学園騒乱編〜報告書⑨〜
皆様、遅めのご挨拶ですが…
あけましておめでとうございます。
そして今後も遅い投稿になりますが末永く暖かい目で見守って頂ければ幸いです。
目の前の光景がとても信じられなかった。
未熟とは言え、そこらの訓練された兵士よりは強い仲間達が1人のおじさんに瞬く間に無力化され私と相対している。
「まだ続けるかね?」
相対するおじさんは私にそう問いかけてくる。
最初のコンタクトの時は気配すら感じさせる事もなく急に現れて、なんだこの無力そうなおじさんは?と思って様子を伺っていたけど…先の光景でただのおじさんでは無かったと認識を改めナイフを抜き構え問いかけてみた。
「……貴方、何者なの?」
問いかけられた彼は困った様に笑うと奪った銃を捨て気絶している仲間から今度はナイフを抜きこちらに向き構え質問に答えてきた。
「私は…ただの用務員でメタボなおじさんだよ」
一応聞いてみたが、どうやら相手は素性を正直には教えてくれそうになかったのでとりあえず敵対者として彼を無力化する為にナイフで切りかかる。
すると彼も私と同じタイミングで斬りかかり斬り合いの応酬が始まる。
受け流ししては斬りかかり、避けられては斬りつけられたりを素早い速さで繰り返すが互い傷を負わすことができず決定打に欠け決着が状態に陥る。
(このまま拮抗状態が続けば分が悪い…どうにかしないと……)
意識を彼に向けるも彼も考え事をしているのかすこし心此処に有らずな感じである。
(この状態で余裕を見せるとは…腹が立ちますね…)
「戦ってる最中に考え事とは随分と余裕ですね?」
苛立ちで彼にナイフを振るいながらそう尋ねると彼はそんな事は無いと答えバク宙返りで距離を取る。
本当に彼は一体何者なのだろうかと疑問に思う。
見た目と反して異常すぎるイレギュラーな存在で対等…いやそれ以上の存在を感じる。
「もう一度聞きますが…貴方、何者ですか?ただの一般人にしては動きのキャパシティが異常すぎます」
聞いても無駄だと分かりつつも聞いてみるが彼は笑ってはぐらかす。
(…やはり早々にケリをつけるべきですね)
そう考え本気を出す為に邪魔であるマスクやバンダナを脱ぎ捨てて彼を見据える。
「まぁ、答えても答えなくても貴方にはここで大人しく捕縛されて貰います」
彼にそう告げると素早く近づき今までの倍速でナイフを振るう。
先程までより速さに驚くも対処する彼に追い打ちをかけるように連続で斬りかかる。
斬りかかる内に段々スピードも上がり反撃の隙を与えないようにするが内心こちらも焦りがでてくる。
(早めに決着付けないとこっちがもたない……)
思った矢先に自分の体に疲れが出始める。
このハイスピード戦闘は身体に凄い勢いで負担がかかる為短期決着を望む場合に使用するが先程の斬り合いも含め限界が来るのが早まっていた。
「はぁ…はぁ……」
彼はわざとらしくどうしましたか?と尋ねては距離を取り体勢を整える。
(彼はもしかしてこの状況を楽しんでいるのかしら…それとも…)
自分の思案に考えを巡らせるが答えが見つかる訳でも無いので考えを止める。
「驚愕ですね…貴方の様なご老人にここまで容易く攻撃を無力化されるなんて…私もまだまだですね」
自分の技量が全く通じなかった事に落ち込みながらも相手に率直な感想を述べる。
「いえいえ…そんな事はありませんが、時間もあまり御座いませんのでそろそろ終わらせましょうか…」
