学園騒乱編〜報告書③〜
「おはようございます、ゴミ虫様」
「――っ!?」
起きて早々顔が目の前にあると心臓に悪い。
昨日はあの後何事もなく勤務を果たし現在一人暮らしのマンションに帰って依頼主に報告書を仕上げていたのだが……どうやら眠っていたらしい。
「……どうしてアンタがここに居んの?」
俺はとりあえず距離をとった目の前のクールなパッツンメイドに声をかけてみる。
「私も心底嫌なのですが、奥様と旦那様からクズでどうしようもないゴミ虫様のお世話を仰せつかったので、しょうがなくこちらに参りました」
あの2人余計な者を送ってきやがって……。
てか、久しぶりに会うけど何かパワーアップしてドSな感じと毒舌が追加されたな……。
「理由は分かった……だが世話なんて必要無いし嫌なら帰れば良いだろ?」
「ゴミ虫様にしては気遣いが上出来ですね」
ドMならご褒美とか言い出して喜んでるだろうが俺はそんな趣味も無いし、実際に起きたてに毒舌が飛んでくるとイラつくのとしんどい。
「お前は喧嘩売っているのか?」
「いえ、ただのメイドの戯言ですがそれともミトコンドリア並みに小さい器量では聞き流せませんか?」
彼女は軽く微笑みながら悪びれもなく言い放つ。
駄目だ本当にキレそう……しかしここでキレたらまた罵声を浴びないといけなくなるのでここは我慢だ。
「…はぁ、もういい」
「それは何よりです」
言い返す事を諦め、頭が痛くなる俺をよそにパッツンメイドは俺の寝室から出ようとして立ち止まりこちらを流し目で見る。
「いつまでベットにいるつもりですか?私も嫌々ですが朝食を用意したのでリビングまで来てください」
そう俺に告げると彼女は部屋から出ていく。
「…ストレス溜まるわ」
今日は休日で俺はゆっくり惰眠を貪りたいがあのパッツンメイドを待たせると後に面倒になりそうなので服を着替えリビングに向かう。
リビングに入るとテーブルに栄養バランスが偏る事がない立派な朝食が数種類用意されている。
飯にはこだわりが無く適当に済ましている俺だがここまでちゃんと丁寧に用意されているとあのパッツンメイドに流石メイド長は伊達じゃ無いと思う。
「…普通に美味そうだな」
俺が吐露した言葉に不満そうに彼女は答える。
「ゴミ虫様の為に用意するのは不服ですが、奥様と旦那様から仰せつかった事なので天ヶ崎家のメイド長として当然です」
天ヶ崎家のメイド長、ね……。
俺はテーブルに着きありがたく朝食を摂りながら、ふと思い出し重要な事を聞く。
「咲さん、天ヶ崎家で俺が生きている事実は咲さん含めて両親の2人の合計3人だが他にこの事実を知っている人間は居ないよな?」
問いかける俺をよそに彼女は黙々と朝食を摂りながら無視を決め込む。
流石に人が真面目に聞いてんのにどうなのよ…その態度。
俺にも限度があるので今度は少し殺気を込めて彼女を見据えて聞く。
「…咲、いい加減にしろよ?」
彼女は殺気にピクリと反応すると流石に食事の手を止める。
「別にどうでも良い事に関しては答える義務も無いがこっちはそっちの依頼を仕方なく請け負っているんだ、仕事に関する事は最低限答えてもらうし協力する気が無いなら今すぐこの依頼は破棄させてもらう」
見据えられている彼女は手拭いで自分の口元を拭き綺麗に拭き終えると口を開く。
「…知りませんよ、旦那様と奥様方に貴方の生存に関しての口止めは厳命されておりますので」
彼女の答えに納得した俺だがここまでしないと喋らないとか釈然としない。
昔は俺を弟みたいに可愛がってくれたのにたった2年の月日で色々と変わる物なんだな。
「ならいい」
簡潔に答えるとお互い再び朝食を摂り始める。
