【短編版】異世界転移したけど職業が「盗賊」でスキルが「盗む」だったので追い出されました。でもこのスキル何でも盗める超万能スキルだったんですが?
「職業が【盗賊】でスキルが【盗む】の異世界人よ……すまぬが世間体が悪いので、お主は魔王討伐隊には入れられぬ。……当面の生活補助はワシが行う。申し訳ないが席を外してくれぬか」
そう王様に言われて召喚された城を追い出されたのは俺、石川豪。
学校帰りにいつものように幼馴染たちと遊んでいたら、急に異世界に召喚されてしまったんだ。
そして、お約束のように魔王討伐に駆り出されるところだったんだが……俺は不用品扱いだ。
こちらの世界に召喚された際に俺が持っていたスキルは【盗む】、そして職業は【盗賊】。
……まあ、有り体に言えば犯罪者のようなものだと思われたのだろう。
俺と一緒に召喚された他の三人が【勇者】【賢者】【聖女】と、いわゆるチート職だったのもあり、周囲の俺を見る目は冷たかった。
それでも王様は俺のことを不憫に思ったのか何かと気にかけてくれ、3か月ぐらいの生活費を出してくれた上に住む家も用意してくれた。
これは犯罪者と思われている俺にとって、格別の待遇だろう。……俺、バイトとかしたことないから、今後どう仕事をすればいいか分からないのが不安ではあったんだが。
「まあ、迷ったときはお約束の冒険者ギルドだろうなあ」
住む家と資金、周辺の地図を確認して、俺は冒険者ギルドへと足を運ぶことにした。
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「いらっしゃいませ、本日はどういったご用件でしょうか?」
冒険者ギルドに入ると、俺と同い年ぐらいの少女が声をかけてくれた。
「ああ、冒険者登録をお願いしたい。今日からこの町で生活を始めたので、仕事をしたい」
「分かりました、それではまず登録をお願いします、そうすればギルドの一員となり、お好きな仕事を受けられるようになりますよ。では、名前と職業をお願いします」
「名前はゴウ、職業は盗賊……らしい?」
「……らしい?」
自分のことなのに疑問形で答える俺が不思議だったんだろう、受付嬢が聞き返してきた。
「ああ、今日鑑定したんだが……どうも職業適正が盗賊らしいんだ。スキルも【盗む】なんだが……」
「なるほど、そういうことでしたか。盗賊は身のこなしが軽く、手先が器用な人に向いている職業ですね。【盗む】スキルは相手から持ち物を盗むことができるスキルなんですが……人には使わないでくださいね?」
「もちろんだ。悪用なんてしたら即お縄だからな」
「そうですね、でもモンスター相手ならどんどん使って頂いて構いません……というか推奨します。モンスターからしか手に入らないアイテムがありますし」
「なるほど、良いことを聞いた。ありがとう」
ギルドで依頼を受けながら、モンスターからアイテムを盗む。
これだけで充分生計が立てられるぐらいのお金が入ってくるらしい。
もしかしたら、意外とのんびりした暮らしができるかもしれないな。
「それではこれがギルドカードです。依頼を受ける際はこれをご提示ください」
「ああ。ところで一つ聞きたいんだが……」
「はい、私にわかる範囲でよろしければ」
「【盗む】スキルを試してみたいんだが、おすすめの場所はあるだろうか」
「それでしたら城下町を出て南にある草原がいいと思います。見晴らしがよくモンスターの接近に気づきやすいですし、そもそも最弱モンスターのスライムぐらいしか出現しません。ちなみにスライムからは薬草が盗めますよ、他のモンスターも盗める物は固定ですので、スキルに慣れてきたらいろいろ試してみるといいかもしれませんね」
「分かった、情報ありがとう」
受付嬢にお礼を言うと、まずはスキルを試したいので草原へ向かうことにした。
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「おっと、早速スライムか」
城下町を出て徒歩2分。
これがチュートリアルだ!とでも言わんばかりに単独で出てきたスライム。
早速スキルを試させてもらうか……と言ってもどうやって使えばいいんだか。……教えてもらえばよかったかな。
そう考えながらスライムを観察していると、スライムの身体から少し離れた所に赤く光る空間があった。
「あれに触れば何かが起こるのか?……おっと」
俺はスライムの突進を避け、すれ違いざまに赤く光る空間に手を触れた。
「意外とすばしっこいな……ってなんだコレ?」
いつの間にか俺の手には草が握られていた。もしかして薬草か?
