第7話 待ち望んだ想い……
↓高崎小雪 視点
「ほら、ここに座って」
「ですが、」
「いいから座る。後これを羽織って、膝もちゃんと覆う」
「そ、そこまでしていただけなくてもっ」
「小雪」
私は昔と同じように彼に手を引かれて近くのベンチに座らせられました。
そして、手を握られたことで私の体が完全に冷え切っていることがわかった黎人くんは自身が着ていたコートを私に羽織らせて、長袖の制服を脚に掛けてくれました。
そこまでしてもらうのは申し訳なくて断ろうとしたのですが有無を言わせない圧力で黎人くんに甘えさせられてしまいました。
そして、いつの間に買ってきたのやら、「はい、カフェオレ。暖まるぞ」と、かじかんで上手に開けられない私に蓋を開けた状態で渡してくれました。
買ってから少し時間を置いたのか、冷えすぎた私の体には刺激が抑えられた適度な温もりです。
黎人くんの細かい心遣いが胸に染み渡ります。
「ありがとうございます。少しは暖まりました」
「そっか、よかった」
「……」
「……」
互いに話さない時間が流れます。
なんだか妙に気まずい雰囲気です。
黎人くんとこういう雰囲気になったことがないためどうしたらいいのかわからない私は押し黙ってしまいます……がしかし、それどころではありませんっ!
今はい、一番の問題が発生していますっ!
心臓がバクバクと音を立てていて、体中が熱くて溜まりませんっ!さっきまで冷え切っていた私の心はもう沸点を優に超えてしまいました。
だって仕方ないじゃないですかっ!
全身が黎人くんによって包まれてしまっていますっ!
黎人くんが着たコートを羽織り、これまた黎人くんが着ていた制服を膝掛けとして使わせて頂き、黎人くんが買ってくれたカフェオレによって両手も体の中も全身が黎人くんで一杯ですっ!
さっきまで黎人くんが着ていたからか私の大好きな黎人くんの匂いが、温かさが私を包み込みます……嬉しすぎてニヤけてしまいそうです。
「ふぅ……よし」
そんな場違いな羞恥と私が格闘していると黎人くんが何かを決意したように息を整えているのを見てしまい、私にも再度緊張が走りました。
そっか……ここで私達の関係が終わるんだ……。
そう感じた瞬間に、また、視界がぐちゃぐちゃになってしまうのがわかりましたがグッと堪えます。
同じヘマはしません、今度こそ黎人くんにおめでとうと伝えるのです。
手をぎゅっと握りしめて、歯を噛み潰すくらいにキツく食い縛り、ギチギチと胸を絞め付ける痛みも悲しみも何かも全て押さえつけて私は無表情を貫きます。
どうせ祝うこともできずに泣いてしまうくらいなら全てを押し殺して無にしましょう。
愛想は悪くなってしまうかもしれませんが、泣き出すよりかはきっとマシなはずですから。
「僕は、」
「……」
「僕はっ!」
いきなり、黎人くんの影が動きました。
「……えっ?」
黎人くんがいきなり動いたと思ったら全身が大きな体に包まれました。
びっくりして固まってしまいましたが少しのまを取ってようやく私は黎人くんに抱き締められたのだと理解しました。
「ふぇっ!、れ、黎人くんっ!?」
「どうしたんだ?小雪」
「ど、どうしたもないですっ。は、離してください!」
「絶対にやだ」
「ひゃんっ!」
いけないっ。
そう思った私は黎人くんに離れてもらうように言うのですが、放してくれません。
むしろギュッとより抱き締められてお互いの隙間が埋まっていき熱が生まれます。
私はベンチに座っていて両腕をがっちりと押えられているために身動きを取ることができません。
恥ずかしさのあまり体をもぞもぞ動かしますが脆弱な力ではたくましい体つきをしている黎人くんを押し返せません。
離れないといけないのに……そう思うのに体は動きません。
心は全身が包まれるような優しい温もりを求めてしまっています。
喜んでしまっています、喜んではいけないのに……なんて往生際があるいのでしょうか……私は、こんな私なんか大嫌いですっ。
「好きだ」
「えっ?」
「何度でも言うよ。僕、黒崎黎人は高崎小雪のことが好きです」
時が止まったような感覚でした。
彼が言った言葉をもう一度頭の中を反芻します。
好きです……好き……誰が?、誰を?
黎人くんが高崎小雪のことが好き……高崎小雪って……私!?
「そう、僕は小雪のことが好き」
「そ、それは幼馴染みとし、」
「違う、一人の女の子として小雪のことが大好き」
「ふぇっ!?」
ほ、本当にそうなのでしょうか?私が一番に望んでいた答えを黎人くんの口から教えてもらったはずなのに実感がわかなくてふわふわとした気持ちです。
「さっきから黙りだけど、その反応は信じてないね」
「い、いえっそういうわけではっ!」
「じゃあ、僕が小雪が今日してくれていたアプローチについて説明してあげるから……恥ずかしいかもだけどちゃんと聞いてて」
「ひゃっ、ひゃいぃ~」
少し間を置いた後、少し顔が動く気配がして何事かと思った途端耳元で囁かれて全身がぞくりと痺れるような感覚が私を襲います。
そのために私はなんともまぁ情けない声を上げることしかできません。
く、くすぐったいですっ!
