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第42話 円卓の謀略

 光の民と野の民、それぞれ三人ずつの六人が円卓を囲んでいた。ジャヌビアは光の民に負けんと擬態を解かずに臨んでいたが長時間の擬態に体力が追い付かないルセフィは野の民本来の小さな姿で兄の肩に載っていた。そして種族の名誉と矜持を重んじる長老もまた野の民本来の姿のまま玉座に着いて来訪者たちを見据えていた。


「ジャヌビアさん、それにルセフィさん、先ほどの非礼は水に流してまずは我々の話を聞いていただきたい。その上でお二方の賛同と協力を期待しています」


 こうして来訪者のリーダー格であるアトール議長が野の民の兄妹きょうだいを前にして事のあらましを語り始めた。


 長らく平安の世が続くこの世界では国を問わず民は増え続けそれが様々な問題を引き起こしていた。国々は不可侵領域とされている周辺地域に少しずつ領土を広げることでそれに対処していた。


「我ら光、それに水と風はまだ統制を保っていますが他の民はかなり苦慮しているようです」


 すると退屈そうにソッポを向いていたリバロが口を挟んだ。


「産めよ増やせよってヤツさ。そりゃな、以前のように戦だ反乱だなんて時代はそれでよかったさ。でも今は天下泰平の世だ、連中は時代の変化に対応できないトロくさい種族なのさ」


 相変わらずの口の悪さだったが今度はアトール議長もそれを制することはしなかった。


「言い方は悪いがリバロの言葉にも一理あるのです。我ら光、理性と矜持の民である水、そして元々そう多くの民がいるわけでない風のそれぞれはまだしも火、土、石の民はかなり深刻な状況なのですよ」

「俺にとっては風と火が増えてくれるのは大歓迎だけどな。なにしろヤツらの女ときたら上玉揃いだ。余った女たちはよろこんで奴隷にしてやるぜ」

「リバロ、いい加減にしろ!」


 あまりの口ぶりに参謀のシナールが割って入ってリバロをしかりつける。しかしリバロはプイと横を向いたまま再び退屈そうにあくびした。

 再びアトール議長が話を続ける。


「そこで我々は各国と協議して連合を結ぶことを提案しました。もちろんいずれは連邦国家となる前提で、です」


 そしてアトール議長は言う、今起きている最大の問題は民の増加に伴って「持たぬ者(ダシュタルニル)」もまた増え続けていることだ、と。これまでは奴隷として使役するか放逐していたが今やそれでは追いつかない状況になっているのだった。


「ところでこの村に加護と祝福について研究をしている者がいると聞いているのですが」

「オングリザ先生のことですか?」

「オングリザ氏と言うのですか。彼の研究についてはロルカムからも聞いています。加護と祝福は神や信仰由来のものではなく民ひとりひとりに備わっている能力カリビエであるという考え方であると」


 そんな話まで筒抜けなのか。ジャヌビアはロルカムに対して今まで以上に警戒するよう一刻も早くオングリザ先生に伝えたかった。そんな彼の憂慮など知る由もない光の民は議長に代わって参謀のシナールが話を引き継いていく。


「我々も以前から加護と祝福の発現に個人差があることには気付いていた。ごく稀にではあるが奴隷として徴用された後に目覚める者もいる、とにかく苦慮させられるばかりなのだ」

「苦慮って……ではそのときはどうするんですか?」

「そんなもんいちいち聞かなくても解るだろ、なかったことにするんだよ」

「あらあら、なんと言うことでしょう。殺すとハッキリおっしゃればいいのに」

「なんだと、このガキ!」

「ほらほら本性が現れましたわ。光の民なんて気取ってても一皮剥けばこんなもの、今日から粛清の民とでも名乗ればよろしいのに」

「ルセフィや、今は黙っていなさい」

「は――い、ごめんなさ――い、おじいちゃん」


 リバロの口の悪さも大概のものだったがその態度に怒り心頭だったルセフィもまた慇懃無礼な態度でやり返した。しかし相手の挑発に乗ってはいけない、長老はジャヌビアに代わって彼女をたしなめたのだった。