スライムの方を見ると、赤く光る空間は消滅していた。
なるほど、あの空間に触れることで物を盗めて、成功すると消滅するのか。
「よし、じゃあお前はもう不要だ……じゃあな」
俺は持っていたショートソードで、態勢を立て直そうとしているスライムを真っ二つにする。
スライムは斬られたところから溶けていき、やがて消滅した。
「じゃあもう少し薬草を盗みながら少しスライムを狩って行くか……」
1時間ほどして、すっかりコツをつかんだのか、スライム相手の【盗む】は確実に成功するようになっていた。
薬草を盗っては袋に詰めを繰り返し、既に袋は薬草でパンパンになっていたので、そろそろ城下町に帰ろうかとして倒したスライムの跡を見ていると……。
「ん?なんだコレ」
そこには袋が落ちていた。中身は丸薬が一つだけ入っている。
「スライムが落としたのか?……気になるから受付嬢に聞いてみるか」
俺は袋を回収し、帰路についた。
**********
「ディフェンスアップじゃないですかっ!貴重品ですよ!」
ギルド内に受付嬢の声が木霊する。
それを聞いて、ギルド併設されている酒場に集まっていた冒険者たちがぞろぞろとこちらに寄ってくる。
えー、貴重品ってだけでこんなに……?
「こ、こほんっ……すいません興奮してしまいました。こちらはディフェンスアップと言って、スライムが極々まれに落とすいわゆるレアドロップ品です。飲むと永続的に防御力が上がるため、需要に対してまったく供給が追い付いていなくて……」
と、受付嬢が説明している間にも「5万で売ってくれ!」「いいや俺は6万出す!」「7万!」「7万7777!」などと、集まってきた冒険者たちがいつの間にかオークションまがいのことを始めていた。
ちょっと待って。たしか薬草1個の売値が50ゴルドだぞ。なんで数万も出すの?
そして、誰かに売ったら他の誰かから不満が出るよな……あれ?俺、詰んだ?
……などと考えている間にも、冒険者たちの争いは続いていた。
今日来たばっかりなのに、恨みを買うのは勘弁なんですけど!?
何か……何か方法は……。そうだ!
「分かった、ではこうしよう。俺は今日冒険者になったばかりで何も知らないからこのままだと収拾がつかないので……まずこのディフェンスアップはギルドに買い取ってもらう。そして後日ギルドの判断で売り出してもらう……という感じで……どうかな……」
「ほっほっほ、それはいい考えじゃな」
気がつくと受付嬢の隣に、恰幅のいい老人が立っていた。
「ぎ、ギルドマスター!」
冒険者たちがざわつく。どうもこの騒動がギルド内部にまで伝わり、ギルドマスターが出てきたようだ。
俺としてはこの騒動を収めてくれそうでありがたいのだが。
「ディフェンスアップは貴重品じゃからな。誰に渡すかは吟味しないといかん。それを今日冒険者になったこの子に委ねるのは酷であろう。ワシが責任を持って管理し、しかるべき人物へと売ろう。……もちろん利益は彼に還元しよう、それでよいかな?」
ギルドマスターの鶴の一声。冒険者たちは「あ、あんた程の人が言うなら……」と、元居た場所へと戻り、事態は解決した。
「あ、ありがとうございます……」
俺はギルドマスターへと頭を下げると、なぜかギルドマスターも頭を下げていた。
「いや、こちらの不手際じゃよ。貴重品のことをこの子が大声を出してしまったばかりに迷惑をかけてしまった」
「い、いえ……そこまで貴重なら興奮するのも仕方のないことかと……あの子は罰したりしないであげてください」
「そうか……巻き込まれたお主がそう言うなら従おう。……それでディフェンスアップの事じゃが……まずは10万。渡しておこう」
「じゅ、10万……!?」
この世界での1か月の生活費がおよそ10万らしい。
それを現金一括でポンと出すとか……マジか……。
「もちろんディフェンスアップが売れたら追加で報酬も出そう」
「えっ、更に追加まで……?」
「無論じゃ。そこまでの貴重品なのじゃよ」
「わ、分かりました……それではよろしくお願いします」
ギルドマスターに頭を下げると俺はギルドから出ようとしたが、ふと足を止めた。
(そうだ……どうせあぶく銭ならいい印象を持ってもらえれば恨みは買わないだろう)
「すみません、ご迷惑をおかけしました!そこでお詫びと言ってはなんですが、ディフェンスアップを売ったお金で俺がみなさんに料理を奢ります!よろしければ好きな物をご注文ください!」
俺がそう言うと、「ありがたい!」「いい奴だなお前!」「気に入ったぜ!」などと感謝の言葉がそこら中から聞こえてくる。
……これで俺に悪印象を持たれることはないだろう。
まあ、これで10万ほとんど使い切ったんだけどね。
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後日、無事にディフェンスアップは売れたようで、更にギルドから5万ゴルドが支払われた。
ってことは、少なくとも15万以上で売れたんだなアレ……最弱のモンスターが落とすアイテムなのに。
しかし話を聞くと、ディフェンスアップをスライムが落とす確率は10000体に1体ぐらいとされているそうだ。
ディフェンスアップ目当てに狩るぐらいなら、他の依頼を受けていた方がまだ稼げるとまで言われている。
まあ、相当運が良かったんだな俺。
それからはスライムから薬草を盗みつつ狩って、1週間のうち4日働いて3日遊ぶ生活を送っていた。
そして転機が訪れたのはその約1か月後……。
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【盗むのスキルレベルが上がりました】
うわっ!?