そう告げる彼に頭の中で長年培ってきた経験による警告がもたらされ構えようとするが一瞬であった。
「えっ……」
彼が何をしたのか知らないが先程の動きとは違いまるで瞬間移動したみたいに眼前まで迫ってきた。
「ちっ……」
咄嗟に舌打ちをして対処しようとするがその時には目の前には居らず、その瞬間後頭部に強烈な痛みが走り倒れ込むと意識がゆっくりと失なわれていく。
「不覚…です……」
体が動かせず意識が失われていく朦朧とした中で昔聞いた声を聞く。
「蓮さん…どうして貴女が……」
名前を呼ばれその声がする方に目を向けるとそこには昔見た少年が成長し、青年となって立っている。
直感で分かった…彼はきっと。
「ゆ…うと……さ、ま……?」
ここで彼女の意識は絶たれた。
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意識を失った蓮を見下ろし聞こえていないだろうが言葉をかける。
「蓮さん、悪いな…」
彼女に届かない言葉を伝えると、先程の無線の会話内容を思い出す。
(放っておいたら面倒になりかねないだろうしな…とりあえず最短最速で他の校舎も片付けて大講堂を目指すか…)
何をすべきか決まった事で即座に行動に移ろうとその場から瞬時に消えていった。
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その頃、大講堂内では緊迫した状況が続いており生徒達と教職員達が律華と男を見守る形でやり取りを黙って見ている。
「そろそろ教えてくれんかぁー?」
男の言葉に律華は顔を顰める。
「何で、貴女にそんな事を教えないといけないんですか?」
「ええやんか、そんな嫌がらんでも〜」
「貴方に教えたとして私に何の得があると言うのですか?」
男はその言葉に諦めがついたのか深い溜め息を吐く。
「そんな嫌がらんでもええやんか…たかだかスリーサイズ教えるくらい」
「…教える意味が分かりませんが」
律華の言葉に生徒や教職員達が心の中で同意する。
「ケチやのぉ〜…まぁええわ、んで……本題の方は渡す気になったか?」
ちゃらけた雰囲気から一転して圧をかけるように律華に問いかける男。
「…言った筈よ?、あれは政府の承認申請が降りないと渡せないと…それにアレは人が関わっても良いようなものじゃ無いわ」
「俺等には関係あらへんわ、取ってこいとしか言われてへんしなぁ…それに承認申請言うとるけど、それ嘘やろ?」
男の最後の問いかけに顔には出さないが内心焦る律華は本当の事よ、とだけ告げる。
(…確かに緊急の際には天ヶ崎家の権限で地下の扉を開く事は出来る…ただそれだけであり渡す事は私には出来ない…それに仮に言いなりになったとして生徒や教職員達が助かる保証はどこにも無い……)
思考を巡らせながら男を見つめると男はそうかいな…と告げて笑みを浮かべる。
その笑みに律華は気味の悪さと胸騒ぎを感じる。
「おい」
男は仲間に呼びかけると近くの1人が男の元まで近寄る。
近づいた仲間に男は笑みを浮かべながら耳打ちするし、暫くするとその仲間は言われた事を実行しようと生徒が固まっている方に歩き出す。
生徒達は怯えながら自動小銃を両手で持ちゆっくり迫り来るテロリストの動向に注目する。
