学園騒乱編〜報告書⑤〜
まだまだ続きます!
5人は無名を案内する為に学園内の施設や校舎を歩き回る。
授業が午前中しか無かった為か学園内はいつもと違い帰宅しようとしている者も居れば廊下で仲良く友達同士が談笑したりしている。
「学園の中は綺麗ですし、生徒の皆さんも活き活きとされていて素晴らしいですね」
無名は5人に案内されるまま後をついて行き話しかけると華鈴が嬉しそうに話す。
「でしょでしょ?この学校名門校だからお堅いイメージ持たれるけど理事長が生徒の自主性を高める為に自由にさせてるんだって!」
「それは素晴らしいお考えですね…きっと理事長様も素晴らしいお方なのでしょう」
「それに髪の毛の長さや色も自由だし化粧やアクセサリー系とかも特に問題ないっすよ!」
「そうなのですね!私は残念ながらお化粧とかは得意では無くアクセサリーとかもよく分からないので、もしこの学園に入学した際には華鈴様に教えて頂きたいですわ」
「無名さん、めっちゃ美人だから化粧とかアクセサリー着けたりしたらめっちゃ映えるっすよ!」
「ふふっ、ありがとうございます」
いつの間にか仲良くなった華鈴と無名が和気藹々と談笑しながら歩いていると、廊下で談笑している生徒やすれ違う生徒が無名に視線を奪われていく。
スレンダー体型な無名だが出るとこは人並みには出ていて華鈴の言う通り顔も整っている美人と言う事もあり、見つめていた半数以上の男子生徒や女子生徒はあの人綺麗や美人など呟く子も出てくる始末。
ふと、無名が見つめてくる男子生徒達に笑顔で顔を向けると呆然と立ち尽くす者や今からあの子に告白してくると言う生徒に対し止めとけ玉砕の道しか無いとツッコミを入れ窘める生徒も存在する程である。
その中、華鈴以外の4人は色々と複雑な面持ちで案内していると無名が急に立ち止まり4人に声をかける。
「あの…もしかしてご迷惑でしたでしょうか?」
無名は4人の心中を察したのか気遣いの言葉を投げかける。
「い、いや、そんな事ないよ!?」
菜月が急いで否定すると他の3人もそれに続いて菜月の言葉に同意するが無名は4人を見ては、ですが…と言葉を続けようとすると華鈴が割って入る。
「無名さん心配しすぎっすよ〜、でも先輩達さっきからどうしたんすか?無名さんに会ってから本当に変っすよ?」
その問いかけに4人は気まずそうにしていると華鈴が不満そうに話を続ける。
「雰囲気悪くなるのであんまり言いたくなかったすけど、せっかく無名さんがこの学園に入学しようかなって思って来てくれてるのにそんな感じだと失礼っすよ?」
一応、根が真面目な年下の華鈴に怒られた4人は何処か心の中で納得し分別がついたのか申し訳なさそうな顔をする。
「そう、だね…不愉快な思いをさせてしまってごめんなさい無名さん」
愛花は無名にすぐさま謝罪すると他3人も無名に謝罪する。
「すまねぇ…」
「私も…ごめんなさい」
「無名さん、この通り謝罪を受け入れてほしい…」
無名は頭を下げてくる4人を慌てて止め、4人に優しく問いかける。
「皆さん、全く気にしておりませんのでどうか頭をお上げになって下さい…」
その問いかけに4人は顔を上げると、それに…と無名は話を続けた。
「今回は私が皆様にご迷惑をおかけしてますので逆にこちらこそ皆様に謝罪致さなければならないのに…」
無名はそう言うと頭を下げる。
「この度は、私の急な要望にお付き合いさせて大変申し訳ごじゃ――ひゃっ!!」
無名が急に言葉を噛んで悲鳴をあげた事にびっくりする4人は無名の背後を見ると華鈴が背後から無名の胸を鷲掴みエロそうな仕草で揉んでいる。
「無名さん…意外と大きいですね…」
ムニュムニュ…
「か、華鈴様…おや、お止めに――ひぁっ!!」
ムニュムニュムニュ…
「良いじゃないですか〜減るもんじゃないですし、それにしても形も良いですしコレはコレで…グヘへ」
華鈴の暴走は止まらず胸を揉み続けると無名は艶っぽく身体をくねらせる。
その異様な光景に政太と三朗は顔を赤らめ目を背け菜月と愛花は赤らめながらも急いで華鈴を止めに入る。