頭に直接、何者かの声が響いてきた。
どうやらスキルのレベルが上がったようなのだが……【盗む】ってレベルが上がるんだ。
スライムは薬草しか持ってないんだけど、スキルレベルが上がると何か変わるんだろうか?
そんなことを俺が考えていると、いつも通りスライムが出てきたのだが……。
「あれ?赤い光が二つ……?」
スキルレベルが上がったからだろうか。アイテムを盗める赤く光る空間が二つ。
もしかして盗める個数が二つに増えたんだろうか。
何はともあれ、まずは検証だ。
スライムの攻撃を避け、いつも通り薬草を盗む。
そしてもう一つの赤く光る空間に触れると……。
「なんだコレ……」
手には一つの袋。
そして、どこかで見たような気がする。
スライムを一刀のもとに斬り捨て、中身を確かめると丸薬が一つだけ。
まさか。
まさか……まさか……。
はやる気持ちを抑え、別のスライムからアイテムを盗んでみた。
一つは薬草。
そしてもう一つは……丸薬が一つだけ入った袋。
嘘……だろ……?
見間違えでなければこれは……。
俺は大急ぎでギルドに行き、ギルドマスターへと取り次いでもらい、袋を見てもらった
「ディフェンスアップじゃ、二つとも……」
ギルドマスターは目を見開き、こちらへ向き直る。
「ど、どこでこれを……」
「……スライムが落としました。俺も信じられません……」
盗んだとは言わないことにする、確実に手に入ることが知られたら俺が死ぬほどこき使われるのは目に見えているからだ。
「そんなバカな……この短期間に3つも手に入るとは……」
ギルドマスターの手が震えている。
10000匹のスライムを狩ってようやく1つ手に入るような代物だ、それもそうか。
「……これは、今回も我々が売ってもよいのじゃろうか」
ギルドマスターの質問に俺は二つ返事をする。
お金さえもらえれば暮らしていけるからな。
「では……今回の報酬は色を付けて25万じゃ。もちろん売れたら利益を更に渡そう」
「ありがとうございます、それでは俺はまたスライム狩りに戻ります」
「ああ、また手に入ったらよろしく頼みたい」
「分かりました、それでは失礼します」
もしかしてこの【盗む】スキル……チートなんじゃ……。
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その後もスライムから薬草とディフェンスアップをひたすら盗み続ける日々が続いた。
あまりにも流通させてしまうと価値が下がると判断し、1か月に1回ギルドに持っていくことにして、他は全て自分で使いステータスをどんどん上昇させていく。
……もちろんディフェンスアップしか盗めないため、防御力に極振りのステータスになったのだが、防御があれば敵の攻撃は痛くなくなる。
「もっといろんなモンスターから盗んでみようかなあ……」
安心できるステータスになったので、ここでようやくスライム以外への【盗む】を試すことを決心した。
それからはとんとん拍子だ。
ゴブリンからは毒消し草とスピードアップ、オークからはポーションとアタックアップなど、普通に盗める物に加えてステータス上昇系……おそらくレアドロップ系のものが盗めることが判明した。
流石にこれらをギルドに卸してしまうと、今の自由気ままな生活ができなくなるだろうと思い、ステータスアップ系のアイテムは全て自分で消費していくことにする。
そしてそれらを盗み続け、3か月が経とうとしていたころに……。
【盗むのスキルレベルが上がりました】
マジか。
レアドロップを盗めるよりも上のレベルだと……何が盗めるんだ!?