テロリストは生徒達が固まっている場所をゆっくりと進むと、ある女子生徒の前で立ち止まり持っていた銃をその女子生徒に向け構える。
「おい、立て」
女子生徒の側には小学生位の少女がその女子生徒に離れないように抱きついており、彼女は少女の頭を撫でると彼女はテロリストに強い眼差しを向けて言い放つ。
「あなた方の言う事に従いますので、その物騒な物を向けないでもらえませんか?、妹が怖がっておりますので」
その言葉にテロリストはどう対応しようかと考えたが素直に銃口を向けるのを辞めて彼女について来るように促す。
他の生徒達もやり取りを見続ける中、彼女は妹を友達に預ける。
「菜月さん…妹を宜しくお願いします…」
彼女…愛花はそう言って菜月に妹を託そうとするが妹の愛美は姉から離れようとしない。
「おねぇちゃん…いっちゃいや…」
愛美は涙ぐみながら愛花の裾を掴み顔を見つめか細い声を出しては懇願する。
愛美の姿を見た愛花は愛美の目線に合わすようにしゃがみ込み優しく微笑むと頭を撫でて優しく問いかける。
「愛美、お姉ちゃんすぐ帰って来るから大人しく菜月お姉ちゃんと待っててくれる?」
姉の言葉を聞いた愛美は必死に我慢し菜月の側に行く。
その様子を見ていた愛花の友人達が自分が身代わりになるからとテロリストに訴えかけるが銃を向けられ一蹴される。
「愛花ちゃん……」
心配、いや行っちゃ駄目という感じな顔で愛花を見つめる菜月にも彼女は優しく微笑む。
「大丈夫よ…すぐ戻るから」
彼女はそう言ってテロリストと共に講壇に向かう。
愛花が連れていかれる様子を見ながら栞は周りにバレないように咲にヒソヒソと話しかける。
「…咲、貴方の力でこの窮地は解決出来ないの?」
その言葉に咲は淡々と答える。
「…無理ですね、これだけの大人数に囲まれて無力化するのは…琹様や、律華様をお救いして逃げるだけなら何とかなりますが…」
咲の言葉に栞はそれは論外ね…と答えて愛花が連れて行かれる所をただ黙って見る事しか出来ない。
講壇の上に連れていかれた愛花はリーダーの男と律華と向き合う。
「さてと…」
男は愛花が講壇の上に揃ったところで声を出すと律華が男に声を荒げる。
「生徒に何をするつもり!?言った筈よ生徒達は関係ないと!!」
男は律華の訴えにヤレヤレといった感じに答える。
「言いましたやん、貴方次第と…こちらも手段選んでられへんのでね、だから…」
男がそこまで言った瞬間大講堂の扉が開かれテロリストと拘束され頭に麻袋をかけられた人物が入って来るのが見える。
大講堂内の生徒や教職員達が驚きに注目するなか2人は講壇に向かって歩いていく。
「そいつ誰や?」
男は謎の人物を連れて来た仲間に問いかける。
男の仲間は講壇まで上がると報告を始め出す。
「隊長、コイツがこの辺りをうろちょろしてたので捕まえて来ました」
そう言ってテロリストは連れて来た人物の被ってた麻袋を脱がして強引に蹴り倒す。
「痛たた…もうちょっと年寄りを大切に扱わんか!」
「用務員さん!?」
「古奈木さん!?」
驚きに声をあげる愛花と律華。
「おや…お二人とも無事とは言い難いですが怪我をして無くてな…」
古奈木が言い終わる前に男がおい、おっちゃんと尋ねて会話に割り込む。
「この状況で俺を無視とは良い度胸しとるな〜」
「いやいや…そんな…」
古奈木は上半身を起こして焦るように言おうとした途中だった。
――――――パァン!!
