第8話 私以外の女の子からチョコレートを受け取らないでください
↓高崎小雪 視点
「この恋は、小雪だけの片想いじゃないよ。僕は小雪が好きで、小雪は僕が好きのちゃんとした両想いだよ」
「っ……」
そう言われた瞬間、今まで堪えていたものが濁流のように押し寄せてくるのがわかりました。
しかし、どうしたらいいか考える間でもなく私の口は勝手に開き言葉を紡いでいました。
「いつから両想いだってわかっていたんですか」
「中学2年」
「なんでその時に言ってくれなかったんですか」
「ごめん」
「なんでですか」
「この幼馴染みの関係が僕にとってはまだ心地よかったんだ」
「っ……」
何なんでしょうか、この気持ちは……お腹の底からひっくり返るような感情がひしひしと攻め立ててきます。
言いたい、だけど言いたくありません。
いま溢れようとしているのはきっと自分を正当化し相手を闇雲に傷つけるだけなんです……。
言いたくない……でも抑え切れそうにありません。
ぐっと押しとどめるように拳を握って口を固く閉じてとにかく体に力を入れます。
黎人くんにせっかく好きだと言ってもらえたのです。
嫌なことを言って嫌われたくありません、それだけは死んでもいやです。
「いいよ」
そう言って私の手を包んでくれる黎人くん。
その一言で体の力が抜き取られていきます。
それでも臆病で不安な私は黎人くんに尋ねてしまいます。
「すっごく、暴言を吐いてしまいます」
「いいよ」
「これは自分を守るためで、黎人くんを傷つけるものでしか」
「大丈夫、そんなことで小雪のことは嫌いにならないから」
「本当に、ですか?」
「うん、だって僕は小雪が大好きでたまらないんだ。小雪に怒られたところで、小雪が僕を嫌いにならない限り僕は小雪から離れないよ」
「……い、いきます」
「うん、もっと自分の気持ちに素直になって小雪」
その言葉を契機に私を抑えつけていた何かが弾け飛んだ。
「どうして、……どうして!?そんなにも早く好きだってわかってるんだったら伝えてくれなかったの!?私は、私はこの幼馴染みっていう関係がすっごく大っ嫌いだった!嫌だったの!近いようでずっと遠くて、中々気持ちが伝わらないっ。せっかく勇気を振り絞ってアプローチをしても、全部幼馴染みで済まされちゃうから!私のこと女の子として見てくれているかわからないからっ!」
もう、止まらない。止められない。
「こんなにも好きで溢れて、でも伝えられなくてっ。これが全部幼馴染みっていう関係だったのならこんな関係で出会わなきゃよかったって!黎人くんと幼馴染みじゃなきゃよかったって何度も、何度も考えたのに!」
でも……。
「それでもっ、黎人くんと幼馴染みだから、こんなにも好きになることができてっ!この関係を否定したら私と黎人くんのこれまでの大切な思い出も、私の恋もっ、全て否定することになっちゃうから!」
それだけは絶対にあってはいけない。
「黎人くんと一緒に過ごせてこんなにも楽しくて、嬉しくて最高に幸せで!それこそ死んでもいいくらいに毎日が幸せだった!これからもずっと黎人くんと過ごしたい!」
でもわがままだから……。
「でも、すぐに寂しくなって。私と黎人くんは幼馴染みなだけでずっと近くに居るわけじゃなくて、距離の詰め方がわからなくて!なんか他の子よりもずっと遠くに感じて……黎人くんが他の女の子と喋っているとき、すごく嫌だったっ。楽しそうに話す女の子も、笑顔を向ける黎人くんも、そうやって妬ましく思う私も何もかも大っ嫌いで毎日が辛かった!苦しかった!怖かった!寂しかった!」
でも、そんな汚い感情ばかりじゃなくてね。
「黎人くんが今日だってたくさんのチョコレートがもらえるのは黎人くんの人柄のよさが皆に認められているからだと思うとすごく嬉しかった。皆が黎人くんの良さに気付いてくれる。黎人くんは凄い人なんだって知ってくれる……皆からの信頼をちゃんと得ている黎人くんが幸せになってほしいって心の底から願ってた」
でも、やっぱりね……。
「でも、黎人くんがたくさんの女の子からチョコをもらって、綾お姉さんと仲良くしていてやっぱり辛かった!なんで私じゃないの!?私の気持ちに気付いているんだったら、もっと私に構ってよ!他の女の相手なんかしてないでもっと私を見て!私だけをっ考えてよぉっ!」
「……」
「いつも余裕そうに振りかざして、いつも私の気持ちを知りながら笑ってたんでしょっ!ばかにしてたんでしょ!そうやって私の気持ちを弄ぶ黎人くんなんか大大大っ、大っ嫌いっ!!」
「……」
「さっきから黙ってないでなんか言ってよ!何か弁明でもしてみなさいよ!」
彼の服を掴んだ私は生地を破く勢いで握りしめては、彼の胸を思いっきり叩く……何回も。