早速スライムで試してみることに。
やはり赤く光る空間が三つに増えている。
一つは薬草、一つはディフェンスアップ、そしてもう一つは……。
【盗むものを選択してください】
パソコンのポップアップウィンドウのように、空中に表示される画面。
そこには「攻撃力」「防御力」「素早さ」……などといった、いわゆるステータスが並んでいた。
試しに攻撃力を指で選んでみると……。
【スライムから攻撃力を5盗みました】
はぁ!?
ステータスを盗んだ……だと……!?
確かに力が少し湧く気がしたが、もしかして俺のステータスに反映されるのか……?
そしてその分相手の攻撃力が減少しているのだろうか……?
試しに一回攻撃を受けてみて、その後別の個体に攻撃を受けてみることにした。
「マジだ……まったく痛くない……」
防御力がかなり上がっているとはいえ、普通のスライムだと蚊に刺された感じの感覚があるのに対し、攻撃力を盗んだスライムは触れられたという感触さえ全くない。
つまり盗まれたせいで攻撃力が0になったということか……?
その後の実験により、ステータスを盗むについて分かったことは以下の通りだ。
・相手のステータスはほぼ0になる
・自分のステータスはディフェンスアップのように永続的に上がったまま
・同一個体からはステータスはどれか1つしか盗めない
・盗めるアイテムとレアドロップを盗んだ後に盗めるようになる
最後の条件がちょっと面倒だけど、相手のステータスを強制的に無効化できるのはとんでもなく強い。
例えば攻撃力ならダメージがなくなるし、防御力なら装甲が紙になりどんな攻撃でも通るようになる。
……他の三人に負けず劣らずの壊れスキルじゃん。
むしろ応用が利く分強いんじゃないかな……。
まあ俺が望むのは平穏な毎日なんで、お金を稼いでのんびり暮らせればそれでいいんだけど。
これだけ強くなったんだったら、ちょいちょい行動範囲を広げて、レアドロップ品を色々なところで売り捌けばもっと儲かるかな。
そして、このスキルにもっと先があるか、そこにも興味がある。
……さーて、それじゃ今日もがんばりますか。
**********
――その後。
更にレベルが上がった【盗む】スキルは、相手の「スキル」を盗んだり、「強化」や「祝福」まで盗んでみたり、果てには相手の「心」、要するに敵対心を盗んで味方にしたり……何でも盗める超万能スキルになったのだった。
……その超万能スキルで世界を救ったか、って?
そんなことはしない。なぜなら平穏な日々が欲しいだけだから、戦闘は最低限のものしかしない。
魔王なんて勇者たちに任せておけばいいのさ。
「ご主人様っ!ごはんできたよー!」
「ああ、今行く。お前の作るごはんはおいしいからな」
「えへへぇ……」
メイド服姿の女の子の頭を撫でる。しかし彼女には普通の人間とは異なるところがあった……角が生えているのだ。
というのも、旅先で女の子の姿をしたモンスターを倒すのが忍びなく、「心」を奪って撤退させたかったんだけど懐かれてしまい、メイドとして俺の家にいてもらうことになった。
……そんな子がこの家には5人いる。
みんな個性的で日々の生活が楽しいものになり、感謝している。
一応テイマーという職業があるみたいなので、モンスターを仲間にするのは普通のことだから変な目で見られることもない。
……いや、見られてるか。全員女の子だし。
まあそんなことはどうでもいい。今がとても充実しているから俺は幸せだ。
「ご主人様……あの、このあと一緒にお買い物……大丈夫ですか?」
「ああ、どうせヒマだし、皆に買ってあげたいものがあるからな」
「! ボクも、ボクも行くっ!」
「抜け駆け、許さないから……」
「ははは、もちろん皆で行くに決まってる。片付けが終わったら早速出発だ」
「「「「「はーい!」」」」」
世界の命運を賭けた戦いになんて参加するつもりはない。そもそも追い出されたんだしね。
だから、これからもこの子たちと一緒にのんびりした暮らしを謳歌していく。
それが今の俺の願いだ。