「華鈴ちゃんそれ以上は駄目だよ!!」
菜月が急いで無名から華鈴を引き剥がすと華鈴はも、もうちょっとだけ〜と駄々をこねだす。
「…華鈴さん?」
凄く背筋も凍るような声で呼ばれた華鈴は声の主に振り向く。
「いい加減おイタが過ぎるのでは…?」
大人しく怒る事なんて滅多に無い愛花が目は笑っているが相当お怒りのご様子で流石の華鈴もハイ…と頷くことしか出来なかった。
華鈴は初めて愛花先輩は怒ると本当に怖いと理解した瞬間であり怒らせないように気をつけようと誓ったのであった。
「無名さん本当にごめんなさい!!大丈夫ですか?」
愛花はしゃがみ込んでいた無名に声をかけ手を伸ばすと無名は手を取り立ち上がると恥ずかしそうにしながらも乱れた服装を整える。
「えぇ…問題無いですわ」
無名は頬は赤らめながらも落ち着きを取り戻し毅然に振る舞う。
「それに、華鈴様はきっとこの空気を和ませようとしてやった事なので許してあげて下さい」
そう言って無名は華鈴の方を見ると3人に正座させられて叱られる姿が確認された。
「いえ今回は良い機会ですので、すぐ調子に乗ってしまうあの子にきつーくお灸を据えないといけないので…少しだけ待ってて下さい」
愛花はそう言うと無名から離れ3人に混ざり華鈴にキツくお灸を据え、無名もその光景を後ろから微笑ましく眺め苦笑するのであった。
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図らずしも華鈴のトンデモ行動によって空気が和んだ一行は先程とは違って楽しく談笑しながら学園案内は続く。
「ところで、どうして無名さんはこの学園に来ようと思ったんですかー?」
菜月はふとした疑問を聞いてみた。
「古奈木おじ様からの紹介も御座いますが、今通っております学園の帰りに見かけた際に良い雰囲気の学園だと思ったので今回お父様と天ヶ崎家の現御当主がお知り合いだったので無理言って下見に来させて頂いたのですよ」
「そなんだー…って、無名さん理事長のパパさんと知り合いだったの!?」
「お父様が、ですけどね」
「確かに…知り合いじゃ無かったら普通はここに入る事出来ないもんね」
菜月はめっちゃお嬢様なんだなーと思っていると今度は政太が無名に問いかける。
「そういや俺ら高等部2年すけど、無名さんって同い年っすか?」
「そうですね、私も2年生なので入学した際には同じ学年なので、ご一緒のクラスになれたら歓迎して頂けると嬉しいですわ」
笑顔で答える無名に今度は三朗が笑顔で無名に言う。
「クラス関係なく僕達は無名さんの事を是非歓迎しますよ」
「ふふっ、三朗様ありがとうございます」
感謝の意を表してお辞儀をした無名に愛花が話しかける。
「無名さん、そんな畏まらなくていいですよ?」
「そう、ですか?」
「えぇ、初めてお会いした時は色々とご迷惑をおかけしましたが…今では私達もう友達じゃないですか」
「友達…ですか」
「えぇ、そうですよ」
愛花から友達宣言された無名は困惑するように5人を見渡すと皆は歓迎するかのように笑顔で彼女に視線を向けている。
「…嬉しい…ですわ、皆様ありがとうございます…」
過去の思いがが重なってしまい無名の頬に一筋の涙が落ちていく。
その光景に5人はえっ…どうしようとかマズかったのかなとか嫌だったかなとか困惑状態に陥って慌てていると、無名は右手の人差し指で涙を拭い笑顔で話しかける。
「皆様、大袈裟ですよ…ただの嬉し泣きですから心配しないで下さい」
その言葉に安堵する5人は無名に寄り、普通心配するって言いながら、話に花を咲かす。
談笑の中、無名はひっそりと瞼を閉じ先程の5人の笑顔の光景を思い出す。
(過去を捨てもう、二度と会うことも出来ず見れない光景と思っていましたが…また4人の…いや今度は5人ですか…再会には驚きましたが笑顔が見れて更にまた友達にもなれて幸せですね…)
無名は心の中でその想いをそっとしまい、目を開き5人と共に学園案内を再開する為歩を進めるのであった。