「まず、小雪が毎日のように僕と登校してくれること」
「そ、それはっ」
「普通幼馴染みでも毎日のように約束もせずに異性と登校はしません」
「ひゃんっ、はい~」
だから耳元で囁かないでくださいっ!
どうやら幼馴染みだからと反論を述べてしまうとそのお仕置きなのか耳元でふぅっと囁かれてしまいます。
変な声を上げてしまうし、なんだか気持ちがふわふわして力が抜けてへにゃへにゃになってしまいそうなので勘弁してくださいっ。
「じゃあ次、僕にマフラーを巻いてもらおうとしてわざとマフラーを緩めに巻いてきたこと」
「っ!?んっ~!」
ばっ、バレてますっ!バレてますぅ~!
「こらこら、暴れないの。ちゃんと僕が小雪のことを見ていたというのをわかってほしいから、小雪も耐えて」
羞恥に溢れた私はいてもたってもいられなくなって黎人くんの胸板にゴンゴンと頭突きをしますがいつの間にかこんなにも大きく、硬くたくましくなった黎人くんの胸板には全く効果がありません。
逆に背中に回っていた手の片腕が上に上がってきて私の髪をそっと撫でてきて私の抵抗力を削ぎ落とされてしまいました。
やり返そうとしたつもりが黎人くんに丸め込まれてなんだか私が幼稚化しているみたいですっ。
しかも、まだまだ続くらしく、もう私は一発KOで敗北のコングを鳴らしているというのに黎人くんはオーバーキルを狙ってきます。
「こうやって紅い髪を撫でられたり、褒められたりするとすぐ嬉しそうにするところ、そういう機会を作るために早く登校するところ」
「……」
何も言い返す言葉はありません。
なにせ、今黎人くんに触られて絶賛蕩けるくらいに嬉しい気分ですから。
でも、ストレートすぎて心臓に悪すぎますっ!
「自分で彼女がいないかどうか質問してきながら、めちゃくちゃ泣きそうになっていたところ。流石にゴミが入ったていうのは無理があると思うよ」
「うぅ~」
そんなこと私もわかっていますっ!
「僕と小雪だけの思い出を凄く大切に思ってくれているところ」
「あ、当たり前ですっ!」
今度はちゃんと言い返しましたよ!
どうですかっ?いつまでもやられっぱなしの私ではありません!
「だけど、惚気話をしてみたかったところ」
「うっ、黎人くんの意地悪」
うぐっ、またもや言いくるめられてしまいました。
「チョコレートを渡したくていつも一緒に帰るのにも関わらず改めて約束を取り付けるところ」
「くどかったですか?」
「そんなことはないよ。むしろ今年もちゃんともらえるんだって凄く嬉しかった」
「へへへ」
黎人くんの大きな手が何度も私の頭を撫でてくれて私の中の不安を着実に取り除いてくれます。
「チョコレートを見ただけで酷く取り乱していたところ」
「び、びっくりしたんですっ」
「流石に全チョコの証明を求められるとは思ってなかったよ」
「うぐっ、ご、ごめんなさい。嫌な女でごめ……」
「でも、そこまでヤキモキを焼いてくれる小雪が僕は大好き」
「さ、囁かないでくださいっ」
そんな、甘い声を耳元で囁かれたら真夏のチョコのようにデロデロに溶けてしまいますっ!
「わかったよ」
「あっ」
私の言葉をそのまま受け取った黎人くんが抱き締めるのを止めて体を離します。
包まれていた温もりが消えて急激な寒さが私を襲ってきます。
なんで放しちゃったんですか?もっと抱き締めててくださいよ……寂しいです。
内心で後悔していますが、黎人くんはベンチに座り直して隣に座り「小雪」と私の名前が呼ばれます。
「黎人くん」
名前を呼ばれた私は彼の方に顔を向けます。
近くの街灯に照らされた黎人くんの顔に私の鼓動と熱がぶり返します。
吸い込まれてしまいそうなほど綺麗で目が離せないくらいに輝かしい黒い瞳に私は目が離せません。
「この恋は、小雪だけの片想いじゃないよ。僕は小雪が好きで、小雪は僕が好きのちゃんとした両想いだよ」
黎人くんは私が一番に欲しかった答えを教えてくれて、この恋は片想いなんかじゃなくて両想いだってわかりました。
だから、私は嬉しい。
嬉しくなる、はずでした……なのに……。
どうして、こんなにも苦しい……の?
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私が、投稿している完結小説の後日談の方でもバレンタインに関するお話をあげております。
こちらは既にくっついた2人がイチャイチャするだけですが、よければ是非読んで見てください!
刹那の想いを紡ぎ重ね永遠に『俺は幼馴染の美少女と住んでるんだけど、誰よりも優しいそんな彼女とずっと一緒にいたい。ただ、それだけの話』
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