「話を続けよう。我々も研究を重ねてきたがオングリザ氏ほどの成果を得ることはできなかった。ただ持たぬ者(ダシュタルニル)として扱われてきた者に加護と祝福が発現したらどうなるか。おそらく彼らの思いは敵意となって国と制度に向けられるであろうことは容易に予想できる」

「ならばその持たぬ者(ダシュタルニル)たちをみな粛清してしまうのですか?」

「まさか、そんなことはしない。ただ放逐するだけだ」

「しかし放逐したとしても……例えばこの村にたどり着いたとして、ここで能力カリビエを磨いて来るべき時に備えるなんてことも考えられませんか?」

「もちろんあり得ることだろう。特にこの村のように異なる種族の集合体ならばなおのこと、種族を超えた能力を自在に使いこなすような者が現れたならばそれは我々にとって十分な脅威だ」


 シナールはここまで話すとアトール議長に目配せを送る。その合図を受けてアトール議長が再び話を引き継いだ。


「だから選別するのです。奴隷として残しておく者、これは一定数は確保しておかねばなりません。そのような者には徹底した教育を施します。そしてそれ以外の者は国の外、いや、この世界の外に放逐するのです」


 この世界の外、その言葉にジャヌビアはすかさず反応した。


「この世界の外って、いったいどれだけの民をそうすることになるのか、僕には見当がつきません。それにその後の民はどうなってしまうのか、も」

「それこそがまさに神のみぞ知るということです」

「しかしそれでは……」

「ジャヌビアさん、国を治めるとはそういうことなのですよ」


 ここまでの話を聞いてジャヌビアにもようやっと彼ら光の民が考えていることを理解することができた。すなわち増えすぎた民から持たぬ者(ダシュタルニル)を優先的に間引いていくのだ、それも神の啓示などと称して。

 アトール議長は訝しむジャヌビアに向けて友好的な笑みを向けた。


「この世界の外に放逐するためには我々が執り行う転送の加護に少しばかりの味付けが必要なのです。そう、できれば水の民(マーヤズル)お得意の破裂玉ボーマのような外的な刺激が」


 なるほど、これで話が見えてきた。光の民と水の民が協力すれば世界の外への放逐などたやすいことだ。しかし水の民の矜持がそれを許すことはない。だからロルカムを送り込んで内部から水の国を変革しようとしたのだ。しかし彼は失敗した。そこでオングリザ先生の成果である能力カリビエを使いこなすこの村に白羽の矢を立てたのだ。おそらく何らかの条件を出す代わりに協力しろとでも言うのだろう。

 そう考えたジャヌビアは長老の様子をうかがう。しかし長老はじっと目を閉じて押し黙るばかりだった。


「長老! 長老のお考えはどうなのですか?」


 ジャヌビアの問いに小さな老人はゆっくりと答えた。


「私の使命はこの村の存続、それだけじゃ。こちらの方々は村の安全を保証すると言っておられるし事が済んだならばこの村の民に『賢人の民』の称号を与えてくれるとのことじゃ。私は謹んでその言葉を受けることにしたのじゃ」


 長老の立場も理解できる。ならば自分ができることはより優位に事を進めることだ、決して彼らの軍門に下らずに、そしてこの村の自由を守るために。


「わかりました。アトール議長、それでは僕たちがお手伝いするには具体的にどうすればよいのかをお話ください」

「おお、ご理解いただけましたか。それならばここからは単刀直入にお話ししましょう。水の国に揺さぶりをかけます。の国にある持たぬ者(ダシュタルニル)の街区、そこに間諜を送り込んで叛乱を煽動するのです」

「水の国がそんなことで揺らぐとは思えないのですが」

「もちろんです。だから見せしめを用意するのです。ジャヌビアさん、ウルスラグナ姫はご存じですか?」

「ええ、ハルワタート王の娘、祝福の子と言われています」

「そう、彼女が近々出立の儀を迎えます。そこを襲撃して彼女をこの世界の外に放逐するのです。並外れた能力を持つ彼女の排除、さすれば水の国も早々に陥落することでしょう」

「わかりました。僕とルセフィがその役を担います」

「お前ら兄妹きょうだいは俺らがきっちり送ってやるよ、そこは心配すんな」

「それではここから先の具体的な話は参謀のシナールを中心として進めさせていただきます」


 こうして円卓での謀略会議は幕を閉じるのだった。


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