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あれから時間も経ち、お昼も過ぎた頃には殆どの生徒は帰宅して学園内の廊下や教室は物静かになっており聞こえるのは6人の足音と和気藹々な話し声である。
「そーだ先輩達!」
華鈴の一言に5人は歩きながら話を促す。
「無名さん案内した後、暇なら無名さんも一緒に駅前に新しく出来たスイーツカフェ行かないっすか?」
スイーツカフェに即座に反応しテンション上がる菜月と愛花。
「あ!いいね、それ!!その店前から気になってたのよね〜、折角だし皆でレッツゴーしよっ!!」
「私も気になってて、あのお店の苺タルトがすごく美味しいって評判だから凄く行きたかったの!」
乗り気な2人に対し政太と三朗は苦笑する中、無名の返答は……。
「そうですね!皆様とご一緒にお伺いしてみたいですわ…今、迎えの車は後程に手配するよう連絡致しますね!!」
存外、乗り気な無名である。
そして校内案内もそろそろ終盤に差し掛かる6人は講堂を目指している最中に突如背後から全員が良く知る声に呼び止められる。
「貴方達、待ちなさい?」
5人は背後を振り向くと現生徒会長の天ヶ崎 栞が仁王立ちで立っている。
「お久しぶりです、栞さん」
そう笑顔で返した三朗に栞は脇目も振らず少し俯いて顔が見えない無名を見つめた後、溜め息混じりに息を吐き5人を見渡す。
「色々聞きたい事がありますけど…まず貴方達、本日は授業は午前中で終わりだからお昼頃には全員帰るように担任から言われてたと思いますが?」
5人はえーっと、気不味そうな感じで目を泳がしながら栞を見る。
「それにそちらの方はどなたでしょうか?他校の生徒もそうですが当学園関係者以外の方は学園内に入れない決まりになっている筈ですが?」
5人はえっ?と驚き俯いている無名に振り向く。
「えっ、でも栞ちゃん?」
「…華鈴さん私を愛称付けて呼ぶのは構いませんけど、せめて公の場と言いますか他の人が居られる時位はさんを付けて下さい」
華鈴はごめんごめんとばかりに両手を合わして舌をペロっと出す。
「…はぁ、この際良いですわ」
溜め息混じりに呆れながら言うと栞は無名を見つめる。
「ところで、貴方たちそちらの方はどちら様でしょうか?」
再度5人に問い直すと愛花が経緯の事情を一部を除いて説明する。
「…と、言う事で私達は無名さんを学園案内しておりました」
「そうですか…事情は理解しました。」
栞はそう言うと無名をチラリと見ると続けて言う。
「ですが、私や姉様…理事長もそんな話は聞いておりませんが…」
そう言って無名を見据える。
「ところで…」
今度は俯く無名に栞は問いかける。
「先程から貴女は一言も喋らず俯いていますが、そろそろ此方に顔を向けてちゃんと貴女から自己紹介をするべきでは無いのでしょうか?」
「……」
無名が黙って俯いていると栞は我慢の限界なのか先程とは違い鋭い口調で問い詰める。
「尋ねているのに無視とは失礼じゃないかしら?このまま何も喋らないのなら不審者として貴女を警備の方に引き渡すのを考えなくてはなりません」
これ以上は大事になると思った5人は栞におずおずと説明しようとする。
「…あのー、琹っち」
「なんですか菜月さん?今、私はこの方に話しかけているので邪魔しないで下さい」
栞は話しかけてきた菜月に怒りで鋭い視線と敵意を向ける。
無視をされている事にたまらなく腹立たしい栞は旧友に対しても容赦無く噛み付く状態にどうしたものかと考える。
「…先程から聞いていれば…」
無名の呟きに5人と栞はハッとして彼女を見る。
そこには、こちらも怒り心頭なのか栞を鋭く冷酷な目つきで射殺す様に睨みつける無名の姿があった。
顔を見た栞以外の5人は無名の目つきに焦りまくるのを他所に栞は、と言うと……。
「……ふぇ!?…へ、えっ?…う、嘘…でしょ…?」
彼女にしては珍しく素っ頓狂な声をあげた後酷く困惑する。
「そ、そんな…事って………」
困惑しながらも喉から搾り出し言葉を発する栞を無名は冷酷に睨みつける。
「ゆ、ゆゆ…優人お兄様…なのですか?」
本日2度目の亡霊の名前が出てきた瞬間であった。