無言で朝食を摂っているが流石に気まずくなるのでゆっくり食いたいがさっさと食うことにする。
〜数十分後〜
お互いほぼ同時に朝食を食べ終わると彼女が話かけてくる。
「…済まれたのでしたらそのまま置いといてください
片しますので」
彼女はそう言い俺を見ようとするが切れ長の目を見開き驚愕する。
「―――っ!?」
その場に彼女以外誰も居らず先程までテーブルにあった筈の使った食器等も全て無くなっていたのだ。
「…どうなっているのでしょうか?」
彼女は何が起こったのか分からず見渡し困惑する。
別に幻覚を見ているわけでもなく先程まで目の前で優人共に食事をしていたのに目視しようとした途端に彼の気配やテーブルの食器も消え失せている。
たった1秒にも満たない僅かな時間で。
自分自身がいつの間にか呆けていて時間が経ったのか?と、そんな馬鹿な事は有り得ないと思いながら時間を見るが食べ終わってから1分も経っていない。
「…訳が分かりませんわ」
彼女はいくら憶測や考えをまとめても自分では理解の及ばない現象に嫌気がさし心底嫌そうに漏らす。
いやー、気まずすぎて面倒になったからついやってしまった。
本当にどうしようかな…まぁ俺の能力に関して分からないだろうから大丈夫だと思うけど、多用しないよう気を付けよう。
でも、俺は偉いと思う。
自分の食器とアイツの食器も両方片付けて終わらしたんだ。
勝手に居なくなったと言って文句を言われる筋合いは無いし言われたら俺が怒りで発狂する。
自室に戻った俺は再びベットに身を任せ目を瞑り今後の予定や計画を立てながら微睡む。
〜〜〜〜〜
「…………ん?」
爆睡していたのかあれから3時間くらい寝ていたらしい。
それに家の中が物凄く静かだな…咲は出かけてるのか?
「…とりあえず、風呂でも入るか」
寝汗を不快に思った俺は浴室に向かう。
そういや、ラノベとかこうゆう時って主人公補正かかってる奴って大概ラッキースケべって起きるよな。
とか、下らない事を思いながら浴室の扉をスライドして開ける。
「あ…!?」
「…………」
先客と目が合いお互い時が止まってしまう。
もちろん先客とは咲であり一糸纏わぬ姿でこちらを見ている。
急いで俺はスライド戸を勢いよく閉める。
待て待て!こんな最悪なラッキースケベ要らんぞ!?
そう考えていると扉越しから咲が声をかけてくる。
「……見ましたね、ゴミ虫様?」
はい、ばっちり全身見てしまいました!!
なんなら、手の平に程よく収まる形の良い胸からくびれ、張りのあるお尻まで綺麗な凹凸が脳裏に焼き付かされましたよ!!
「見てない!ナニモミテナイ!!」
テンパって最後片言になる俺。
口は災いの元とはよく言ったものだわ……。
「……とりあえず言い残す言葉はございますか?」
「待て!何故もう死刑宣告なんだっ!?」
「…確かに、ゴミ虫様と言えど処分するのは不味いですね」
コイツ…ガチで処分する気だ。
「なので、慈悲を与えます」
上から目線が腹立つが俺にも非があるから何も言えない件について。
「警察に通報されて社会的に抹殺されるか私に滅多刺しにされた挙句バラバラにされ魚の餌にされるか……どちらがお好みですか?」
…慈悲とは?
慈悲もクソもねぇーじゃねーか!?
「どっちも死刑宣告なんだけど!?」
「何かご不満でもございますか?」
「不満しかねぇーよ!?」
「私の裸を見たのですから当然の報い…妥当な処置だと思っておりますが?」
「なんで、見たくも無いテメェみたいな貧相な身体見て…………」
そこで俺は後頭部に鈍い衝撃が走り気を失う。
…ラッキースケベなんて起こるものじゃないな
気を失う寸前に心の底から思った事である。