18 ◇女ともだち
康之 side:
──時は少しばかり遡り、香が病気になったばかりで
康之も朝帰りなどしていなかった頃のこと──
この夏、難しい病気を発症してしまった香。
なんでだろうなぁ、自分の妻の身に起きたことだと
いうのに、まるで他人事で実感がわかない。
俺は元来厄介事が嫌いな性分で楽しいことが好きで、賑やかな場が
好きな人間で──
例えば友人が困った状況に陥ったりしても共に悲しみを分かち合い、心の底
から友人を励ましたり、とかっていうのは昔から苦手だった。
今更だけど、冷淡な人間なのだ。
だけど、しようがないだろ?
思ってもない言動はとれないんだし。
それこそ、そんな気持ちのない慰めなんて上滑りして相手にも
見破られるのがオチじゃないのか?
それに妻の場合、難病といわれるような症例のほぼない病気となれば、
慰めようもないってもんさ。
せめて治る見込みのある病気だったなら、こんな俺でも慰めの
言葉の一つや二つ、語れたと思うぞ。
だけどなぁ~。
振り返ってみれば、病気を抱え込んだ妻のことが重すぎて、俺は逃げて
いるところがあるのかもしれないな。
モデル業の時、衣装を担当してくれている人に、見た目地味で控えめで
そう、髪型は黒色おかっぱ、もといボブで──
透明で少しパールの入ったマニュキュアの塗られた美しい指先をしていて、
ふんわりとしたオーラを纏っている声のかわいらしい女性がいるのだが……。
香が病気になって少ししてから、食事の支度や家の掃除などしてくれる人を探したとかで、夜は日替わりで家に帰れば食事はできているはずだった。
けれど、そういうのに慣れていなかった俺は、どうしても誰だか分らん
人物の料理を食べる気にはなれなくて──
仕事が終わった後、その衣装担当のガキさんこと新垣桂子さんが傍にいた
こともあって、つい呟いてしまったんだよなぁ~。
「腹減ったぁ~」
「じゃあ、早く帰らないと。
奥さんの手料理が待ってますもんね。フフ」
「う~んとねぇ、俺ン家は今、そういう状況ではなくて奥さんの
手料理はないんだっ。
だからどこか店探して食べに行かなきゃ、なんだ」
「奥さん、どうかされたんですか?」
ガキさんにいきなりそのものずばり訊かれたんで、言おうか言うまいか
考える間もなく、俺は本当のことを話してしまった。
「病気になっちゃってさ、それもちょっと長引きそうなんだ」
プライベートなことを、それも良い話ならともかくも、湿っぽい話になり
そうだったので、衣装を脱ぎ終えた俺はワイシャツのボタンを嵌め上着を手に取り、ロッカーを閉め──
早々と白い壁紙の狭間に取り付けられている焦げ茶色のドアに向かった。
──と、まさかの後ろからの声。




