのは確かだが、そんな自分を嗤った。
『ばかだなぁ~、私ったらまるで失恋したみたいじゃないの』
元々既婚者だって知ってて──
奥さんが病気で彼の世話ができない状況にあるって知ってて──
彼に親切にしただけのこと。
今更ながらに自分の胸の内を覗いてみると下心がなかったとは言えない。
モデルたちと接触することのある今の華やかな世界に身を置くように
なって15年以上が過ぎようとしている。
自分のことをそれほど器量が悪いとは思わないが、流石にプロの
モデルたちとの差が天と地ほどあることは痛いほど理解してもいる。
モデルの中でもずば抜けてキュートで美しい石川と自分とでは到底
敵うはずもない。
康之が石川と付き合い始めたことを知ってからも弁当を作ることは
止めなかった。
桂子の精いっぱいのプライドであったのかもしれない。
既婚者の男に弁当を作るようになり、いつの間にか深い仲にも
なったような、ならなかったような──
曖昧な関係の自分には嫉妬する権利もまた、ないのだと桂子は
分を弁えてもいた。