乾いた音…一発の銃声音が大講堂内に響く。
銃声音により酷く静かになる大講堂内に今度は薬莢が落ちる音が響く。
律華と愛花は銃声音にびっくりして閉じていた目を開く。
『―――――えっ!?』
目の前の光景に驚愕し2人は目を見開く。
男の手には拳銃が握られており、その銃口からはゆらゆらと硝煙が立ち上る。
そして銃口先の人物……古奈木が突っ伏して倒れており少しすると血が流れ出て血溜まりが出来ていく。
「よ…ようむ、いん…さん……?」
愛花は古奈木の現状に呆然し呼びかけるが答えは帰ってこない。
「い、いや……」
愛花は震えながらも古奈木に近づき抱き起こすが古奈木は力無く身体も冷たくなっていた。
その光景を見ているもう1人…律華も古奈木の死に動揺する。
「うそ、でしょ…」
すぐ様、律華は古奈木を殺した人物に声を荒げ問い詰める。
「彼は関係無かったでしょ!!どうして殺したのよ!?」
律華の言葉に男は声を荒げ笑いながら話し出す。
「いや〜、手ぇー滑って引き金引いてもうたんや、別に生徒さんや先生方を撃ったわけちゃうんやから他人そうやしかまへんやろ?」
「そんな訳ないでしょ!!彼も立派なこの学園の関係者よ!!」
男はめんどくさそうに律華に言い放つ。
「うるさい女やなぁ…構わんやろ1人や2人殺した所で」
「なっ…!」
男の発言に驚きが隠せず、他に囚われた生徒や教職員達にも動揺が走る。
「そもそも、あんたが早よぉー聖骸を渡しゃーこんな事ならんかったんちゃうんかー?」
「さっき言ったじゃない!私からは渡せないって!」
「…はぁ、強情やな…あんたがシラ切るつもりならそれでも構わんけど段々周りの人間死ぬぞ?」
男は呆れたように言い放ち持っていた拳銃の銃口を愛花に向ける。
「次は、この嬢ちゃんに死んでもらおーかー」
男の言葉に律華はすぐ様、愛花の盾になる様に男と銃口に向き合うように両手を広げ立ちはだかる。
「止めなさい!これ以上はさせない!!」
「なら、渡す気になったんかいな?」
「何度も言っている筈よ…私の権限では渡す事も出来ない」
「あんた…俺が何の調べも無しにここに来たと思ってるんかいな?」
男の発言に眉間に皺を寄せる律華。
「…どう言う事かしら?」
「まぁ、あんたが知らんなら構わんわ…とりあえずここに居る人間全員殺してでもあんたに渡してもらうわ」
そう言って男は話す途中で下ろした銃口を再度律華達に向ける。
「とりあえず、そこのお嬢ちゃんからやしそこどき?」
「それなら…私を撃ちなさい」
「あんたは大事な情報源でもあるさかい………」
男の言葉に律華この様子なら私が盾になれば撃つ事は出来ないと自分の重要性を見出すが男はまた不敵な笑みを浮かべた瞬間…一発の銃声音が鳴り響く。
直後、見ていた生徒や教職員達から悲鳴が響き動揺が広まる。
律華は肩を押さえ苦しげな声を出しその場に跪き何が起こったのか痛む自分の肩に目をやり理解する……この男が簡単に引き金を引き肩を撃ち抜いた事を。
「撃てへんと言うと思ったんかいな?あほらし…確かにあんたは大事な情報源でもあるけどだからと言って撃てへんわけちゃんやで?」
痛みに苦しげな表情を出しながらも愛花を庇う様に律華は再度銃口を向ける男と対峙する。
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自分の姉が撃たれて気が気じゃ無い栞は何も出来ないがうえ、ただ呆然とその様子を見続ける事しか出来ず目尻に涙を溜めていた。
「姉様………」
側で栞の様子を見ている咲は顔には出さない様にしているが内心は焦りと驚愕でいっぱいである。
(このままだと律華様が……そしてあの人…本当に撃たれていたのだとしたらこのままだと…)
焦りで今にも律華や愛花を助ける為に強襲をしそうになるが、必死に堪え冷静さを取り戻そうとするが目の前で起きている事に中々冷静さを取り戻すことが出来ず内心はイライラしまくりである。
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一方、男と対峙する律華と愛花。
律華は愛花を庇う様に立ち、愛花は古奈木の亡骸を
抱えている状況であった。
「どうするん?寄越すきぃーになったか?」
男は律華にそう問いかけると向けていた銃口を律華の頭に照準を定める。
男の要求に拒絶する様に苦しげに睨みつける律華。
「どうやら…ノー、って事みたいやな…」
男は笑みを浮かべてはそう呟き構えてた拳銃の引き金をゆっくりと引いた。
(私は………)
走馬灯の様に感じる迫り来る死に律華は受け入れるかの様にそのまま瞼を閉じる…。