手が痛い……。
だんだん叩く力も入らなくなった私はコツンと黎人くんの胸に手を添える。
「……」
それでも私は……。
「……黎人くんのことが……好きです」
今まで言えなかった言葉、手の平から溢れるようにストンと落ちてきては胸に染み渡ります。
今まで取り憑いていた何かが消え失せて、肩の重荷が下りた気がしました。
「小雪」
黎人くんが私の名前を呼んで力が入らず震えてしまう手をそっと包み込んでくれます。
さっきまで怒鳴り散らしていたのに、たったこれだけのことで私の心には穏やかな温もりが生まれます。
「私でいいんですか?」
「小雪がいいんだ」
「私、とてもじゃないくらい卑屈な女なんですよ?」
「そんな意地汚い小雪も好き」
「私、自分の気持ちにも、人の気持ちにもすごく鈍感で気付いてあげられないかもしれません」
「小雪が気付けるくらいにまっすぐ、何度でも教えてあげるから」
私の赤い髪触れてポニーテールの根元の部分を崩さない程度にふにふにと触ってくれる黎人くん。
そんな手つきがくすぐったいけれどもすごく気持ちよくてもっと撫でて欲しいです。
「私、すっごく嫉妬深いんです」
「知ってるよ。でもそんな独占欲が強い小雪も好き」
「綾お姉さんと仲良くしすぎないでください」
「それは小雪だってそうだぞ」
ぎゅっと黎人くんが抱き締めてくれて背中に腕を回してくれます。
押し付けられた黎人くんの胸板の向こう側からバクバクと心臓の音が聞こえます。
黎人くんもこんなにも意識してくれているのですね。
「他の女の子と仲良くしないでください」
「特別な感情を抱くのは小雪だけだ」
「部活の女の子と楽しそうにしないでっ」
「うーん、それはちょっと厳しいかも。でも部活の人達に小雪以上の想いを抱かないから」
「むぅ~そうじゃなくて、黎人くんが魅力的で好きになっちゃう女の子がいるかもしれないじゃないですかっ」
「それは、小雪もだろう?僕が何回告白に冷や汗をかいたと思ってるんだ?」
「うぐっ、そ、そんなのは知りませんっ!女の子の気持ちを弄んだ罰ですっ」
私は痛いところを突かれてしまい反論の余地がないので開き直って黎人くんに私の胸をきゅっと押し付けます。
そのことに気付いた黎人くんが動揺して体を放そうとしてきましたが私は背中に腕を回してぐいっと近づけます。
少し破廉恥でだいぶ恥ずかしいことをしているのは自覚していますがこの胸のドキドキを黎人くんにもわかってほしいんですっ!
……そ、それに黎人くんになら……へへへ。
「私以外の女の子からチョコレートを受け取らないでください」
「そ、それはちょっと他の人間関係が終わってしまうから……」
「むっ、黎人くんの意気地無し。その度には私はヤキモキしてろと言うのですかっ」
「ご、ごめん……。だけど、小雪が嫌な思いをした分だけそれを塗り替えるくらいたくさん好きって伝えるから」
「っ!……はい!わ、私も、こそこそではなくもっと黎人くんにちゃんと、す、好きって、つ、伝えますっ」
「小雪」
「ふぁっ」
黎人くんが私をぎゅっと抱き締めてくれます。
少し力が強くて苦しいとも思いますが、それ以上に黎人くんにこんなにも求められていることがわかってすごく嬉しいです。
黎人くんの気持ちがハグを通じてすごく伝わってきます。
心臓はうるさいですが、ふわふわとした気持ちになってすごく温かくて幸せで心の中が満たされていくのがわかります。
だから私も今できる気持ちの返し方として精一杯抱きついて黎人くんに想いを伝えます。
恥ずかしいのは重々承知ですっ。
「小雪、好きだよ」
「私もです。黎人くん」
しばらくの抱擁を交わした後、一旦体を離します。
名残惜しいですがまだ1つ私達にはやらなければいけないことが残されています。
私達は互いの名前を呼んで立ち上がりまっすぐに見つめ合います。
一瞬たりとも目線がズレることはありえません。
「ずっと待たせてごめん……小雪のことが好きです。僕と付き合ってください」
「はい、私も黎人くんのことが好きです。これからもよろしくお願いします」
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私が、投稿している完結小説の後日談の方でもバレンタインに関するお話をあげております。
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刹那の想いを紡ぎ重ね永遠に『俺は幼馴染の美少女と住んでるんだけど、誰よりも優しいそんな彼女とずっと一緒にいたい。ただ、それだけの話』
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